『九年目の魔法』(Magic of The Ninth Year.)"FIRE AND HEMLOCK" by Diana Wynne Jones Translated by Asaba Sayako 浅羽莢子訳(創元推理文庫)読了

何かで読もうと思い、ずっと図書館の「いつか借りるリスト」に入れていた本。もう読もうと思った契機は思い出せません。とりあえず読みました。

九年目の魔法 - ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/浅羽莢子 訳|東京創元社

きゅうねんめのまほう」と読んでいたのですが、版元公式を見ると「ネンメノマホウ」とあり、ほんとかよ(大阪弁で「ホンマカイナ」)と思いました。こういう時「じゃん」は使えません。

カバーイラスト=佐竹美保 カバーデザイン=NORIC 解説 三村美衣

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本書時点の1994年ではまだですが、十年後にはジブリ製作キムタク主演「ハウル」原作者ということで有名になり、かなり作品も邦訳されたそうです。でも私にその知識がないので、別方面から読もうと思ったはずです。恐怖小説絡みだったか、SF邦訳絡みだったか。

www.mystery.or.jp

邦訳者の方はインドのボンベイ出身だそうです。本書を読んだかぎりではそう書いてないのですが、検索したらそうだった。

解説者の人は書評家だそうです。

www.ohtabooks.com

Fire and Hemlock (English Edition)

Fire and Hemlock (English Edition)

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原題は、作中に登場する、鍵となる絵画だか写真「炎と毒人参」です。主人公の少女はこれを魔女の一家から盗んだがために、九年間現実世界とすり替えられた世界の往還生活に苦しめられることとなります。

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表紙(部分)魔女自身は表紙には出て来ないですね。上は魔女の再婚相手か、きょうだい。右の少年はその子か、近郊のまち?の雑貨店の息子。左の丸眼鏡は、魔女の離婚したパートナーで、主人公のアシナガおじさんみたいな役割。

なにか、おかしい。壁にかかった懐かしいこの写真も、愛読してたベッドの上のこの本も、覚えてるのとは違ってる。まるで、記憶が二重になってるみたい。そう、ことの起こりはたしか十歳のとき。大きな屋敷にまぎれこんだら葬式をやってて、そこでひょろっとした男の人、リンさんに出会って、そして、なにかとても恐ろしいことが始まって・・・・・・少女の成長と愛を描く現代魔法譚!

カバー裏。あらすじ。そのお屋敷では九年目の万聖節ごとに葬儀を出すそうで、死者は男性。その死の犠牲で魔女はアレなわけですが、なぜかそこに主人公が闖入して、ドタバタになります。フレイザーの『金枝篇』がよく出ます。

これも表紙(部分)私はターミネーター2以前と以後で、CGというものが劇的に進化したと思っていて、紙のファンタジー、マンガや小説も、意識下でそうとう映画の影響を受けていると思っています。この小説はヴァーチャルエフェクトがCG以前の「グーニーズ」とか「グレムリン」のころのレベルで、そんなぎこちなさ、唐突さで甲冑が動いたり、絵が現実になったりします。今のマーベル映画は比べものにならないくらい細密なので、もっとなめらかに動けるはず。それ以前だな~と。

表紙(部分)頁149に、新人いじめで、ありもしないものを買いに行かせる例として、

「左利き用の金槌」「肘油」が出ます。魔女のイビルアイによる呪いはそういうレベルではないです。

カバー折のキャラ設定の一部。父母共に別のパートナーがいるという。しかしそれぞれ新しい相手にも満足しておらず、生活費だけが足りないまま、不満が蓄積されて日々が過ぎてゆくという。こうした家族社会が極北にいきつくとおばあちゃんのハリポタ焼きが始まるだけですが、(「おばあちゃんのハリポタが、ぽたぽた、ぽたぽた」)「幸せになりたいだけなのに、なんでなれないの」と、子どもの前でヒステリーを起こすだけの母親から追い出されるネグレクトが、魔女の最大の攻撃と思いました。父親は、パートナ―の手前、引き取るなんて1㍉も言えないこれも底辺収入。サッチャー時代の"This is England"の実態の一部として、ノエル・ギャラガーがどうこう言っていた、と、ブレイディみかこならうまいことまとめることでしょう。

そんな本です。ほんとに、第二次性徴を迎えてから、ブラをつけ出してからいきなり話がシビアになる。で、親友のキャラが、何かストーリーに絡みそうで絡みそうで、それで最後までアレなのもシュールだと思いました。そうした生活も、大学生になって、ハロウィーンがまた巡ってきて、魔女と対決して、終わる。以上