『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』"Who is that KAWAII for? The story of how I started a business in Sri Lanka to beat lookism out." by Maekawa Yuna 前川裕奈 読了

なんとなくスリランカの本を探していて、ネットサーフィンで出て来た本。近隣の図書館に蔵書がなく、以前フィリピンとのダブルの女性のミシシッピー川下り旅行記などを買った冒険の書店なら置いてるかと思いましたがないかったので、紀ノ国屋にネットで注文し取り置きしてもらいました。したっけ、副題を正題と思い込んでいて、「ルッキズムをやっつけるためにスリランカで起業する話とか、そんなタイトルなんですが」と書店員さんに告げたところ、書店員さんがまったく完全に本書を取り置き棚から捜し出すことが出来ず、七転八倒の末に、「そのカワイイは誰のため?」という正題があることに気づきました。いくら正題が見えていても、その正題が当該本だと思えないのだから、絶対に探し当てられない。申し訳ないかったです。

そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話 | 旅のヒントBOOK PLUS | イカロス出版

「ゆうな」が御芳名ですが、"yuna"とご自分で書かれているので、感想の題名の著者名も"yuna"にしました。題名をグーグル英訳したら「やっつける」が"get rid of"「排除する、取り除く」になりましたが、「やっつける」なので、"knock out"や"beat it"でいいだろうと思ってそうしました。

イカロス出版 | トップ

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イカロス出版という出版社は知りませんで、航空関係やらミリオタ向けやらの本を色々出している出版社だそうで、さてそこがどういうご縁で著者初の著書を出すことになったのか、は、分かりません。あとがきに編集への謝辞はないですが、あがってしまって書き忘れたのかも。

わたしの旅ブックス | 産業編集センター出版部

産業編集センターの「わたしの旅ブックス」で出せばよかったのにという気もしましたが、海外に出る本ではありますが、留学とその研修、ジャイカや在外公館に就職してその業務での海外生活ですので、旅行じゃないから違うのか。

上は紙版。ここでアマゾン電子書籍の本書を貼りたかったのですが、現時点ではてなブログとの連携が機能してないので、あとで貼ります。

表紙写真 石野明子(Studio Fort)

イラスト 井竿真理子

Special Thanks ウィルソン麻菜

ブックデザイン 小口翔平+阿部早紀子(tobufune)

編集 木澤誠二

私はDTPをいつも書いてません。今回法人でなく個人ですが、いつも書かないので今回も書きません。あとがきでなく奥付にスペシャルサンクスが入ってる本も珍しいです。

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ルッキズムの呪いと20年近く闘った30代女子が綴る ありのままの自分でいるためのラブレター 社会が決めたカワイイにあてはまらないとダメなの?

痩せたら カワイイのに 胸が大きくてうらやましい 美人はいいね これ、全部ルッキズム。 美の基準も、幸せの尺度も、ひとつじゃない 私のキレイは私が決める Beauty comes from Self-Love.

帯裏 紀伊国屋書店のレビューで、これだけしつこくルッキズムについて言及してる本を読んだのは初めて、とあって同感。ご本人の写真を見ると、今の髪型になる前はワンレンで、黒木メイサみたいな感じ。今の髪型ですと、以前知っていた、上智短大を出て妻子ある白人男性との結婚の約束を信じていた、イエローキャブ全盛期の職場の人と同じ髪型です。くせっ毛だとご本人は書いているのですが、そういう髪型の写真はないです。その時その時で先端のSNSツールを選んでいるようなので、mixi時代の写真を探せたらまた違うのかもしれません。インスタから、今はnoteなのかな?

