『イラン人は面白すぎる! 』(光文社新書) 読了

イラン人は面白すぎる! (光文社新書)

イラン人は面白すぎる! (光文社新書)

カバー印刷 荻原印刷 装幀 アラン・チャン
(っても、新書だからほかの光文社新書と同じ装幀です)
本文イラストは筆者。吉本芸人さんなので、本人の写真とか本人が撮ったのとか、
いっぱいあるアメブロインスタ映えと思いきや、
写真はすべてロイター/アフロ、APの、しっかりした報道写真です。
そのへん、編集長森岡純一さんと、編集者、三野知里さんの、
ウデもあるんだろうなと思いました。相当的確です、写真。

最近のイラン都市生活の映画を観たあと、一冊新書讀んで、で、
もう一冊、これも読もうと思って、図書館蔵書があったので、
すぐリクエストしたのですが、一人のひとの借りっぱになっていて、
面白いのでほかで買ったりせずリクエストを解除しないでそのままにして、
司書のひとが何度も何度も電話等で、ほんとに頭がさがります、
「返却期限が切れています。この本はほかの方のリクエストが入っていますので、
 早めの返却をお願いします。お願いします…」
と相手にやってくれたんだろうなあ、という悠久の時間が過ぎて、
あっという間に(二ヶ月強待って)読むことが出来まんた。

2017-10-03
「セールスマン」(原題:فروشنده  ←フルーシャンデ "Forušande"と読むようです)(英語タイトル:The Salesman)劇場鑑賞
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20171003/1507027206
2017-11-01
『「個人主義」大国イラン: 群れない社会の社交的なひとびと』 (平凡社新書) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20171101/1509483766
著者
http://news.yoshimoto.co.jp/news2012/2012/05/entry33539.php
https://natalie.mu/owarai/news/68279
https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=3185
イラン、で、日本で活躍してる(してた)人というと、ダルビッシュ兄弟、
日本語で小説書いてデビューした後日本のメーカにSEとして就職して、
対岸のアラブ、ドバイで働いてるシリン・ネザマフィ、エトセトラ。
(白い紙の読書感想書いた気がするのですが、見つかりませんでした)

白い紙/サラム

白い紙/サラム

筆者を、NHKの深夜のドキュメンタリーでしたか、
父親とイランを自動車で旅する番組で見たことがあったのですが、
正直どれくらい語れる人なのか未知数でした。結論からいうと、
国外在住イラン人として、ものすごく飛ばしています。
読んでて、国に帰って大丈夫だろうかとヒヤヒヤした。
こういうの読むと、むかし台独やってた頃の邱永漢が、
日本の左翼は安全なところでごねてる言いすぎなくらい、
と揶揄した、その状況をまた重ね合わせてしまったりします。

これだけのこと書いていながら、参考文献が、
日本語で書かれた三冊だけというのもすごい。
統計がうまくとれてないからか、2004年のデータが多いです。
ちょっと古いデータなので、読んでてうらめしく、
作者もそうだったのかなと忖度おもんばかりました。
<本書参考文献>

現代イラン―神の国の変貌 (岩波新書 新赤版 (742))

現代イラン―神の国の変貌 (岩波新書 新赤版 (742))

イラン・ジョーク集―笑いは世界をつなぐ

イラン・ジョーク集―笑いは世界をつなぐ

あと、二宮書店ノデータブックオブザワールド2012年版。

で、著者が吉本芸人さんだからか、ネタ帳みたいな本だと思います。
すごくそういうつくりになっていると思う。

頁22 第一章 陽気なイスラム
 僕は遅刻が多く、そのたびに先輩やスタッフに土下座しているが、イランでは一日に何度もやっていることなのでプライドも何もない。だから、もしイスラム教徒に土下座されて謝られることがあっても、演技かもしれないので気をつけてほしい。

何度も、と書いてますが、その前段で、スンニー派は一日五回だがシーア派は三回、
と、あとでボディーブローのように効いてくる一文をちゃんと入れてます。

同じページに、駅や空港のお祈りボックスや、公衆電話ボックスのお祈りスペースが、
書いてありますが、後者はあちらでも携帯の登場で一掃されつつあるのではと。

頁29に、メッカの方向に足を向けて寝ると怒り出す人がいるとか、
イスラム教国のトイレの便座はお尻が聖地に向かないよう設置されているとか。

頁46、女性専用ビーチも完全に隔離されているわけでなく不安、
との女性の声に応えて、イラン政府はウルミエ湖のアレズー島を女性専用公園に。
女性専用列車議論などちっちゃいなーという素晴らしいスケールの大きなイラン。
と作者は書いてるですが、その島が全然検索で見つかりませんでした。
この湖がアラル海同様バンバン縮小して消滅の危機にある、という記事や、
塩湖なのでその塩が日本でも美容商品として売られている、ことは分かりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%82%A7%E6%B9%96
[rakuten:eli:10012923:detail]
日本女性の旅ブログでこの湖に行った記事も二つ出たのですが、
特に女性ビーチ島云々の記事はなく、女性ビーチを取り上げたブログはあっても、
元記事は削除済みで見つかりませんでした。
どこなんだろうこの島は。
http://img.tebyan.net/big/1390/05/200174551791101381391191811698144221908096.jpg
覗かれたくないから作ったビーチだから、公に出てこないのは当たり前なのか。
泥の海でのたうちまわるオサーンの画像はみつかります。

