『片翼だけの結婚』読了

国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001775907-00
読んだのは単行本。

昭和六十一年六月の三刷。

装幀 山野辺 進

初出はオール讀物昭和60年2,4,6月号

シリーズ三冊目。籍を入れて新居を購入して母親と同居して破綻して母親は一人暮らしに戻ってその間家計を任せ出してすべての家具がバンバン変わってゆくのを四十代フォーマーチョンガーは目尻を下げながらなすすべもなく見守る。大輪の真っ赤な薔薇のでっかい花束を買うとあわせて成金趣味の花瓶も買って前からあったシックな北欧製の花瓶を捨ててしまう、などが一例。

頁78
「あんた、パチンコに行こよ」
「なんだって?」
 越路は面くらった。
「もうそろそろ、夕飯の支度をする頃だろう。おふくろの手伝いをしなくていいのか?」
「オカさんは手伝わなくていいって言うんだよ。あたしがやってあげるから、遊んできてもいいって」
「おふくろがそう言ったからって、景子はお嫁さんなんだから、ちゃんと手伝わなきゃ駄目なんだよ」
「哀号。じゃあ、オカさんの言うことをきいちゃダメなの?」
 景子は眼をまんまるにした。
「オカさんにさからっちゃ、いけないんだ。お嫁さんはオカさんの言うとおりにするもんだって、あんた、言ったでしょうが?」
「そりゃあ、そうは言ったがね」
 言葉のウラの意味を景子に汲みとらせるのは難事業だぞと思いつつ、越路は説明した。
「でも、おふくろがしなくてもいいって言っても、お嫁さんとしては、自分がやりますと言わなきゃならない場合もあるんだ」
「それ、オカシイね」
 景子は首をひねっている。
「きのう、オカさんが捨てちゃいけないって言った空の箱をあたしが捨てたら、あんた、オコったよ。あれは捨てなきゃいけないものなんだよ。でも、あんたはオフクロにさからうなって言ったでしょうが?」
「あの場合とこの場合とちがう」
 どうやら、嫁姑の微妙な立場を景子に吞みこませるのは容易なことではないらしい。
「おふくろにはなるべくさからわない方がいい。しかし、いたわってもやらなくちゃいけない。もう七十過ぎの年寄りなんだからな。だから、いくらおふくろが言ったからって、景子は自分の仕事まで、おふくろにやらせちゃいけないんだ」
「わからないよ」
 景子は口をとがらせている。
「あんたのオカさんは、年寄りのわりにゲンキなんだよ。ゲンキすぎるんだよ。なんでも自分でやりたがるんだよ。あたし、その仕事とってしまうの気の毒だよ。だから、あたしにまかせるなら、ジェーンブ、まかせてよ。オカさんにまかせるなら、オカさんがジェーンブやってくれた方がいいんだよ。その方がわかりやすいし、ケンカにもならないよ」

ただでさえ嫁姑は難しいですし、民族も違いますし、高齢までそういう関係を持たずに来ていきなり同居なので、破綻しない理由を探す方が難しいかなとも思いますが、①このヒロインだとたいがいダメではないか②姑も上海帰りの引揚者なのに、年を取ったからというだけで、そんなに韓国人に負けるのか③韓国がパチンコを法で禁止したのが悔やまれます。別のページで、出そうになった時閉店になって古株店員とヒロインがもめて、越路は嫁を連れてオフィスでパチ屋の役員(オーナーは韓国人だが出て来ず、幹部の日本人が対応)と話をする場面があります。毎日午後無線タクシーで乗りつけて閉店まで打ってるヒロインを古参店員はうとましく思っていたようで。韓国人が日本人の金でパチンコ屋でえんえん遊んでいるのがアレだったのか。④このシリーズの最初のほうの巻で、主人公は韓国人女性と付き合うにあたって、かつて植民地にしたことうんぬんの気持ちがアレでうまく付き合えるのかと自問自答してますが、ヒロインが「景子」を名乗っていることについて、それが本名(キョンジャ?)なのか日本名なのかぜんぜん書いてないので、そこには気が廻らないのかよーと読んでて思います。

頁112
「とにかく、景子は無駄づかいの名人だからな」
「そりゃないよ」
 景子はぱっと立ち上がって、越路をにらみつけた。
「あたし、ムダジュカイしたこと、いっぺんもォないね。必要なものだから、思い切って買うことはあるが、それ、ムダジュカイでないと思うね」
「しかし、パチンコはどうなんだ?」
 越路はからかうように言った。
「あれは無駄遣いじゃないか?」
「あれはあたしとあんたの、たったヒトチュのシミだってば」
 景子は座り直した。
「あたしとあんたが楽しめるのはパチンコだけでしょうが? それはヒツヨなことなんだよ。ムダジュカイでないね、あたしとあんたが楽しく暮すためにヒツヨなことは、どんどんツカってもイイんだよ。そのためのお金でしょうが? あたしはあんたと楽しく暮すためにケッコンしたんよ。ちがうの?」

(中略)
 景子は越路ににじり寄ると、いきなり頬をすりつけてきた。
「こんな家、要らないってば。あたしはあんたがいれば、どこだっていいんだよ。六畳一間だっていいんだよ。お金がなくたってヘイキだよ。パチンコもガマンするってば。だから、コワイ顔しないでよ。その顔、キライだよ。やさしくしてよ」

あと三冊くらいでこの後の愁嘆場修羅場がすべて終わって、生島治郎はペンペン草一本生えなくなるのかと思うと、さっさと全巻読んじまおうと思うです。以上

2018-05-21『片翼だけの天使』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180521/1526914214
2018-05-30『続・片翼だけの天使』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180530/1527683580

巻末の文春新刊広告。渡辺淳一ひとひらの雪』落合恵子『愛しいひと』田辺聖子『ダンスと空想』島田荘司夏、19歳の肖像

山口洋子『演歌の虫』村松友視『気分はリバイバル神吉拓郎『曲り角』胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』これがこの時出てたのかと思うと感慨深いです。

五木寛之ヤヌスの首』連城三紀彦『日曜日と九つの短編』西木正明と船戸与一北方謙三はありません。(前の巻の広告にはこの三人がいた)
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/315DEZTE1TL.jpg左記はアマゾンの集英社文庫本表紙。また、はまぞうからアマゾンが出ないです。
https://www.amazon.co.jp/%E7%89%87%E7%BF%BC%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%AE%E7%B5%90%E5%A9%9A-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%94%9F%E5%B3%B6-%E6%B2%BB%E9%83%8E/dp/4087492052
以上の以上