『はみだす緑 黄昏の路上園芸』"HAMIDASU MIDORI(Sticking Out Green)Street Gardening at Twilight." written and photo by Murata Ayako 文・写真 村田あやこ Design and Illustration by Fujita Yoshimi デザイン・イラスト 藤田泰美 読了

ビッグコミックオリジナル連載『前科者』ロイホ読書会に出て来た本。さくっと読めるかと思ったのですが、意外にも私の中にいくつか、本書の世界に対し、心理的抵抗がありました。

はみだす緑 黄昏の路上園芸|その他|書籍|雷鳥社 Raichosha

協力 干潟裕子 エリーズカフェ

編集 林由梨

著者のおふたりは路上園芸観察をテーマにした連載やグッズ製作、作品展なども行っているそうですが、本書はそれをまとめた本ではなく、新たに書き下ろした感じです。どこにもそう書いてませんが、そう受け取りました。

(1) 架空の登場人物たちの住む架空の街の架空の住居(兼店舗含む)の鉢物やら植木やらの諸相を綴った本です。登場人物たちは五十代六十代で、誰もが一軒家に住むおひとりさまで、要するに孤独死予備軍の資格保持者です。おそらく都内23区内であろうので、逝去後は速やかに取り壊されて分譲住宅が立つと思われるのですが(更地になる際に路上園芸はすべてバニッシュ)ひとりだけバツ3のスナックママがおり、彼女のお店が借地でなければ、バツ3のあいだにこさえたお子さんたちのあいだで何かが勃発する可能性があり、そうなると身動きがとれず、スナックは阿頼耶識、否荒屋敷(©西遊妖猿伝)になる可能性があります。少なくとも私はそう感じました。⇒よく見たら「居ぬき物件」とあり、大家さんが今現在はおおらかなんだなと思いました。ので、そのうちすぐ建て替えられると思います。葡萄の木もオバケアロエも、その時すべて消える。

(2) 著者のおふたりのプロフィールに年齢は書いてないのですが、本書の活字フォントが現在の活字本主力購買層の五十代以上には読みづらい小ささなので、それより若い方だと推理しました。スマホの画面の字も小さいのであろう。「奇跡の66歳✨本当のキレイは60歳から」という情報が村田あやこサンの検索結果に出ますが、たぶん同姓同名の別の人だと思われます。顔が違うので。ふたつの顔を持つ女だったらごめんなさい。

(3) 登場するお一人様一軒家のうち、「しげる邸」は最近取り壊されて更地になって売地の看板が立った、南林間のペトロールステーションと天保元年創業のおそば屋の間のおうちが似ています。バーバーは東福生駅前のが比較的似ているような気がしましたが、「かあいい」がキーワードだとすると似てないです。スナックは座間にあった「お茶とお食事ちょこっとお酒」のお店が似てる気がします。でももうないんじゃいかな。たむら邸と喫茶店は私の知ってる建屋で思い当たるのがないです。誰もが似た住宅や店舗を思い浮かべられるように設定されてるとは思います。

(4) 「おわりに」の次のページに、参考文献一覧的なページとして、主人公「たむら」58歳男性独身出版社勤務事務職の本棚に並ぶ本が出ます。ここがふたつめの違和感で、路上観察学の赤瀬川源平や建築探偵藤森照信、それから私がご芳名を存じ上げなかった水村美苗、否岩谷美苗サンという樹木医で森林インストラクターの人の著書ですら二冊しかないのに(共著含む)いとうせいこうの本が三冊も並んでいて(共著含む)ネッスルの朝ゴハンは心底どうでもいいので、ノーライフキングダムを教祖と崇める人の本ならどうでもいいかなと思いました。

(5) 「はじめに」によると、作者の想定は東京の下町、向島や月島、根津などの「路地」だそうで、ああいうところの路地は私道でしょうから、そうであれば公道の無断占有などの実態はさほど考えなくてよいのですが、とにかく私は京都に来た初日に、路上にはみ出た植栽はなべて不法占有の尖兵で、目的は常時路駐可能ゾーンの確保、ので、そういう一帯はガラがアレで、どういうアレかというと、といった講釈をえんえん聞かされましたので、どうしてもそういうイメージがあって、福岡出身の著者にはそういう経験ないのだろうかと思いました。違和感ファースト。今は車買う際の車庫証明提示が往時とはくらべものにならないくらいスクエアなので、それでそういう経験がないのかもしれない。下記の本で知った「かすうどん」が、しれっと大阪名物として東京進出した時のような、居心地の悪さがあります。知っててスルーして書いてるのではないかと横目で見たくなる気持ち。

なにしろ日本は、ブルージャイアント『岳 みんなの山』の主人公(日本アルプスにテントで暮らす)でさえ、国有地不法占拠の社会不適合者というレッテルが貼られるわけなので…

(6) 頁52。私は、セブニレブンのカラアゲ棒やハミマのつくね串を買って食べると、その辺のやわらかい土に串を根元まで刺すという人を知っています。それ以上は書きません。頁59。台風の時などすべて飛ぶ気がします。それで隣家の窓ガラスを割っても、保障能力なしでおとがめを免れるのでしょうか。頁103。この喫茶店は、高田馬場の「らんぶる」だったのかもしれない。と書くと、本書の女主人に失礼かもしれません。焼いてない食パンを「トースト」と称して平然と供するような店ではないはず。頁129。頁130。マンションの住人が、育てるのに飽きた鉢植えを眼前の舗道の植栽に混ぜて放棄する事例は私も見たことがあります。頁124。舗道を囲む花壇。これが町内会のしわざならその通り、そうでなければ、駐車スペース確保目的の可能性も。頁135。枯れ植栽。よく分かります。枯れる時は枯れるので。

(7) 巻末の「路上園芸アイテム集」にも下記はないはず。勝った(誰に?)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/stantsiya_iriya/20151129/20151129003052.jpg

ローズマリー大繁殖 - Stantsiya_Iriya

以上

【後報】

下記は店舗前スペースに勝手に駐車されないための路上園芸。

鶴間 休業日だと思うのですが、最近行ってないので、高齢でお店辞めてたりするかもと思いました。

これは猫など小動物に入られないように植え込みを置いてる例かな。まさかホームレスのねぐらにされないようにだとは思いませんでした。

(2024/2/12)