『シュトヘル(悪霊)』5⃣ 伊藤悠 ᠴ᠊ᠢ᠊ᠣ᠊‍ᠠ‍ᠬᠥ᠊ᠷ, Шүдхэр, Чөтгөр. 5-дэхи боти Ито Ю "Shut Hell (Evil Demon)" vol.5 by Itoh Yū(ビッグスピリッツコミックススペシャル)〈BIG SPIRITS COMICS SPECIAL〉《БИГ СПИРИТС КОМИКС ТУСХАЙ》読了

うしお(シュトヘル)ととら(ハラバル)がオトナの大豪院邪鬼チンギス・ハーン)と戰うマンガ。第五巻。戦闘シーンになると髪が伸びるし、槍みたいのが突如現出するし、うしお、うしお(出版社名ではなく)

魁!男塾ホモソーシャルなので大豪院邪鬼も大の大人が一抱えするような巨大瓶ビールを飲むくらいしか闇の深さをアピール出来ないのですが、シュトヘル青年漫画なので、チンギス・ハーン江川達也『BE FREE!』の悪役並みに複数の相手に性的奉仕をさせたり死体にして散らばしばっかりです。閨房シーンはなべて性的興奮を誘うものではありませんが、游人等で傷ついた小学館にとっては、これでよかったのでしょう。このころすでに、日本のエロ二次元界が、股間TENGAをつけた謎の生命体に蹂躙され始めていたとしても驚きません。股間TENGAをつけた謎の生命体は、AV模写よりも遥かにタチが悪いのですが、それ以外はもうすでに駆逐されてしまった少子化独居老人時代の元代、否現代ポルノまんが。

月刊!スピリッツ」2011年4月号、6月号~11月号掲載。連載担当/山崎敬仁 単行本責任編集/高嶋雅 単行本編集/山崎敬仁、槌田征良(銀杏社) 巻末にアシスタント四名明記。装幀/孝橋淳二 東外大AA研准教授荒木サンと新潟大超域学術院准教授佐藤サンへ謝辞。珍しくこの巻は買ったのが二刷り*1でした。帯なし。この頃から「発売たちまち重版出来!」のセールストークが始まったわけではないと思います。今回のおまけマンガは四コマではないです。

カバー折とカバーをとった表紙の西夏文字。意味は知りません。これまで出て来た人命人名等との照合もしていません。この巻満を持して(?)チンギス・ハーンの背中の押された焼き鏝の西夏文字が出ますが、その字は四文字なので、この二文字とは違うということだけ今、目視確認しました。

右はカバー裏の内容紹介

西夏の文字盤・玉音同ぎょくおんどうを守るため、
蒙古支配圏からの脱出を計るユルールと須藤。
しかし悪霊シュトヘルの能力を制御できない須藤は
蒙古軍の急襲によりユルールと離れ離れに。
一方、ツォグ族を粛清した後、
自ら「悪霊」捜索に乗り出した蒙古の尼僧・ヴェロニカ。
国境付近の町を訪れた彼女を、
待ち受けていたのは…………!?

作者が百合的なものに強いというのは、ほかの方のこのまんがの感想ブログでも言われていたことで、私も完全に同意します。ヴェロニカ光ってる。このキャラがでたおかげでこのまんがはかなり延命したと思う。反対に、男性キャラ、特に敵キャラの男性にまったく美形がいないのが、このまんがのふしぎなところです。この巻冒頭までの「もうひとりの悪霊」「金国軍のシュトヘル」はかなり魅力的な設定だったですが、演じたのは山本直樹『ありがとう』で親の威光をカサに悪行三昧の不良ブーデーそっくりさんで、これでは人気でないだろうと思っていたら、案の定モンゴル兵をたやすく蹂躙した後、ユルールにあっけなく殺されます。何しに出てきたのか。その前の敵キャラは自ら鼻をそいだキャラだったし、まったくもったいない。誰もピクシブにイラスト投稿しそうにない造型キャラばっかし。作者の男性の好みはデブ専ブス専なのだろうか。もちろん二次元の話で、実際のご家族は知りません。検索もしない。

