北村薫『秋の花』*1に出て来た小説。『秋の花』では、主人公が幼少期、アルスというもうない出版社の日本児童文庫31*2で『聖ジュリヤン伝』を読み、さらに大人になってから別の判で読んだとありました。フローベールというフランスを代表する19世紀の作家のおひとりの遺作なので、いっろんな出版社から邦訳が出ており、よ~りど~り、み・ど・り♪*3なのですが、いちばん新しい訳を読みました。北村薫『秋の花』自体はビッグコミックオリジナル『前科者』最終回*4に出てきた本で、正直、この最終回はいま一つ不安要素がぬぐえず、よくないオチだと思っています。
装画◉望月通陽 装幀◉木佐塔一郎 巻末に訳者解説、年譜、訳者あとがき。
裏表紙(部分)解説によると、本書の三つの作品はいずれもフローベールサンの生地ノルマンディー地方、ルーアン大聖堂のステンドグラスから導かれた物語だそうで、じゃあステンドグラス見ればいいかなと思いましたが、なんだかよく分かりませんでした。ピンポイントでそのステンドグラスを見れてるのかまったく自信がないです。
『ヘロディアス』"Hérodias"
File:Baie 53 - détail 8 - chapelle Saint-Jean-de-la-Nef, cathédrale de Rouen.jpg — Wikimedia Commons
ヨカナーンとかサロメの話らしいので、これがそれかなと思ったのですが、どこに首があるのかさっぱりです。だいたいほとんどサロメ出ないし。ヨカナーンといいながら洗礼者ヨハネとも言ってますし、よく分からない。「ユダヤ人はロバの頭を崇拝しているという風評」(頁201)「豚肉の禁忌についても、痛烈な皮肉を飛ばした。そんなにも豚を嫌うのは、ひょっとして、酒神バッカスがあの太っちょの獣に殺されたからではあるまいかな」(頁201)「牡牛のふぐり料理」(頁198)「四分封領主テトラルケス」(頁140)
ヘロデ・アンティパスのパートナーがヘロデヤとか、分かりにくくないですか。「陳氏夫人」みたいな感じなんでしょうか。
『聖ジュリアン伝』"La Légende de saint Julien l'Hospitalier"
File:Baie 49 - détail 1 - chapelle Saint-Julien, cathédrale de Rouen.jpg — Wikimedia Commons
「数奇な運命を辿った聖ジュリアンの物語」の看板に偽りなし。狩猟依存症とでもいうのか。アディクト、嗜癖としか思えない、生命を狩りとることへの渇望。「ふだんはいい人なんですよ、あれで狩りさえしなきゃねえ」
表紙(部分)この鹿も彼の獲物か。
頁88
(略)敷地の隅には、ローマ式の蒸し風呂まであった。だが、心正しき領主は、蒸し風呂は偶像崇拝をおこなう異教徒の風習だからと、使ってはいなかった。
サウナは北欧にもイスラム圏にもあるので、使ってもいいのではないかと思いました。しかし、ラマダンの最中に使ってはいけないとは知りませんでした。水分が蒸気として鼻から摂取され、精がついてしまうからだとか。*5
『素朴なひと』"Un cœur simple"
File:Baie 41 - détail 1 - chapelle Sainte-Anne, cathédrale de Rouen.jpg — Wikimedia Commons
ステンドグラスがあってるのかどうか、これがいちばん分かりません。説明に"cœur"の文字が入ってるだけなので。
左は、晩年、主人公フェリシテに寄り添ったオウムのルルちゃんと同色のオウムの写真。
フランス語版ウィキペディアに貼ってありました。みんな、彼女に感情移入する人は、ルルちゃんも気にかかるのでしょう。原音は"loulou"、それをピンインだとして漢字にすると《喽喽》《漏漏》
五十八歳でおなくなりになる前に書く物語とは、このようなものになるのかもしれません。今、あとがき読み返したら、サロメはステンドグラスでなくレリーフでした。
File:Portail Saint-Jean (cathédrale de Rouen) 03.jpg — Wikimedia Commons
まあ、あんまり、「お前に首にくちづけしたよ」って感じではないですが、アール・ヌーヴォーが登場するのはフローベールサン逝去1880の約十年後。そこから、また、時代が変わったと。
以上