「PERFECT DAYS」劇場鑑賞

週末のピーター・バラカンサンのラジオ番組であまりにこの映画のことを話していたのを聴き逃し配信で聴いて、今日は雪の予報で、月曜が割引のイオンシネマに十時の回があったので、行きました。二十人くらい観客がいまして、みんな同じクチではないかと思いました。上映前は降ってなかったのですが、こりゃ出る時は降ってるかなと思ったら、ほんとにそうでした。

イオンシネマは上映中の作品のポスターとかないかったので、チケットを撮りました。

上映が終わると雪で、近所の高校の生徒さんたちが傘もささずに雪まみれで歩いてました。アホみたい。

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ピーター・バラカンサンなどはこうした生活を横目で見ている段階なので、うらやましいと思うのかもしれませんが、手に入れてしまってる人はたくさんいると思います。そこで満足出来ず永遠にジレンマ、嫉妬、焦燥の炎に身を焼かれている「足るを知らない」人は置いといて、こういう仕事はほどほどで生きて行こうという「諦念」の人以外に、本格的に社会復帰する前の「ならし」の段階で矯正絡みの人に割り振られることが多いと思いますので、後者はステップアップすれば当然離職します。柄本弟の映画での描かれ方は誇張されてますが、現実に妻子を養うとか考えだすともうこの仕事は出来ないと思います。午後三時の銭湯開業前に上がれる仕事で養えるのはギリおひとりさま。

主人公のパーフェクトデイがいちばんおびやかされるのが、欠員でシフトがまわらなくなってほかの人(柄本弟)のぶんまで働かざるを得なくなる場面で、それまでおくびにもだしてなかったのが、いきなりアンドロイド型ガラケー(なんでみんな私と同じケータイにしたがるのか。画素数ないのに)は出るわ会社に何度も電話するわで、そうとうおびやかされてると思いながら見ました。そうなるともう田中泯とかアウトオブ眼中。で、日常が帰ってくるのが、強硬にシフト補充を会社に要求した結果で、それで安堵してまた木漏れ日の日々が戻ってくる展開に大爆笑しました。私も、おびやかされるのはこれくらいのことだけでいいです。これ以上は、あるんだろうけど、とりあえず回避出来れば回避したく。

いくつか、なんだなあと思う点がそりゃなくもなくて、いちばんあれっと思ったのが、①主人公が仕事の移動で高速道路使ってる点。いくらお金かかるんだか。小池都政は太っ腹ですね。契約に関し経費を削って安く請け負うわけでしょうから、上なんか使って移動してたら経費がかかりすぎて、会社は都から仕事もらえなくなるんじゃいかと思いました。ぜったいこういう予算は都民ファーストの会以外の政党から厳しい目が向けられているはず。映画としては、ソラリス直伝の昭和通りあたりの地下高速も現代の環状バイパスも、全部見せたかったので不問にしてるんでしょうが、掃除の仕事は安いので、首都高使い放題って、ありえないと思いながら見ました。

②主人公は出かける時、アパートの部屋の鍵をしめない。少なくとも役所広司(差し入れしない俳優)サンは「あれ、今家のカギ閉めたっけ? ガスの元栓しめたっけ?」という不安にかられない。ここは、ガイジンサン監督なので、日本の安全神話を皮肉ってるというか、インバウンド視聴者をたぶらかしたいのかと思いました。ハリウッド映画は車のカギがかかってないのですぐ車に乗れるという「ウソ」がありますが、この映画はダイハツの軽1BOXいちいち鍵かけたり開けたりしてますよね。每个公共厕所也是备锁好的仓库。役所广司先生每次带着无数的钥匙进出公厕打扫卫生,钥匙不停地发出声音,嘎查嘎查,嘎查嘎查。そのかわり家の鍵かけない。海外向けウソ。