前川裕奈 |note

本書でも卵子凍結について触れてますが、noteでその件はいっぱい書いてるようです。私は卵子凍結なんて現実にあるとは知らなかったクチですので、もしかしてこの人セレブ? と思いました。父親の仕事の都合でオランダやイギリスで育ち、成人後、インドネシアに父親に会いにゆきます。

ご本人がルッキズムの代表格として挙げてるのが、小学校時代、オランダとイギリスからの帰国子女だった前川サンを襲った「デブスパッツ」という綽名。レギンス一枚穿きというイギリスやオランダではごく普通の格好を、これ以上ないくらい直球で冷やかされ、一生のトラウマになります。本書刊行時点で、スリランカで製作して日本で販売してるアパレルも、からだにピッタリするレオタードというかフィットネス。よほど腹に据えかねて、一生忘れないんだろうと思います。ただ、第二次性徴まえの男子にとって、体格の優る女生徒のスパッツ姿は、一種の脅威だったんじゃいかなとも思います。

中高一貫校でおちこぼれかけたり、慶応法科だけ受かればいいと一点集中で受験勉強してほんとに慶応法科以外全部落ちたりと浮き沈みの激しい人生を送られますが、三井不動産をやめて行った米国留学時、研修で北インドに行き、そこでなんとなく、将来もそうした仕事かなと感じたそうです。で、前川サンは米国留学時、尞の地下でビリーズブートキャンプみたいなビデオ見ながらフィットネスをするグループに属してたそうです。それを見た外野が付けた渾名が「チーム・インサニティ」

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セイニティが正気の沙汰も金次第の正気、藤田東湖の正気の歌の正気であることは知ってましたが、反意語がインセイニティであるとはしりませんでした。

ルッキズムと並んで本書で頻出されるのが「ヴィラン」という単語です。加部未蘭とは無関係。

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ルッキズムの反意語は、セルフラブなのかな? 

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「自分を愛する」というと「ナルシシズムと同じでは?」と感じる人はいるかもしれません。
しかし、ナルシシズムは自分を過大評価し、他者の目を気にする傾向にある点がセルフラブと異なります。

前川サンは帰国後JICAに就職し、インドに行くと思っていたのがスリランカに回され、で、在スリランカ大使館の求人に応募し、二年か三年の限定期間雇用ですが、外務省職員となってスリランカに向かいます。タスクは、内戦でどれだけスリランカ人が傷ついたか、そしてそこで日本は何が出来るか、を調べること。

頁128、スリランカではEメールよりワッツアップというアプリでの通信が主流だとか。

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スリランカの女性たちは自撮りが好きで、たくさん撮って自分たちでシェアしてるという。そのコミュニティに入った前川さんは初めて、自分を愛せのセルフラブこそが多謝他者目線の鋳型に自分をはめこむルッキズムを超克する唯一のすべだと気づきます。そして、自分を解放します。

ここ、読んでてものすごく当惑したのが、そんなにスリランカは女性が女性らしく生きられる土地なら、なぜそこで男性から圧を受けて日本で難民申請までする女性が出て来るのさ、という疑問。なんでそんで帰国しないで名古屋の入管で死ぬのさ。自撮りを競い合う、女性にとって素晴らしい環境なのに、なんで元夫のDV圧を跳ね返せず、帰国もしないのか。

…と、どっちかがウソをついている、どっちかが正しくない、じゃあそれはどっち? 確かめてやる、みたく読んでもまったくみのりがなくて、どっちかが事実誤認、どっちが正しくないではなく、すり合わせ可能ポイントがあるはず、と思って読んでいき、ふと、スリランカ女性の自己肯定は、女子校イズムみたいなノリで、女性だけの井戸の中でやってるからおっけーなのではないかと思いました。男性の目がある共学校だと、どうしても男性のモノサシ、それがルッキズムなのかもしれませんし、ヴィランということばで前川さんが表現してるそれなのかもしれませんが、それが入ってくる。