頁173、めずらしくおっぱいの形が出た、さらしを巻いたスドーの胸。これまでシュトヘルの胸のさらしは胸の形が見えるようにはなっていなかったのですが、食事の場面なのできついと苦しいと思った作者がシュトヘルに便宜を図ったのか、こういうかたちになっています。あるいはその時のアシ(編集だったかも)のいたずら。

このマンガの戦闘シーンは分かりにくいのですが、ヴェロニカとスドーが絡む麺屋の場面などは非常によいです。うまいこと現代高校生をファンタジーのパクスモンゴリカに紛れ込ませ得た。シュトヘルシュトヘルになったのは、人肉の味を覚えた群狼との死闘を経てですが、この巻のスドーは「犬はともだち、こわくないよ!」とばかり狼と戯れます。それはありなのか。

頁54、饂飩。だんだん食事シーンが出て来ます。金の食事がどんなものだったのか分かりませんが、ウドン状の麺はあったんだろうなという作者の解釈。

前の巻で鈴木さん(と西夏)が歴史から抹消された描写があります。この巻はチンギス・ハーンが顔出しして、彼が幼少期西夏でコソ泥を働いて焼き印を入れられたエピが語られます。チンギス・ハーンはモンゴル北東部出身とばかり思っていたので、西夏でコソ泥でとっつかまる展開は無理があると思いました。

頁172、餃子。

のこまんがの戦闘シーンは前述のようにアレで、分かりにくいのですが、頁136の、一面に広がる暗闇のたいまつの絵は圧巻でした。『皇国の守護者』を実は私はろくに読んでないのですが、吹雪の場面なんかがよかった気がします。こういう絵を描かせると、実にいいと思いました。頁28や頁50のシュトヘルアップもいいのですが、やはり忘れがたいのは頁136。絶えず主人公たちを危地に置くことで、作者の神経の太さも試される展開で、美しく光った。

まだ小学館に余力がある頃だったのか、巻中にもカラーページがあります。そのかわり印刷はツルツルではないです。でもこのほうが(発色はさておき)私も好きな質感なので、作者の要望かも知れません。

この巻の『石の花』的会話は下記。死んだアルファルドとユルールの会話。リー・イーユン『理由のない場所』でのイーユンサンと自裁した息子との会話は、イーユンサンが脳内で組み立てた、イーユンサンが記憶で再構成した疑似的な息子との会話と、イーユンサンも読者も分かってるわけですが、この場面は中世なので、そのへん不分別と思います。

頁125

「くっだらないと思いましたよ。物差しぶつけ合っての生き死になんてね」
「アルファルド。寄る辺もなかっただろう…あなたは。何かを信じること自体を、争いを招く物差しとして嫌えば」
西夏の文字か。アンタは「強さ」以外の物差しに出会いーー それにすがってるわけだ」
「今は、それだけに支えられてるわけじゃないんだ。もしーー あなたのいう“物差し〟を誰もが自分で選んだり、探したり作ることがーー それぞれ違うことがあたりまえになれば。物差しの正しさを争ってぶつけ合う意味もなくなるだろうか…」
「相変わらず恐ろしいね。あのシュトヘルより凶悪だ。坊ちゃま、アンタが言ったのは世の中解体ばらばらにしちまえってことですよ。大勢が同じ物差しにならわなくちゃ、国でも何でも成立しない。持つ方だって棒っ切れはみんなと同じ物が手頃だし、みんなで同じ棒っ切れ持てばよその棒をへし折りたくなる。そういうのがいやなら流れ出るしかないんだ。オレやアンタみたいに」
「ははっ… …おれは人と関わりたいと思ってるよ」

やっぱこういうのがないと、いかんなあと五巻まで読み進んで、強く思いました。以上

*1: