ブッコフの中古品在庫ありで「スリランカ」で検索したら、出て来た本のひとつ。庄野護サン『スリランカ学の冒険』*1に、どこに行くにしても、百冊(論文含む)読んで千語現地語を覚えてからにシロヨとあって、それで、現地に行く予定はないのですが、カサ増しで読んだです。スリランカ関係書籍26冊目。ブッコフで¥220(税込)
総統怪しげな本だと思ったのですが、版元は大手幻冬舎。ただ、発行が幻冬舎メディアコンサルティングという別会社で、幻冬舎は販売という扱いです。2013年刊。幻冬舎公式で検索して本書は出ませんでした。もう新刊では売られていなさげ。私はブッコフで¥220(税込)で買いました。
著者の清水孝則サンは1945年東京生まれ。都立新宿高校から一橋大学を出て、野村證券に入社して以後一貫して野村関連で働き、関連会社のCIOとか常務取締役とかナントカマネジャーとかナントカマネジャーとか代表取締役になって、その後別の証券会社の顧問(2013年の出版時)になられた方。「おわりに」で、現地駐在日本国特命全権大使粗(ほぼ)信仁閣下(ママ)、アジア開発銀行林忠輝サン、伊藤忠商事吉野隆サン、三菱商事柴田敏之サン、NWSホールディングス五十嵐尚サン、在日スリランカ大使カランナーゴダ大使閣下(ママ)、ソマセーナ参事官、ほか特に人名記載のない各関係機関に謝辞を述べてます。幻冬舎のしとへの謝辞は見つけられないかったです。
帯。一時期よくあった、本の下半分近くを占めるフンドシスタイルの帯です。
帯裏 いや、さすがにこれはないわと思いました。2013年にはこう思えたとしても、その後中国の債務の罠にはまって破産国家になったのは全人類ご承知のとおり。火星人も金星人も知ってるかもしれない。
本書は、内容はすごくまじめなんですよ。図版も豊富で、資料や統計データも緻密。でも、なんでこんな煽情的なタイトルにして、そして対象国同様失敗したのか。投資会社の勧める株に儲かる株はないと言いますが、国でもそうなのか。
頁13に、ちゃんと中国がハンバントタに南アジア最大級の港湾を整備したと書いてますし、頁132にもその話は出ます。頁17に、内戦下でも何故か順調に経済成長していたスリランカなので、内戦が終了した今、経済は上向く以外ないでしょうと力強く棒グラフや折れ線グラフなどで説明されます。日本も第二次世界大戦後戦争で抑えられていた消費や生産が解放されてどっと経済が伸びたので、スリランカも伸びないわけがない。だいたい戦争が終わった資本主義國はそうなんです。中国や北朝鮮、ベトナムみたいな共産主義の国は戦争が終わったら宗主国ソ連のテコ入れ、カンフル剤がなくなるので自国内だけの縮小再生産の連続で経済は低迷しますけれども、資本主義国は自由主義経済圏のカネが奔流の如く雪崩れ込むので、大丈夫です、とまでは言ってませんでした。(社会主義国も「門戸開いた」といえば世界の金満から資金が流れ込む21世紀ですし)しかもですよ、日本が戦争中経済低迷したのに対し、スリランカは内戦中も経済成長が低迷してなかったので、伸びしろは青天井、これマジっすと、パネえという。
まあ逆に云うと、日本モデルと違う曲線なので、日本と同じように伸びるわけナイデショ、常識で考えなはれ、行間読みなはれ、騙される方が悪いんどっせ、という読み方も出来るわけで、事実そうなりました。地政学的な国際監視の目から外れて、中国のようにスジの悪いお金が入って、あっというまにからめとられて、国家破産。清水さんは現地取材でよくしてもらって、気負って初の著書?を書いたのでしょうが、とんでもないことになってしまった。悔やんでも悔やみきれない。まともな内容と裏腹の、タイトルだけが超がつくほどの悪書になって。。。(うそです)
頁26のカラー写真ページには「日本人の口にも合うスリランカ料理」のキャプションがついていて、豪快なカニ料理が載ってるのですが、これ、美味しんぼのカレー勝負*2のスリランカカレー、モルジブフィッシュを使ったカニまるごと一匹カレーを意識してるんじゃいかなあと思いました。
頁31のスリランカの歴史では、まず古代に、度重なる「インドから来訪したタミル民族の侵略」によるタミル王朝の建国と、シンハラ人による抵抗、シンハラ国家建設が繰り返されたとあり、倭韓の歴史のようだと思いました。さすが大野晋サンが日本語のルーツをタミル語に求めただけのことはある。でもタミル語は語頭の濁音が濁音にならないそうなので、日本語というよりはハングル、かなあ。そのほうが、この島にしかいないアーリア人のシンハラ人と、インドからなんぼでも供給されるタミル人という構図と、日韓を重ねやすい。