…たぶん、「デブスパッツ」の名付け親は、異性だったんじゃないですかね。そう呼んだのが男子か女子か、実は書いてないんですが、あまり女子っぽくない。それで、オランダ時代自分をポカホンタスになぞらえてしまうくらい自分を肯定していた女子が、日本社会の同調圧力の顕現としての「デブスパッツ」レッテルに、たやすく自分を壊されてしまう。スリランカって、ほかの方の本を読むと、インド亜大陸と共通して、成人女性が女性だけで外を歩くような慣習がなく、買い物のパシリは男子がさせられる。それくらい、籠の鳥として女性は庇護されている。ので、その中では女性は実に自由で、ルッキズムなど気にすることなく、のびのびと自撮りの自分に見惚れることが出来る。

が、それがそのルールを破って外に出ようとすると、殺害予告なんかもあって? ちょっと飛躍な気もしますが、難民申請まで突っ走ってしまう視野狭窄、弱った心になる(ソーシャルスタンダードにはむかったという自覚が不安となって圧し潰される)のではないかと。どうでしょうかこの解釈。

頁102、スリランカ女性はどんな自撮りでも(もちろん同性から見て見苦しかったりハレンチなのはNGでしょうが)SNSにあげるとありますが、そのSNSじたいがmixiみたいな招待制で、事実上の女子校、共学でない世界だとしたら、ありかなあと。男子は閲覧したら女性の親族男性から復讐されるくらいな世界。まあ空想なんですが。

www.kelluna.com

彼女が立ち上げたブランドは、シンハラ語で女性を意味する"kella"リーノ・サンドロヴィッチකෙල්ලと、「日本人女性の名前に使用される「~na」(奈、菜、那など)(自分だろう)を組み合わせた造語だそうで、ならケラナでいいのに、ケルナにした時点で、より、「ケラなゆうな」的意味合いが強まってると思いました。このブランドは、デブスパッツの呪詛が強すぎるので、レオタードというかフィットネスばっかり作って売っています。売ってるのはフィットネスなのに、本の表紙は体型を隠す服、アッパッパというかチュニック。中の写真にはJD時代のビキニもあるので、その辺の複雑さがメタファーとして隠れていて、それを白日の下にさらすなんてデリカシーのないおっさんのやることですので、まあどうでもいいやで。

頁198、フィットネスを着たスタッフ、前川さんをセルフラブ世界に導いてくれた女性とふたりで屋外で撮った写真が載ってます。が、周りを塀に囲まれた線路で撮っていて、なんでそんなひとけのないところで撮るねんと思い、せや、やっぱはずかしいねや、レオタード姿で街中で写真撮ったらさすがにセルフラブの閾値超えてまうねや、と思いました。

頁138

 私にとって、スリランカは愛おしくてたまらない存在だ。けど、同じくらい腹が立つときも正直ある。どんなことでもそうだと思う。たとえば、世界一大好きな恋人だって、殴り飛ばしたくなる瞬間はあるよね? 親子関係、友人関係、思い入れの強いものほどそうなんじゃないだろうか。逆に「好き」しかなくて、夢物語を作り出してしまうのは、現実が見えていないのと同じだ。(略)この国を知れば知るほど好きになっていくが、腹が立つ回数だって増えていく。とはいえ、スリランカを何も知らない人が、スリランカディスるのはどうも受け入れられない。私が言うのは許される、なんて横柄だろうと自分でも思うが(以下略)

ぜんぜん関係ありませんが頁172、LINEやSNSから距離を置く、デジタルデトックスは時に必要よね、だそうです。まったく同感。はてなブログは継続日数があるので続けてますが、ブログなんて閉鎖系に近いので。

私はスリランカといえば名古屋の入管ですが、前川さんにとっては2019年4月にキリスト教徒を狙ってイスラム原理主義者が起こした爆弾テロで、二百人以上が死亡した事件が強烈とのことで、「紅茶の国」「カレーの国」に加えてテロ要素が入って来て、自分は日本に帰ってしまえばそれでいいが、それでいいのかと自問自答し、それで外務省を早期退社、不退転の覚悟で起業します。なるほど。

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcterror_006.html

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以上