この人のほかの作品も読んでみようと思ったのですが、電子版でぜんぶ読めるわりに、とにかく紙版は出物がなくて、しかしそれはこの人が話題になって払底したわけでもなく、ただたんに少女漫画の紙の中古がないってことだと思いました。それで、めずらしくこの本がブッコフで安定的に入手出来る状態なので、読みました。
めずらしくこのマンガはアマゾンに三つついてるレビューのうち二つが☆一つという低評価で、だから放出されてるんだろうかとも思いました。低評価の理由は作品の質とは無関係です。
2006年12月初版。読んだのは翌年2月2刷。Cover disign/大塚幸司 作品担当者/山縣裕児 単行本編集責任者/前田彰 単行本編集者/本間千恵、田中貴子(A-ark)この頃から小学館は編集者を明記してたんですね。その性別が現代ではより読者に寄り添うようになった気もしますが、これ見ただけで、別に統計採ったわけでなし。
定価¥390税別がブッコフで¥108の値札をつけられ、私は¥330税込で買いました。
カバー裏のあらすじ。下のウィキペディアにも各話あらすじと初出が載ってます。表紙は左から六花、カンタ、キヨで、裏表紙にゴマがいます。
表題作のタイトル「蝶々雲」は積雲の一種で、漁師の間では強風の兆しとされてると頁18にあり、英語ではなんというのか検索したら、まず、夏井いつきサンの名を冠していながら夏井さんは一切関与していないという、日外アソシエーツの『俳句季語よみかた辞典』をそのまま引用した朝日出版社のサイトが出て、それによると、冬の季語だそうで、マンガは夏のお話ですので、そうやって間違っては頭をコツンと叩いたりして生きてきて、少々のことではビクともしない強靭な精神力を身に着けてきたんだろうなと思いました。それが死ぬってのはよっぽどのこと。
積雲をウィキペディアで出して、そこに出てくる雲の写真のうち、扁平雲がいちばん蝶々雲に似てたので、それの英語名を書こうと思いましたが、英語版がなく、オランダ語版にも採用されてる、ラテン語の学術名を書きました。
左はカバー折の既出単行本一覧。1994年デビューということですが、ほんとにずっと一線を走って来た作家さんだったんですね。2007年時点で、これだけ積み重ねがある。最初のドラマ化作品『砂時計』は公式ファンブックもイラスト集も刊行されてて、次のドラマ化作品『Piece』の連載もスタート。
こういう人は、こわいですよ。今。何故かというと、その時代その時代で、多感な時期の少女たちに寄り添って支持され、それが彼女たちに一生残ってるから。親族で三十年以上教員生活を送って、最後は在職中に突然死した人がいるのですが、葬儀に訪れた教え子の参列者の数がすごかった。歴代の教え子たちが三々五々連絡をとりあって、やってくる。孫がいるような年の人から、つい最近卒業した子たちまで。
芦原サンも三十年弱現役はってたわけですので、その間読み手だった人たちの層の厚さはそれなりで、そういう人を軽はずみにそこまで追い込んだってのは、だいぶ後まで残ると思います。忘れてくれない。
頁23と頁165に、初出時の広告スペースを埋めるための著者口上があります。左はP165のほう。日本の少女まんが独特の慣習です。たぶん少年マンガは、読者もありがたがらないし、書く方も面倒なので定着しなかった。すべてではないでしょうが、ある種の女の子にとって少女まんががどういうふうに付き合っていたものかがよく分かります。
編集がなかなかこういうオチを描かせてくれなかったとあり、①さすが小学館と思いました。コントロールする。ここからは、紡木たくも矢沢あいもさくらももこも出て来ない(さくらももこは移籍しましたが)②こういうオチを描きたい人なのかと、こういうオチを絶えず我慢しながら読者が元気の出るようなオチの話を長年描き続けてきたのかと。ほんとうに少女まんがの絵柄はどれも同じように見えるのですが、そうした量産まんがの描き手の何割が、ほんとは岡崎京子みたいのもやってみたいという気持ちを押さえつけながら描いてるのか。すごい世界だなあとしか。
カバー折下の掲載誌告知。キリストが磔になった日に毎月刊行されることに陰謀論的な意味はありません。たぶん。別冊少女コミックだから別コミで、それがアルファベットになって、今でもアルファベットみたいです。セクシー田中さんのプチコミはまた別らしい。別冊マーガレットが別マで、ほかは知らない。
表題作はその別コミに2002年9月号初出。頁23によると、ほかの作家さんとのアンソロジーや別雑誌への再録で、単行本化の機会を逸していた作品だったそうです。しかし出世作『砂時計』の元になった作品だそうので、出版社も見逃すはずがなく。
個人的には次の『中学1ねんせい -恋未満-』の頁90、見開きでガラガラガラガラガラガラがいちばんツボでした。絵が同じなら別の表現力で勝負しないといけない、創意工夫のパワーを見せつけられた気がする。てゆーかこの人集中線多いですよね。少女まんがってこんなに多かったかどうか。力強い、のかなあ。なぜか分かりませんが、小学館に持ち込む人は、筆圧の強いまじめな人が多い気瓦斯。背筋力もあるような。デラックス別コミ、略してデラコミに2002年2月掲載。
その次の『中学2ねんせい -男嫌い-』は男性が読んじゃいけない作品な気がしました。オデコを出したツインテで胸の谷間のある身長163cmバスト88cmヒップ89cmのJCがなぜか電車通勤で、かなりの確率で痴漢に遭い、同級生男子が捕まえてやろうと同じ車両に乗ってウォッチしてると、援交おやじが來るわ自分がまちがって捕まえられるわといろいろで、体育館の用具室でマットの上にミニスカのJC押し倒してしまうし、最後は痴漢の顔にJCが虹色のゲロをぶちまけまくるという、ある意味痴漢がうれしがってしまうようなオチで、私はゲロAV見たことないのですが、卯月妙子の実録企画ものが出版されたのは本作の二年前ですので、読んだのかなあという。2002年4月デラコミ掲載。
左はカバーをとった表紙の一部。
さいごの『中学3ねんせい -サクラチル-』は、故障でバスケをあきらめて教職に進んだ男性から見た中学三年生ですので、いちばんおさなく、デフォルメされた絵柄多用で描かれます。頁182など、ほんとうに日本の女子は猫背が多いと思いました。別コミ2003年2月掲載。
カバーをとった表紙(一部)私はこの人が2014年にビッグコミックオリジナルに発表したという短編をまったく覚えておらず、ビッグコミックオリジナル読んでるのに、なんでだろうなあです。読んでみるとそれほどでもだったのかもしれませんが。少女まんがって、少年まんがより幅がない中で、みんな競争で趣向をこらすわけですので、ほんと大変だなあと、今回改めて思いました。恋愛以外だと、ファンタジーくらいしか選択肢がない気瓦斯。ヤンキーまんがやスポーツ、部活ものもそれなりにあるんでしょうが、特異点の集積にしか見えない。以上