頁66 第二章 豚肉とラマダ
 イラン人は日本人ほど清潔な国民とはいえないが、ラマダン中はやたらと顔を洗う姿を目にする。これは、顔を洗うフリをしつつこっそり水を飲んでいるのだ。
 実際にニュースになった事件だが、ラマダン中にプールの利用客が通常の八倍になり、経営者は大喜びだったのだが、閉館時間にはプールの水かさが三分の一に減っていたという。

頁68、イランはイラク戦争イラク難民やアフガン難民を受け入れているので、
国内に難民が三百万人以上いて、世界一位だとか。

頁82 第三章 すべてはバザールと食卓にある
 ダチョウ倶楽部上島竜兵さんは水で酔っ払ったという珍エピソードをもつが、イランにはノンアルコールで酔っ払うツワモノがゴロゴロいる。

乾いた酩酊とかピンクの雲で説明するのはおかしいが理解可能です。

頁87から、ハラールの屠殺解体に触れてます。ヒツジの脳みそは私も見たし、
イランではサンドイッチ、中国では焼いて食べたのですが、
それとはまったく関係なく、雲南省で豚の脳みその煮込みを食べて、
その話を中国人にすると、何でも食べて豚肉大好きなはずの中国人が、
ブタの脳みそ食べると脳みそがブタなみのバカになるから食べません!!!
と怒り狂ったので、軽くカルチャーショック受けたの思い出します。

で、日本も中国も高齢化社会を迎えますが、イランは、頁98、
国民の七〇パーセントが四〇歳以下という若い国だとか。

頁114 第四章 中東の恋愛不毛地帯
 ただ、やはり女性が真っ黒なチャドルを着ていると、まわりも大変なことが多い。
 そそっかしい僕は、子どもの頃よく迷子になっていた。なぜなら、一緒にいる女性とはぐれたら最後、まわりの女性もほぼ全員がチャドルで顔を隠しているため、見分けようがないのだ。はぐれないようにずっと後をついて歩いているつもりなのに、気がつくと赤の他人の女性に手を引かれていたことも何度かある。
 しかし僕に限らず、イランは迷子が本当に多いのだ。
「♪ピンポンパンポ〜ン、お客さまの中で黒いチャドルを着た女性がいましたら、すぐに迷子センターへお越しください」
 とアナウンスを流してもらったら、八〇〇人くらいの女性がつめかけてきたこともあった。

八〇〇人はないやろ〜とこだまひびきが言うと思います。
それはそれとして、作者はイラン人で、イランのことを書いているのだから、
ヒジャブでもブルカでもなくチャドル、チャドルと書いていて、実に小気味がいい。
ブルカでもヘジャブでもないんや、イランではチャドルなんや。
分かったか、と思いつつ、回族が漢語でなんと呼んでいたか忘れてる私。

頁121に、最初の奥さんの子どもが八歳で、14歳の四番目の奥さんに恋してしまった、
という話がさらっと書いてあります。これ、日本人の大好物な気がします。

頁128、ホメイニ時代の話だと思いますが、パーレビ時代の空気が残るテヘラン大学で、
学生男女16人が合コン的に飲酒していたところを革命防衛隊(コミテ)に踏み込まれ、
三人射殺、七人(全員男性)無期懲役、四人(全員女性)死刑、ひとり逃亡中事故死、
ひとりいまだ逃亡中というエピソードが登場します。このへんから、徐々に、
主に男女の地位の格差、自由について、作者は筆が迸ってゆきます。

頁138、第五章イランの罪と罰イスラム教では処女を処刑出来ないので、
処女の死刑は、執行員が死刑囚を姦淫して非処女になってから処刑するとか。
その次にあるのが、石打ち刑。埋めた死刑囚にみんなで石を投げつけて殺す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E6%89%93%E3%81%A1
むかし私は中国の田舎で、地元党書記を殺害した密猟団の首領が、
公開裁判で死刑宣告されるまで見物して、その後公開処刑のはずが、
外国人がいたからか、死刑囚を公安はトラックで河原に連れてってしまった、
ことがあります。みんな啞然としていた。思い出しました。

