『1984年に生まれて』《生于一九八四》郝景芳 "Born in 1984" chapter 15. by Hao Jingfang 第十五章 読了

2010年の春から夏にかけて、主人公はかつての旧友たちが暮らす中国各地を断続的に訪ねます。

二ヶ所目は江西省。南昌蜂起や景徳鎮があるので、それと知らず訪れたことのある邦人も多いのでは。私は、この省もわりかし客家が多いんだよなとか、赤茶けた大地ばかりだと思いながらバス旅行したことがあります。古来から華南、珠江デルタと長江流域を結んでいだ湖南省ルート、太平天国軍の進撃もSARSの感染ルートも辿った湖南省ルートの隣りに出来た新ルートを旅してみたかった。ほんとはそのさらに東の、福建省ルート、湖州や温州から福州琉球館跡地を経てザイトン、アモイへと至る道、お茶をchaでなくteと呼ぶ希少世界、閔南語閔北語の世界も旅してみたかったのですが、縁がないまま、このまま人生は終わりそうです。

主人公は旧友に再会した後、江西省景勝地、廬山昇竜覇と九江を旅します。

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主人公はどこに行くにもユースホステルに泊まるそうで、若い女性ならそれがいいでしょうと思いました。まあ日本の北海道旅行、利尻島ユースホステルで知り合ったのが縁で結婚しますたとか、そういう意味ではなくて。ただし私の知っていた頃の中国は世界ユースホステル協会に加盟しておらず、中国でユースホステルを名乗っていたのは、広州の沙面のユースホステルだけで、そこも、むかしは世界とつながっていたのかもしれないが、人民共和国(中共)の当時はただ名前がそうなだけで、ユースホステル協会とは何の関係もないかったです。その後、正式に加入し直したんでしょうね、たぶん。まさか《万能青年旅社》なんてバンドが中国に現れるとは、难道我被大石碎胸口でした。

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中国浄土宗は廬山東林寺が開創で、慧遠大師がどうのこうのと書いてます。漢訳仏典とサンスクリット(もしくはパーリ語仏典)のオウガ・バトル。

そっから一気呵成に深圳へ。私は深圳は黒人が多いなというイメージしかないのですが、普通話者にとっては、広州なんかよりずっと落ち着ける街であることに間違いはなく。広州の天橋のジャスコの〈鳗鱼饭〉(うなドン)はオイシイと聞いてはいたのですが、三十元くらいしたのかな、そんなの吃不起。とまれ、シンセンは中国嫁日記のゲツサンが瀋陽出身なのにジンシャンと出会うまで働いていた街。

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珠海は知り合いがいたのでちょっといたことがあり、まだF1レースとかもこれからの時代で、後年《少林足球》で珠海のホテルが決勝戦前泊で出て来たり、そのホテルで邦人が集団買春で刺されたりをニュースで見ましたが、深圳にそうした思い入れはありません。珠海は一歩外に出ると、サトウキビ畑が多かった。

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 深圳から列車に乗るとたちまち香港につく。

恭喜回归(略 むかし私が羅湖で入境排队のための長い長い、長城のような鉄柵を見た(ただし並んでる人はもういない時代)のも今は昔。ちなみに私は、ネパールのコダリからチベットのダムにかかる国境で、出稼ぎのネパール人が毎朝イミグレに並ぶのも見てます。カシュガルからパキスタンに抜けるクンジュラブ峠には出稼ぎのパキスタン人はいなかった。紅河からベトナムに抜ける友誼関にも出稼ぎのベトナム人はいなかった。密輸のメガネザルなんかを売りつけに来た商人はいましたが。ビルマ国境のルイリーにはいったことナシ。北朝鮮国境の、图们先の金三角で、春節に浮かれて豆満江を渡って北朝鮮の親戚に会いに行って向こうで捕まってフルボッコにされて護送される青あざだらけの目隠し朝鮮族虜囚を護送中の公安から面と向かって、"中国、大!!!"と言われたことは以前書きました。ロシア国境の黑河と绥芬河にも行ってるのですが、また私はそこで残留孤児二世三世と思われたようで、漢語も満足に話せない状態で止まっちまってよぉ、みたいな話を木こりだか炭焼きの山東大漢のオヤジたちが話し出し、こないだなんか、〈多大〉を知らないから相手が何歳でも〈几岁〉(幾歳)って聞いてくる奴がいて、五歳の時に中国を離れて親の出稼ぎにくっついてロシアに行って育っちまったからみたいな話をされてしまいました。要するにそこではその時代中国人のほうがソ連に出稼ぎに行っていた。

その後愛国者の男友達とネオリベの男友達に会い、相反する意見を聞きます。前者によると、日本とアルゼンチンは米ドルに引き摺られて崩壊するんだそうです。

じゃあ日本でもチェーンソーマンが大統領になるしかないという。その前振りで。

最後に、既婚者とつきあって、相手は家庭を清算して自分と正式に法的関係を持つつもりがないので結局遊ばれて終わっただけみたいに周りからカテゴライズ完了済の元ルームメイトに会いに行きます。今これを書いてて、《婚外恋》という単語を想い出した。「婚」は"fun"ではなく"hun"

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(略)ドアを開けると私を迎え入れ、紅茶を入れてくれた。キャミソールにヨガパンツ、薄い長袖のブラウスをはおった格好で、落ち着いた表情をしている。(略)クッションを抱き足を縮めてソファーに沈み込み、髪はサイドに垂らしている。

本書のアマゾンレビューで、中国のお話ということで、とても同世代とは思えない、自分の親の世代のようだ、というのがありましたが、ここを読んでもそう思うのか。一気に鼻差に詰められて、ほとんど同時代だと思う。

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 私は彼女の部屋にぐるりと目を走らせた。単身者用のおしゃれなアパートで、1DK。カウンター形式のキッチンで、オーブンははめ込み式。中央のカウンターには半自動のコーヒーメーカーがある。壁際のミニテーブルには、桜の模様が入った白磁ティーセットと一輪挿しがあり、一輪挿しには季節に合わせて白いバラが挿してあった。

まるでトレンディードラマのセットのような。私はむかし、モスクワやレニングラード、否、サンクトペテルブルグの地下鉄駅出口に花売りがいるのを見て、花を買って家にいつも挿していられるような、心に余裕のある生活を心がけたいな、と誓いましたが、中国でもそれを実践させているとは。ヤラレタ。

この感想で私が天津に行った時のことを書きたかったのですが、もう時間切れなので、別の章に書きます。で、主人公が最初に行ったのは山東で、〈于〉姓の友人に会いに行きます。読んでて死ぬかと思った。以上