『ふわふわの泉』"FLUFFY IZUMI" by HOUSUKE NOJIRI(ハヤカワ文庫JA)読了

Cover Illustration 撫荒武吉 Cover Design 岩郷重力+WONDER WORKZ。

2000年9月から2001年1月まで執筆、2001年4月にエンターブレインファミ通文庫より刊行。星雲賞受賞。2012年7月ハヤカワ文庫。劉慈欣『円円のシャボン玉』の訳者解説に出てきたので、読みました。なんとなく、消臭ビーズのようなものがダイヤモンドを超える硬度を持っていて、しかも廉価で原料も無尽蔵で、それなのでどうのこうのという話と理解しましたが、違うかな。

www.kobayashi.co.jp

消臭ビーズは水分で膨らむ、高吸水性ポリマーという粒です。
この粒の中に消臭液を入れてできるのが、無香空間の消臭ビーズです。乾燥するにつれて、水分が減っていきビーズは小さくなっていきますが消臭剤はビーズに留まるため、最後まで消臭効果は発揮され続けます。

野尻抱介 - Wikipedia

巻末にハヤカワ文庫版著者あとがき。「立方晶窒化炭素」というものだそうで、その物質を検索すると、ほぼほぼ本作が上位に来ます。作品世界が現実を凌駕したんですね。

立方晶窒化炭素 - Wikipedia

dic.nicovideo.jp

ニコニコ大百科には項目がありましたが、PIXIVはちがうふわふわが出ました。

dic.pixiv.net

英題は素直にGoogle翻訳から。泉は、"spring"とかにしないで、主人公の人名なので、そのまま使いました。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

全七章。後半、「マスドライバー」という、TENGAの発展形のような名前の巨大建造物建設に邁進するのですが、どうもそういう名前では本作に登場せず、Wikipediaの本作あらすじに出て来るので、そういう名前だと分かりました。本作発表時には、まだ定型化されていない、軌道エレベーターよりはまだ実現しそうな、混沌のうちにある「枯れてない」技術だったのでしょう(今でも実現してませんが)

ja.wikipedia.org

中盤で、ラピュタに出て来るドーラ一派みたいなのと言ってしまっていいのかどうかの航空ヒッピーたちが大挙北京政府に拘束されます。この辺、ファミ通読者がどういうふうに、劉慈欣サンが「あなたはグラディエイターよ!」と書いた時代の中共を捉えていたかが分かって興味深いです。まだこの頃、西安に端を発した反日デモも、長野聖火リレーでのチベット支持者と留学生との激突も、なかったなあ。ベオグラード誤爆はあって、靖国神社狛犬の冯锦华と保钓の童增の時代、だったのかな?

出だしで、部員二名しかいない浜松の高校化学部が、世紀の大発明を偶然成し遂げるのですが、ふたりとも、父親不在で、泉サンは母親が化学オタクの父親と離婚して四年、父親は最後まで出ずで、昶という後輩は父親はインドネシア駐在で不在。かつて地場産業でそれなりにやってきて、ベンチャーのノウハウのある昶の祖父が後見人的立場で二人はスタートするのですが、まわりのケミオタはみんな老成したもの分かりのよい人物ばかりで、南の島の大統領もまた、豪放磊落ながら好人物です。祖父と孫の物語。庵野某サンが読んだら「父権ガー」とまたいうかもしれません。

浜松という設定なので、相模原のJAXAを訪れる際に、きれいな東京弁で出迎えられる場面があったりします。頁136。潤水都市相模原も政令指定都市ですので、いろんなべしゃりの人がいますし、そんなきれいな東京弁なんてないだろうと思いました。また、主人公たちが浜松弁をしゃべる場面がないので、ちょっとそこは拍子抜けです。「そうなんら~」とか「だもんで~」とか言う場面はゼロ。その辺、作者は三重なので、三河にも尾張にも複雑な感情があるのかもしれません。でもならなんで浜松にしたのか。私は執筆の前の年くらいに、浜松の西武百貨店閉店(理由は道路拡張)に立ち会ったことがあるのですが、熟女キャバクラがたくさんあった認識しかありません。もちろん、当時からブラジル人はいました。

昶はなんと読むでしょう。①そう②なぎ③れん④ひなた⑤みなと

泉はなんと読むでしょう。①ひなた②りん③うた④はるな⑤ゆいな

女子高生ベンチャーというには、すぐ二人は成人して、その後の物語となり、そこはいさぎよいのですが、高卒のまま企業経営にかかりきりだからか、「おいしいものを食べる場面」が、カップ麺を食べる場面くらいで、そこはさびしかったです。性に関してあまりあれこれ描きたくない小説なのは分かったので、それなら食べ物をもう少し出してもよかったかなというのが私の感想。池上永一が念頭にあることはむろんです。

アーサー・C・クラークが意識されているそうですが、アーサー・C・クラークは作中にスリランカ料理を登場させなかったので、本作もスリランカ料理は出ません。というか、まだこの当時はそれほど本格的なスリランカ料理はしられていなかったなと。

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こういうのが出れば、もっとよかったのにな(ないものねだり)以上