『11の物語』"ELEVEN" by Patricia Highsmith パトリシア・ハイスミス 小倉多加志 訳 Translated by Ogura Takashi〈ミステリアス・プレス文庫27〉読了

ジム・ジャームッシュヴィム・ヴェンダース監督「ミステリー・トレイン」否「パーフェクト・デイズ」で、主人公とそのメイド否姪の二胡否ニコが読んでいた本。関係ありませんが、否という漢字は杏に似ている。

現在電子版で読めるのは上記だけ。

私が読んだのは左からふたつめと真ん中。"with a Foreword by Graham Greene" が下に書いてある表紙の、1990年当時ハヤカワがやっていたという「ミステリアス・プレス文庫」版。

THE MYSTERIOUS PRESS Tokyo・New York・London ミステリアス・プレス・グループは提携・協力のもと、世界のすぐれたミステリ作品を出版しています

洋書の表紙をそのまま使ったのかと思いきや、カバー・石丸千里 巻末に訳者あとがき。

その後ハヤカワ文庫になって、いちばん右のガラス瓶とカタツムリの表紙のものと、草間彌生みたいな表紙のものが出たようですが、いずれも現在新刊品切れ再版未定のようです。

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11の物語 (ハヤカワ文庫. ミステリアス・プレス文庫 ; 27) | NDLサーチ | 国立国会図書館

全然関係ないですが、「11の物語」ってタイトルの本、いっぱいありますね。

映画ではニコが「オジサン、この小説のすっぽんは私よ」と言うのですが、カタツムリの表紙のが多いです。しかし洋書にはスッポンが表紙のもありました。

私は先年のパトリシア・ハイスミスの映画を見逃していて、ちょっとくやしいです。この人もすごい人生で、死後若い頃撮られたヌードが流出するとか、どう考えていいのか分からない。リプリー・シリーズの新刊が柏書房から出た時は即買いました。まさか柏書房から出るとは。シャーリィ・ジャクスンの私生活を描いた2020年の映画が今夏日本公開されるそうですが、マーティン・スコセッシ製作総指揮と聞いて、余計観ない気がします。

ちなみに映画ではフォークナー『野生の棕櫚』幸田文『木』も出るのですが、ガイ・リッチー監督否ヴィム・ヴェンダース監督のそれまでの作品との関連がよく分からないので、読んでません。ヴェンダース監督はかつてリプリー・シリーズの『アメリカの友人』を、舞台をフランスからドイツに移して、デニス・ホッパーリプリーにしてしまうという荒業で撮っていて、それが「パーフェクトデイズ」の三浦友和の伏線でしたので、読みました。

野生の棕櫚(参考写真)

序文はG・G。グレアム・グリーンハイスミスサンの手法を「不安の詩人」「不安感」「不安の研究」「閉所恐怖症ものの最高傑作」と看破しています。AIにそれを読ませたらAIも同様の評価をするでしょう。

かたつむりの観察者』"The Snail-Watcher" これを読んだ後、レタスの切れ端を見る度複雑な思いに駆られたのを今思い出しました。多分京都で読んでます。

恋盗人』"The Birds Poised to Fly" 『太陽がいっぱい』とジュード・ロウの『リプリー』を見て、自分もこうやって筆跡を真似た手形詐欺で一生遊んで暮らしたいなあ、と人に言ったら、そんなの現代でバレないわけないだろと一刀両断にされました。国際ロマンス詐欺。

すっぽん』"The Terrapin" でらべっぴん。ニコはこの作品の主人公を自分になぞらえてましたが、これ以降の作品については、なぞらえるどころではなかったのか、沈黙してます。それだけ、これ以降の作品の幾つかは手に負えない。フランスの話なのですが、主人公の名前がヴィクターとドイツ風なので、ヴェンダース監督的には気になってるのかも。

モビールに艦隊が入港したとき』"When the Flete Was In at Mobile" グレアムサンはこれがいちばん好きだとか。私も最後のくだりの、めくるめく失地感が大好きです。地面の底が抜けて落下するあの感覚。井筒監督「ガキ帝国」で、愚連隊たちが小遣い稼ぎ目的に、こぞって不良少女たちやカルい子たちをだましてちょんの間に送り込む場面も思い出します。

頁83

「一度に十人の男と寝る女は、絶対に妊娠しないんだ!」

クレイヴァリング教授の新発見』"The Quest for Blank Claveringi" ロストワールド、歌うピーナッツ、ジュラシックパークのオデブチャン、という三大噺。巨大カタツムリが出ます。

愛の叫び』"The Cries of Love" 三婆ならぬ二婆。歓びも悲しみも幾年月、いたずらの愉悦も佳境。

人は愛し合うと、 - なぜ傷つけ合うのでしょうか。不思議で ... Yahoo! JAPAN 2008/12/02 — ... 傷つけてしまうのだと思います。 「無償の愛」は、相手からの愛を期待しないで、一方的にでも注げる愛なので、傷つけあう事もないでしょう。 でもこの愛 ... 回答 4 件 ベストアンサー: 愛情の裏返しは、憎しみだから。 愛すれば、愛するほど実は、心の裏で憎 ... 傷つけ合うんでしょう。それは愛してないのか…。自分が可愛... 2009年12月25日 一緒にいたいけど、傷つけあう関係って相性 ... - Yahoo!知恵袋 2013年2月19日 どうして好き同士なのにお互い傷つけ合ってしまうのでしょ ... 2011年8月18日 “傷つけあうほど愛し合う”ってなんですか?私はまだ14歳 ... 2007年9月8日 detail.chiebukuro.yahoo.co.jp からの検索結果

アフトン夫人の優雅な生活』"Mrs Afton, among Thy Green Braes" 保険診療の日本では身元確認の点から、起こりにくい話かも。でもカウンセリングなら日本も保険外だし。

ヒロイン』"The Heroine" 「志村~、うしろ」的な状況に読者を追いやる作品、とはグレアムサンの弁。「ダミアン、あなたのためよ!」

もうひとつの橋』"Another Bridge to Cross" イタリア断章。イタリアは泥棒が多いという定説の証明。

南イタリア周遊記 - 岩波書店

野蛮人たち』"The Barbarians" アパートの前の道だか空き地だかでヤンチャな連中がキャッチボールをしていてウルサイのだが、未成年ではなく成人の半グレっぽいオッサン連中なので、注意してもなかなかでという困った話。商家のぼんで実家を出て一人暮らしをしながら口すすぎで家業を手伝い、ゲージツ家活動も営む主人公は、喧嘩の仕儀が分からないので、怒りの一撃でやりすぎてしまい、相手からまずさぐりを入れられた後、本腰で仕返しをされます。銃社会アメリカなんだから銃を使えばよかったのに。

からっぽの巣箱』"The Empty Birdhouse" ネタバレの題名であることに、今気づきました。それでいて、よくオチまでさらっと引っ張れるものです。からっぽの巣穴に何かいるという話。諸星大二郎『袋の中』も同類項の話ですが、当然作家によって味が違う。モロホシさんの味は、"You and me, me and you, come on, rock'n roll. ” ハイスミスサンの味は、悲鳴。

頁262

 イーディスは三十四歳だった。二人は結婚して七年になる。結婚後二年目に彼女はおなかの子を亡くした。お産がこわくてわざと亡くしたといったほうがいいかもしれない。つまり、はっきりそうだと認めにくいことだったが、階段をころげ落ちたのも、どちらかというとわざとそうしたのだ。が、流産は事故のせいだということで片づけられた。(以下略)

以上