『この世にたやすい仕事はない』"There is no easy work in this world." by Tsumura Kikuko 津村記久子 Chapter 1 to 3. 第一話から三話迄読了

済東鉄腸サンの本に出て来た本の中の一冊。どういう文脈で出て来たのか、もうまったく忘れてます。が、読みました。

この世にたやすい仕事はない - Wikipedia

津村記久子 - Wikipedia

珍しく自力で英題を勝手に書きました。ブックデザイン 名久井 直子 写真 井上 佐由紀 扉絵・挿絵 龍神 貴之 写真撮影協力 ニッポー株式会社 読んだのは単行本。2015年刊。初版。 初出 日本経済新聞電子版 2014年5月1日(メーデー)から3月19日まで。

左:禁断のセロテープ補強を施された図書館本あらわる。右:カバーは各種タイムカードをあしらったもの。私の職場は最近QRコードの出退勤タブレット認証を始めたのですが、またこれが、しょっちゅう忘れてしまって、ゆうれい社員になってしまって… 働いてはいるのですが、出勤時に退勤を押してみたり、翌日に未来の勤務をしてみたり、いろいろ、さまざま。

ブラック企業で消耗して退職した主人公が、ハロワの相談員から夢のような仕事を次々と紹介されるが、続くかというと、一話完結なので続かない、という連作短篇。

シチュエーションエスエフの要素があるので、最初の話など、ちょっとコンプラ的にどうかでしたが、次から修正されます。最初の話は、個人の私生活をえんえん監視し続ける話。犯罪の証拠を見つけるためなのですが、そんな株式会社あるかと思いました。社員が監視対象にバラしに行ったら消されるんでしょうか。ただ、えんえん監視カメラを見続ける仕事は実在しますし(コロナカ以降リモートワークになってるのかどうか知りません)中国ならそれこそ以下略

それを会社で行なうことこそ資本主義社会ニホンなのかどうかはどうでもいいですが、頁33、監視対象とのマッチングで合う合わないがあるので、あまりに合わない監視対象を拒否れるよう会社と交渉するために社員間で組合が結成されているというくだりは、西側でありながら社会主義陣営以上に社会主義的(人権が全体主義国家とは比べものにならないくらい守られているから)な日本らしい設定だなあ、と思いながら読みました。

正社員になったら組合に入ったほうがいいと主人公も勧誘されますが(ユニオンだと社外秘の機密事項がダダ漏れになって会社が倒産するからダメなんだろうな)正社員の手取りが十七万と、ついこないだまでの自分と同じ境遇でしたので、むうとうなりました。

主人公は自宅通いで両親は定年後もパートで働いており、食事は別々なので簡単に自炊してます。べっこに自炊しても光熱費はたいして変わらないと思いますが、同じ時間に台所を使おうとしてバッティングしたりしないのでしょうか。シェアハウスも同じ問題があると思いますが、家族なだけにもっとめんどくさそう。

で、職場は自宅の向かいにあって、道路を横断するだけで出社出来ます。一話目なので、そこは素晴らしい設定。

二話目は、バス会社で、バス停もよりのお店の音声広告の原稿を作る仕事。超美声の経理の女性が吹き込んでる会社です。ある社会インフラのラジオインフォメーションなどを担当してる女性(今は男性も担当してますが、その時は女性一択だった)に逢ってみたいと、その施設に新入社員研修で訪れた青年が熱望し、分かりましたと総務がアナウンス部から呼んできて、「ハイ私です」と言った時、呼んだ若造はいかにも世間知らずのスレてない新社会人らしく「あー、ね」と、失望音声と表情を本人にガン見せしてしまったそうです。誰だあんな奴を入社させたのは、などとは誰も言わない超人材難時代。

頁67、「らくがん」が誤植で「らんがく」になっています。月餅(げっぺい)や蓬莱(ほうらい)にはルビ振ってないのに、なぜ落雁だけルビ振ったのか。そして誤植を見逃す。

このバス会社の広告は神がかっていて、ぐうぜんとは思えないことばかり起こるのですが、仕掛け人のちょう有能先輩社員がやめて転職して、偶然が必然になります。この話はよかった。

三話目は、週刊アクションのマンガ下の余白のコラム、もとい、ヤングマガジンのBE-BOPアジア選手権のヤラセ投稿作成、否、お菓子の小分け袋のおもしろ記事を書く仕事です。前職のバス広告作成経験が生きて採用。前任者は私生活のトラブルで休職し、心療内科に通院しているとか。

頁129、「ジャージーデビル」「ロアノーク植民地」は知らなかったので検索しました。スイセンをニラと間違えるのは、実際に私の周辺でもあったことです。あんなギョーザたいへん。主人公(そしてたぶん作者)は「間違える人いるんだろうか」と考えてますが、います。

頁137、FIFA元会長プラッターは元世界ガーターベルト友の会主宰、という記事がファミリー向けじゃないという理由でボツになるくだりは、ガーターベルトとサスペンダーをごっちゃにしてしまい、どうしてこれがお茶の間向きの話題じゃないんだ? チャップリンだってしてるのに、と思って不思議でした。ちがった。ガーターベルトはサスペンダーでなくストッキングだった。

「日本のふしぎな条例」「「助けて!」と「警察を呼びます」を世界各国のことばで言おう!」「世界の悪女」「世界の独裁者」「こんなものもおいしい、おにぎりの具」「少数民族に会いましょう」などなど、おかきの袋裏のコラムシリーズはとどまるところを知らないのですが、「有名な心理実験」がボツになるなど、そこは一線があるようです。ヒット商品の親となった主人公は、それでバズったSNSアカウントの人の台頭や前任者の復職といれちがいに、この仕事も放り投げてしまうのですが、これはどう考えても自傷的行為で、あ、ループだ、あ、また勝手に自縄自縛で追い込んでる、と思いました。ここから残り二話で巻き返すのかどうか。続く。

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