・―――・ 装 画 ももよん
・―――・ 装 丁 高柳雅人
読んだのは単行本で、同じ表紙。文庫本より字のスペースを大きくとれるので、英文の部分が二行でなく一行です。ちがいはそれだけ。
「小説すばる」に2010年から2012年まで断続的に発表された短編と、書き下ろし一編で構成された連作小説です(大幅に加筆修正との由)発表の順番ごとに載せるのではなく、時系列でいうと、終末から黎明に向かって順次フィルムを逆回しに進んでいく順番で作品を掲載しています(『バブルバス』と『せんせぇ』だけ、それも順番が逆な気がします)21世紀の気怠い倦怠(それも幻想ですが)から、三丁目の夕日へと、赫々たる逆行。そんなに、むかしはよかった、今は… で括ってインカ帝国とも最初思いましたが、舞台が北海道で、ほとんどが道東の風土ですので、かつての賑わい、活況と現在との差異が私は感覚的に分からないので、そういうものなのだろうと思って本を閉じました。
カルーセル麻紀の自伝に、この作家さんとの対談が収められていて、アマゾンレビューに、この作家さんが出るなら読まねばで読みまんた、みたいな熱いレビューがあり(カルーセル麻紀の問わず語りを構成・リライト、文章起こししたのがこの作家さんなのではみたいにも思えてしまうようなレビュー)読んだことないので一冊借りて読みました。
2013年1月10日初版で、読んだのは2013年9月15日の第8刷!!! 検索したら、映画が出たので、それで売れたのかと思いましたが、そうではなく、直木賞受賞作だから売れたので、映画化はまさに今年公開のタイムリーだと分かりました。このブログによくある、アフィリエイトやってないのにやってるかのようなレビューになってしまう偶然シリーズの一端。波留主演でこれをやるのか。道東ロケはいいなあと思います。
『ホテルローヤル』公式サイト|2020年11月13日(金)公開
公式を見ると、パントムで、まだ予告も出来てないようで、波留の画像は私が読んだ原作イメージと違いますが、安田顕のジジイメイクに笑いました。ジジイ。
<以下掲載作品>
『シャッターチャンス』(『ホテルローヤル』改題)
初掲載作品。廃墟でヌード撮影もの。コスプレはありません。インスタもない。
『本日開店』書き下ろし
老人の無縁仏。江戸時代に日本の檀家制度は発展したわけですが、北海道の場合、明治以降の移植ですので、僧侶もお寺もシンプルで、それゆえに苦しい面もあるんだなと。舞台のお寺は戦後に開かれたお寺で、内地から早期に移ってきた寺院の格式を嫌った山師たちが支えた寺だそうです。葬式当日に四十九日の「繰り上げ法要」を行う(頁34)とか、葬儀社の格安プランの、戒名不要の葬儀など、道東の風俗なのか、21世紀の仏教風景なのか判然としない風景がとつとつと語られます。
『えっち屋』連作二話め。時系列だと逆回しの三話め。
波留なのかな、という。石田ゆり子くらいの年かと思った。天海祐希とか。ちゃんと読むと波留くらいの年齢の主人公だと書いてあるのかもしれません。下記の映画に憧れると語るところがあります。頁65。ノラ・ジョーンズはいいんですけど、ウォン・カーウァイ、英語圏の映画としては、人種構成の配分的に、黒人もっと出さないといけなかったのではと。
『バブルバス』掲載四作目。時系列的には逆回しに五話め。
息子の塾費用とか、腕のいい街の電気屋さんだったが業界壊滅の前に量販店の雇われに転職し、併せて店舗を売って賃貸暮らしに移ったことで、永遠のデラシネ感が醸造されてしまったとか、やもめになってから食事と外出以外ほとんど家族と対話目撃のなかった義父の死後、残したものが見事に何もなくスッカラカンで、使用済みのCRパチンコのカードばっかり自室にあって、パチにぜんぶ溶かしたんだと分かるとか、そんな話。最後、奥さんはセイコーマートにパートに出ようかと言います。これが平和堂だったら、「お前どうやって滋賀県まで通うんだよ」と突っ込まれるところ。ニコニコ堂だったら「お前どうやって福岡まで以下略
『せんせぇ』掲載三話め。時系列逆回し四話め(作中の風評被害描写を加味)
足がくさいJKと、寝取られ教師の珍道中。この話だけ、道南というんでしょうか、津軽海峡線が道内で最初に停車する木古内というところの話。道東には一度も行ったことがないと語る主人公たちで。北海道は広いですね。地元に愛される軽食喫茶店、常連の多い店の崩壊もまた一瞬という。ものがたりというのは、読者にゆだねる部分の塩梅がたいせつということがよく分かる一編。同時に、ミサトがカジを殺したと思いこめてしまうタイプのひとが本作をどう読んだか知りたいとも思う一編。
『星を見ていた』掲載五話め。時系列逆回し六話め。
根本敬の同級生観察を彷彿とさせるような、日本人離れした、ひとまわり年上の女房(60歳)とほぼ毎日セックル亭主(働こうとすると頭痛がしてくる人)登場。東直己の小説の常連キャラとも。北海道って、ほんとにこんなにおおらかでタフなのかな。子どもたちがほぼ音信不通で、便りの無いのは良い便りというが、仕送りが初めて来たと思ったら、という話。でも死ぬわけでも迷惑をかけるわけでもないんだから。開拓者だった先代が開拓した土地は耕作放棄地。
『ギフト』掲載ラスト。時系列逆回し最終話=イコールすべてのオリジン、起源。
三丁目の夕日道東版。年上の恋人を「おとうちゃん」と呼ぶのがリアル。時代的に。どさんこの三丁目の夕日は荒っぽい。山師。
以上