頁143、同性愛自体が刑罰の対象となるという紹介があり、
そこに「どんだ刑ぇ〜」というギャグが入っているのが、
人間は笑いがないと辛い現実を生きてゆけない生き物なんだな、
というか、この人のライブってこんなんなんだろうな、
自分でも放送禁止芸人もとい地下芸人って言ってるもんなと思いました。

さらに、頁146で、LGBTのイラン人亡命者が日本で難民認定を求めた裁判では、
著者はひじょうに冷静な意見を述べています。彼はまずオバステだった。
これが認められればオバステ全員が偽装カミングアウトした可能性もある。

頁158、イランはタトゥー禁止だそうで、ドイツなんかで墨入れたイラン人子弟は、
帰れないじゃんと思いました。
また、頁160で、ネクタイ禁止は、反欧米感情とは関係なく、首に物を巻き付けるのは、
奴隷のようでよくないからだと聞かされたことがある、と書いている箇所は、
私も反欧米だからと聞かされてきたので、掘り下げて、はっきりさせてほしい、
と思いました。

頁184、第六章 学校という名の階層社会、では、イランの合格祈願グッズとして、
鷹の羽根が紹介され、さらに、日本帰りが漢字グッズを広めていて、
「合格」と思って買ったら「牛角」だった、という例が紹介されてます。

第七章 アラブの中のイラン では、スンナ派シーア派を批判する理由として、

頁206
 根本的に、イスラム教では欲望というものが認められていない。酒、ドラッグ、女などは人を堕落させるとして特に禁止されているし、食欲は生活する上で仕方がないとしながらも、ラマダンという行事も設けられている。
 このように、基本的にイスラム教は「耐える」宗教なのだが、シーア派はそこに捌け口というオプションをつけてしまったのだ。
 例をあげると、
・忙しすぎてお祈りする暇がないときは、心の中ですればいい。
・やむをえない行事でお酒を飲まなければいけないときは、飲んでもよい。
・イランではイスラム正月(三月二〇日前後)に親戚が集まってごちそうを食べる習慣があるが、運悪くラマダンとかぶってしまったとき、イラン政府は国民に「ちょっとだけ食べてもいい」と許可したことがある。

これはすごいというかヤヴァいだろうと思いました。
エラとウロコのない海鮮もあの手この手で解釈して、
おいしくいただこうとする動きがあるのは他に見た覚えがありますが、
豚肉だけはホントに問答無用というか、誰も拡大解釈しようとしないですね。
イスエラルにラーメン屋があるってことくらいしか聞いたことない。
それだけ豚を認める改革派はありえないってことなのかな。
中国の回族もそこは厳格だし。豚を認めたら漢族に同化されるのかどうか。

で、イスラム教には、一時婚(ムトア)という特例があるので、
あちらの売買春は、この一時婚の形式をとるそうです。頁207。

作者によると、シーア派多数派の国はイラン以外だとレバノンだそうで、
だからPLOとかにワンサカやらせて黙殺してたとかなんとか。
イエメンの代理戦争は本書以降の出来事なのか、触れてません。

頁225
 また、イランは多民族国家である。六割程度がペルシャ民族であるが、アゼルバイジャン系移民、アルメニア系移民、トルコ系が多く住むタブリーズ、オルーミーイェ、クルド人が住むサナンダージ、アフガニスタン系、パキスタン系が多く住むザヘダーン、またフゼスタン州はイラク系移民などスンニ派も多く住んでいるし、トルクメニスタン系はマシュハド、その他ユダヤ系集落もたくさんある。

この文章、「移民」がついてる民族とついてない民族、
実に微妙に設定しとるなと思いました。行政書士みたい。
私がむかし「イランへの道」で読んだのは、ヤズドあたりの、
拝火教ゾロアスター教徒の隠れ集落の話。
インドでは「ペルシャ人」と呼ばれてるのに、イランでは隠れ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%BC

頁238 エンディングトーク(おわりに)
 こんなことを書くとイラン政府から非国民と呼ばれるかもしれないが、あれだけ圧倒的な武力を持っているのに抑止力程度にしか使用しないアメリカは素晴らしいと思う。もし、ロシア、イラン、中国みたいな国家がアメリカほどの戦力を持っていたら、今ごろ人類はどうなっていたのだろうか。
 僕らは強大な戦力を持つアメリカが暴走しないよう、よき監視役でなければならない。

この前の段に、イランの核開発が非難される一方、アメリカの一万基以上といわれる、
核ミサイルについてつっこむ評論家はあまりいないと書いていて、その後ろが、
この文章です。やるな〜と思うんですが、この本から五年。
ご発展を祈念して終わります。以上