済東鉄腸サンの本に出て来た本の中の一冊。どういう文脈で出て来たのか、もうまったく忘れてます。が、読みました。
装丁 寄藤文平+古屋都美(文平銀座)
著者がルーマニア人なのも、済東鉄腸サンの本に出て来た理由のひとつかと思いますが、本書は日本語で書かれ、下記インタビューで「ルーマニア語では書けなかった」とご本人がおっしゃってますので、グーグル翻訳で機械的にルーマニア語に訳した題名を併記するのはやめました。
最初から、これはルーマニア語では書けないだろうなと思っていました。
あとがきでも上のインタビューでも書いてますが、「水牛通信」というところの編集者、八巻美恵サンという方が、「あなたは書ける」と背中を押したので、一冊にの本になるほど日本語でエッセーを書けたんだとか。
あまりに日本語が上手いので、つい、あとがきの日本語だけちょっと拙く感じてしまい、葉青サンのように、これが地で、エッセー本文は誰かほかの人のスクウェアな推敲が入ってるのかと思ってしまいました。しかし、虚心坦懐にあとがきを読み返すと、あとがきの日本語も上手い。てにをはおかしくない。
上は2016年の記事。獅子舞の研究で奨学生として来日、東大院にまで進んだのでこういう記事が出ます。その一方、田中泯絡みの舞踏ワークショップ?にも参加してるとか。その宴席で水牛編集者と出会う。
Ⓐは亜紀書房のロゴマークみたいです。前からあったのかどうか、記憶にありません。
また、二児の娘の母でもあり、夫と青森に暮らしているようですが、よく分かりません。べっこの人格なので、読者が分かる必要もないというスタンスっぽいです。
難病で厳しい食事制限の済東鉄腸サンには申し訳ないですが、本書を読んでも、食べ物のくだりにばかり目が行きました。堂場瞬一の小説ビルド法は現代においてまったく正しい。
頁082、「さもだし清水森ナンバ」は、ナラタケを青森では「さもだし」と呼び、それと青森県在来種のナンバン、万願寺くらいの唐辛子を合わせた漬物で、昆布や菊も入っているとかいないとか。
頁154、「葡萄の葉っぱに包んだひき肉」は、元町のトルコ料理店にあったと思います。オスマン・トルコ文化圏でポピュラーな料理、と言ってみてイリナサンの反応を見たいという誘惑に駆られるの? 駆られないの? 「駆られてるんですけど~」
頁175、ルーマニアの黄金の味のひとつが蜂蜜で、青森で、そば茶の滓にハチミツを混ぜて食べる冬至の場面。そば茶にカスなんかあったかなあ、あったとして、それをビルマのラッペットゥみたいに食べるものなのか。
頁196、イラクサの若芽。ルーマニアではポレンタといっしょに皿にのせて。青森では「アイコ」と呼ばれ、天ぷらにしたりするとか。ここは、来日した父親に日本食を食わせる場面なので、それもおもしろいです。ご父君ご健勝でなにより。
頁203、高級和食レストランで「女の作る刺身はおいしくない」と言われた女性の話。あれかな、美味しんぼでしたっけ、生理があって体温が上がる期間があるから、それで刺身の温度も、みたいなナマ言って、山岡と海原両方から「バカモノが!」「ナンセンス!」と怒鳴られる場面だったような。模造記憶でなければ。
頁207、「自分で漬けた庭のラズベリー酒」西木正明サンの、アラスカの天然ブルーベリー摘みの場面を思い出してしまうような、如何にも青森な場面。
頁233、イリナサンの祖父はトーストが大好物だったそうで、トーストって、実はあまり西洋人の食卓風景で見ないな、と私は思っています。しかもカリカリに焼いてバターつける。黒パンだと、焼かずにすっぱいまま切ってスメタナ塗って食べるイメージなので、ルーマニアのカリカリトーストの由来は奈辺と思うです。
食べ物のメモはここまで。
イリナサンは若い頃腫瘍で大掛かりな手術をしたそうです。詳細は不明。チェルノブイリの放射線マップと重ね合わせる場面もありますが… ウクライナの隣りはブルガリアで、その隣がルーマニアですから、なんとも言えない。イリナサンの村だか町は、ブルガリア国境だったそうですが。
ロマを彼らの「自称」でなくジプシーと書きます、と、冒頭のあたりで但し書きをしています。ルーマニア語がジプシーで、歌だか詩だかに賛意を表して、だったかな。
頁098、最初のシーカレ、年上の、支配するタイプのマッチョはのちにアルコール依存症になったとか。次のシーカレもまた、ルーマニアのシドアンドナンシーを目指したわけでもないでしょうが、ドラッグと酒でアレだったそう。イリナサンの父親も酒乱の暴力癖がある感じですが、それはチャウシェスク時代の抑圧された世相だからとも。
頁242、中国の女性監督ヤン・リーナーの"Longing for the Rain"が出ますが、知りませんでした。北京を舞台に、ホストクラブやタワマン、幽霊が出る映画だそう。
https://www.imdb.com/title/tt2664074/
簡体字の《春梦》でなく、「春夢」なんだなと。
ルーマニアといえばコマネチなのが私ですが、本書にはやっぱりというか、出ません。イリナサンもコマネチサンにいい印象のないルーマニア国民感情のはしくれを担っているのか、書く機会がなかっただけなのか。で、チャウシェスク銃殺の場面が全世界に広まったことは書いてますが、私はあんましそれを見た記憶がないです。ムッソリーニと奥さんのパヌッチペタッチが逆さ吊りされたイタリアの写真は見てるんですが。
済東鉄腸サンの本に出て来た本で読もうと思ってる本は、あと三冊は少なくともあります。がんばろうてきとうに。以上