役所広司サンは読書時リーディンググラスかけてるのですが、運転中は眼鏡かけてません。遠中用も要ると思うのですが、ここもちょっと設定あまいかな。

④季節が夏なんだかなんだか分からないので、網戸がないのに蚊が入って来ないのかとか、クーラーないと暮らせないだろうとか、部屋自体を見ていて思うことはありますが、実はこういう物件はまだまだ保証人のモンダイでガイジンサンお断わり(ボッタのまた貸しでアジア人(韓国人など)から別のアジア人(ネパール人など)へ、などの例外はあり)が多いので、住み心地等に関して、ヴィム監督には実感がないのかもしれません。

⑤この映画の公衆トイレは、TOKYO2020に向けた小池都政「O・MO・TE・NA・SHI」の余波というか、遺産アピールですので、掃除しがいがあると思います。ほんとに汚い(古い)トイレばっかりのゾーンは映画で役所広司サンが暮らすあたり、東京の東の方だと思いますが、リトルデリー近辺の公衆トイレは出ません。

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電気湯に行ったことはありません。オリンパスのカメラも分かりません。カセットテープもフィルムカメラも「映画の小道具」としては分かるのですが、実際に使い続ける人はどうなんだろう。私事ですが、最近故人のフィルムが発掘されたので現像を頼みに街のカメラ屋に行ったら、もう街のカメラ屋ではそういうの受けてないので、キタムラにでも行ってみてくださいと言われました。曳舟のあたりがどうかは分かりませんが、なので、オリンパスカメラの場面も、ガイジン監督のファンタジーの可能性もあります。

⑥昼食のサンドイッチはまあいいとして(どれくらい昼のコンビニが混んでるか、店員はナニ人なのかは描いてほしかった気もします)500mlの紙パックは、ヴェンダース監督が出したかっただけだろうコレ、と思いました。日本特有なサイズと私は思いますので、監督もそう思ってるにちがいないと。じっさいは、役所広司さん演じる清掃業の人たちも、マグボトルにあったかいお湯とかお茶とかいれてることのほうが多いと思います。昼に500ml牛乳飲み切るほど胃が丈夫でないと清掃業は務まらないという設定だったりして。

❼これはケチをつけてるのとは別の話で、役所広司サンの映画のふとんの畳み方は邦人のそれですので、実はここで、ふとんのたたみかたが中国式の〈叠被子〉だったりして、そこで役所サン演じるヒラヤマサンのルーツが垣間見えたりすると、とたんに胸熱だったのですが、そこまで細かいオリエンタル間のちがいの理解をドイツ人のヴェンダースサンに求めてもやんぬるかなと。

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中国でも〈叠被子〉の方法はあまりに自明の理だからか、詳しい図解がぜんぜん見つからず、ふとんの西川公式で「業者のたたみかた」と書いてある方法が、実は中国式、と思いましたが、やはりちがう。上の動画でちょこちょこ断片的に出る畳み方が正しいのですが、図解がないな~。

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三つ折り×三つ折りが基本!長方形の布団を、まずはタテに三つ折り。この状態から、さらにヨコに三つ折りにすると、とてもコンパクトになるんです!

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後半どんどん役所広司サンの顔が、中村哲医師みたいな顔に見えてきて、困りました。ぜんぜん違う顔なんですけどね。

⑧実家が実は裕福で、親の遺産相続前という設定が出たので、もしこの映画にアンチがいたら、アンチ的に「だから余裕なんでしょ、いつまでもピーター・パンのキリギリスやってられる。少子化対策にも貢献しなかったし」と言われそうだと思いました。ただ、実はそういうモラトリアムガイジンって、一昔前の東京遊民白人のひとつの典型でしたので、ヴェンダースサンがそれを邦人に仮託して描いてもぜんぜんおかしくないです。おもしろいもので、そういうオボッチャン白人サンは全体主義国家の中国にはあまりいつかず、資本主義国家でも人質リスクなどのあるフィリピン等にも腰をおちつけない。日本や香港、韓国くらいだとちょうどいいのかな。原宿のガイジンハウスにいた青年と結婚した子持ち邦人女性が、青年の家に行ったら、カナダでしたが、門から敷地の中を建屋まで車で走るような豪邸で、はたしてデュポンの御曹司だった、という話は前にも書きました。