頁41には、「スリランカのアーリア人」としてシンハラ人が語られ、彼ら最大のタブー、仏教カーストは「インドのカースト制度にも似た「クラヤ」」として紹介されています。直球ズバリでカーストとは言ってない。で、最上位が農耕民ゴイガマという書き方をしており、士農工商の日本を知る人にとっては親しみやすい表現をとっています。また、シンハラのゴイガマはタミルのヴェッラーラだとしていて、異なる民族間でも対照カーストがあるというふうに、民族融和に斟酌した筆になっています。
しかし頁42の民族分布の図が、なんじゃこりゃあで、あきれました。人口50%とか30%とか70%が当該民族の図かと思いきや、上限が10%以上で、各民族のそれぞれの人口合計から、居住分布を配分した地図。もともと人の住めない不毛の地、ジャングルや国有林なんかも人口何パーセントでやっちゃってるので、その民族が寡占状態の地区があるように表示されない。
いちばん数字が大きいのがタミル・イーラム解放の虎終焉の地でもあり爆心地でもあったジャフナですが、それにしたって25%。
しかもインド・タミルとスリランカ・タミルを分けて表示してるので、それなりに意味はあるんでしょうが、母数が分散されて弱くなってしまってる。
これはイスラム教徒。アラブ系だったりタミル系だったり、内情は複雑なので、こうなってます。庄野護サンの本によると、スリランカはほかであるようなモザイク状の都市民族人口分布がなく、どこでも混住だそうなので、イキオイ農村部の民族分布に力点を置くしかないんでしょうが、しかしこれはという。ジャフナ以外意味がないというか…
写真提供はスリランカ大使館、スリランカ政府観光局、shutterstock、iStockphoto
頁76「ゴール旧市街と要塞群」の写真。なぜか分かりませんが、この写真に付箋をつけてました。理由は不明。
頁97「スリランカ経済の魅力と投資のメリット」には、「とはいえ、リターンにはリスクはつきものであり、リスクなしの未来はありえない。よく耳にするように、リスクを取らなければリターンを期待することもできないのだ」という文章が登場し、北北、ウソついたら口が曲がるのなら、もう清水サンひょっとこもいいとこだろうなと思いました。でも神様は人間がうそをついても口が曲がるようにはおつくりにならなかったので、清水さんも私も、ふつうの口です。あるいはウソをついたことがないからかもしれません。だって真実だも~ん。
宝石も出ますし、紅茶の箇所、頁103には、紅茶の前のプランテーションがコーヒーだったこともちゃんと書いてあります。『スリランカでカフェはじめました』*3の東條さち子サンは本書を読んだでしょうか。
頁120「初心者でもわかるスリランカ投資の可能性とリスク」には、「スリランカへの投資はまさに絶好のタイミングであるといえる。今後とも中長期にわたって大きなリターンが予測可能であるのに対し、それを脅かすリスクは限定的といえるからだ」もし清水サンがこのように書く一方で、日本株や米国株が永遠に右肩上がりはありえないとこの頃書いていたり、仮想通貨マジオヌヌメとか書いていたら、それは大変なことですが、いろんな人がいろんなことを書くので、いちいち覚えられてはいないでしょう。清水サンオヌヌメは、頁122「国債」で、スリランカ国債がオヌヌメだったみたいです。
最後の最後、頁145に、日本企業のスリランカ進出の成功例として、ノリタケ・ワールドをあげています。
下記は2018年の記事。
スリランカを地域営業拠点としたノリタケの挑戦 | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ
下記は2023年の記事。
もうひとつ、中川装身具工業という会社も出ます。
中小製造業成功の秘訣は従業員の人心掌握にあり−操業30年目の老舗日系企業に聞く−(スリランカ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
現在改訂版を出すのなら、コーヒー豆のフェアトレード会社やスパッツの会社ケルナ*4も出してあげるべきでしょう。
裏表紙(部分)黄色信号じゃないです。以上