幸田文を私は「こうだ・ふみ」と読んでましたので、違和感しかありませんでした。

『11の物語』がパトリシア・ハイスミスとは気づかず、わりと早くから伏線が張られていたわけですが、三浦友和が出てきて、初めて、おおっ、アメリカの友人キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! とグッとなりました。アメリカの友人がないかったら、私の中ではこの映画は、ないものねだりに憧れるヴィムサンの、首都高乗りまくり映画でしかなかった。

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台湾での中文版予告篇。漢語版のみ"My Perfect Days"になっています。ほかの言語は、とりあえずウィキペディアを総ざらえした範囲では、ただの"Perfect Days" 私も、にんげんの幸福は、相対的なものでなく、個々人の絶対的な尺度で決めるものだと思うので、"Wode Wanmei Richang"でいいと思う。

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文导演知不知,刮风使叶子发声音,阳光给树木做影子的场面不是你和小津导演,只两个人的共同语言,别忘记还有侯孝贤导演呢。可是我现在不想存在侯导演的新电影。我只是想大家没事能过漫长而和平,平凡的日子。就是。以上

【後報】

アンドロイド型ガラケーについて補足すると、銭湯のピンク電話で、姪のニコに隠れてニコの家族に連絡とる場面がありますよね。ここ見て、彼はこんまりメソッドのミニマリストか何かで、イエ電もスマホも持ってないんだなと思って人も多いと思います。それがいきなりガラケーパカで柄本弟から電話来たりするので、肩透かしを食らった人も多いかと。ここは設定矛盾してしまうけど、どうやって柄本弟が仕事突然やめる展開をスムーズにやれるか、苦悩した上でこうなった気がします。ガラケーは非常時連絡用に会社からもたされてるのではないかとか、そもそも銭湯まで行かなくても公園て110番出来るよう公衆電話がまだ置いてあったりしないっけとか、思う人は思うと思います。が、この映画は答え合わせなどしませんので、矛盾は矛盾のまま放置されます。

新作パヤオ映画でも、伏線回収しないそうで、最近はそれがトレンドらしいのですが、ペルフェクトダイズで言うと、ガス欠で路駐する場面などまさにそれかと。流して見ていたのでつい放置してしまいましたが、ここ、オチないですよね。やおいだ。ここは絶対首都高の高架で立ち往生する初期構想だったのが、脅してもなだめても撮影許可が降りず、泣く泣くその辺の路上になったのではないかと。JAF呼んだのか柄本弟がジェリ缶持って現れたのか分かりませんが、ガソリンの携行だとすると、京兄を連想するのでよしましょうよ、で、ボツになったのかもしれません。この車に携行缶が積んであって、自分でその辺のスタンドに行って入れたのかもしれませんが、今はそれも京兄の影響で、携行許可証がないと売ってくれませんので、ヴェンダースサンが甘く考えたシナリオを、若手が誰もチェック指摘せず、撮影終わってから「これだめだよ」と柴田元幸サンあたりからダメ出しボツくらってたら面白いのになと思いました。ガソリン代のお金ない描写があったじゃんと言われても、免許証コピーさせて泣き落とししてツケで売ってもらうとか、銀行からお金おろすとか、そこはいろいろでしょうし、ガソリン専用のカードもってるかもしれない(安くなるし)

しかしこういうオチのない終わり方って、今の中国映画*1の、検閲でカットされて話のすじが通らなくなってしまう現象と紙一重ですので、趙リッケンバッカーサンのような報道官なら、日本でも同じ問題が起きており、中国のは正当な理由があるが、日本のそれは理由が明かされてないとムチャクチャなことを云うかもしれません。そうした理論武装に使われたらかなん。

(2024/2/7)