『バンコクの容姿』『タイ様式スタイル』(講談社文庫)読了

 前川健一を読んでみようシリーズ 

バンコクの容姿

バンコクの容姿

 

 装幀―平川彰 

私は『まとわりつくタイの音楽』の次にこれを読みましたが、その間に、『タイ・ベトナム枝葉末節旅行』(めこん)と『いくたびか、アジアの街を通りすぎ』解説:大野信一(講談社文庫)『タイの日常茶飯』(弘文堂)を上梓してるようです。筑摩書房から1988年に出したエッセー集も『アジアの路上で溜息ひとつ』と改題して講談社文庫から関川夏央の解説付きで出した由。

●アジア文庫・大野信一さんをしのんで アジア文庫と大野さんのこと 高二三(新幹社代表)

大野信一という人も高二三という人も知りませんでした。後者の人の読み方が分からない。コ・イサムになるしかない気瓦斯。イサーン。

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タイ様式 (講談社文庫)

タイ様式 (講談社文庫)

  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Kindle
 

 これが文庫。これの前に文庫書き下ろしの『アジア・旅の五十音』(講談社文庫)が出ています。

カバーデザイン 平湯和範(アド・コック)カバーフォト 著者 本文デザイン●鈴木安彦/本文イラストレーション●酒井聡 本文写真●著者 文庫あとがきで、解説の山口文憲を「あの(あのの意味はわかりますね)山口文憲さん」と書いています。腹黒な年金未払い野郎にほめごろされても、尚そう書いてしまう心境。解説のタイトルは「導師前川健一の教え」です。前川健一検定では特に下記の部分が重要視されるので、マーカーを引いてよく覚えておくように。但し、中国の大学生のように、夜間街路灯の下で音読して覚えるまではしなくてよろしい。

頁332「あとがきにかえて 日常を眺めるのがおもしろい」

 私はと言えば、なかなか信用してもらえない上にうまく説明できないのだが、タイに熱中しているとか熱愛しているというわけではない。もちろん嫌いというわけではないが、愛してやまないというわけでもない。ある国と長くかかわってきた研究者なら、この気持ちがわかってもらえるかもしれない。その国の悪口を言われたら不快になるが、ベタ褒めされると悪口を言いたくなるこの気持ちを。

「幼稚デスネ」タイならこういうスタンスも許されると思いますが、中国だと、バランス保とうとしただけで「媚中」になりますので、まためんどい。今ふっと思いましたが、「媚韓」って、あんまり言わないですね。なんていうんだろう。韓流好きでいいのか。私はチベット好きですが、ひとこと言いたい時もあり、それを言うと、「チベタンの悪口いう人に初めて会いました」なーんて言われます。前川グルもそういう目にたくさん遭ってるのであろうと。そもそも民族レベルで好悪があるってのがまずおかしいと思いますけどね。個々人で判断し、あとはその国の政策、政府の好悪と分けて考えるべきじゃないかと。国民性までいうのはちょっと違うと思う。そういう人は、ほんとにころっと好きから嫌いに反転するから怖いですよ。例:朝青龍以前と以後のモンゴル人観。

文庫出版前夜に冨田竹二郎先生がなくなられたそうで、巻頭に天国(と書いてタイ語?でサワンと読む)の冨田先生への献辞があります。

山口文憲に話を戻すと、文庫あとがきで書いてますが、著者が山口文憲と同じくらい初対面で緊張したのは、石毛直道さんだったそうです。で、2013年くらいまでですが、国立国会図書館の蔵書検索で最後に辿れる著者の仕事が、石毛直道絡みの味の素の雑誌「Vesta」です。

雑誌 『vesta』(ヴェスタ) - ああ、あれが食べたい! -現代日本人の食文化の一端を探る | 味の素 食の文化センター

雑誌 『vesta』(ヴェスタ) - 1962年の食 | 味の素 食の文化センター

雑誌 『vesta』(ヴェスタ) - 世界を旅するスパゲティー | 味の素 食の文化センター

文庫は、カラーページ「タイ総天然色雑雑図鑑 いろいろ撮ってきました」と7本の書き下ろし?コラムが新たに収録され、各部も、例えば、タイの銀行は誰でも口座が作れるという記述が、法改正で外国人の口座開設はこれこれ、のように、ところどころアップデートされています。それが読みたくなければ単行本で、単行本だけ読んでいれば、著者が小説について滅茶苦茶云う箇所(後述)に触れずに済みます。

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タイの一部のホテルはタイ人向けにタイ語だけで半額とか看板に書いてあるというくだりの、エビデンスの写真。左の単行本の写真を、文庫版ではトリミングして大きく見せてます。そういう個所がいくつかあったかと。

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これは文庫版のタイの高級?マンションの記述に、突然ブチ抜きで現れるマンションの広告イラストみたいなもの。文庫オリジナル。

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天下の音羽グループからの出版ですので、もう上のような自画像兼サインは使われてません。でもイラストは酒井聡さんという方そのまま。タイの水で尻を洗うトイレの洗い方のイラストは、初稿では前川健一が尻に手をあてていたそうです。それをそのまま通さなかった前川健一は、気どったキザヤローなのか、内輪受けはあまりよくないと考えているまじめな人間なのか。腰巻のくだりで、かなり腹部にボリュームがあることを伺わせる記述があり、また、ミニバス等と西洋人(ファラン)のくだりでは、身長170cmに満たないことが分かります。

これまでの本で、酒を飲まないとか、タイ仏教にも一言言いたそうとか、そういうのも分かりましたが、文庫頁120のコラムで、小説は読まないとか、アジアを舞台にした小説だけは読むが、ストーリーには期待出来ないからほかのことに楽しみを見出しながら読む、とあり、これまでこの人が勁草書房の東南アジアブックスを足しげく取り上げてきた(大同生命のアジアの現代文芸は取り上げてなかったと思います)のはなんなん、冨田竹二郎へのリスペクトはなんなん、と腹が立ちました。つまらないものはつまらないですが、面白いものは面白いですやん。シーファー『生みすてられた子どもたち』なんか、著者のテーマのひとつ「対西洋」を考えるうえでも重要、大切じゃーないですかと脊髄反射しそうになりました。

www.keisoshobo.co.jp

で、頁121は、ジョン・R・ソールという人のタイを舞台にした小説を絶版である旨わざわざカッコして紹介してて、検索してみると、邦訳こそほとんどないものの、現在は国際ペンクラブの会長務めるほどのエラいさんやナイデスカ。さらっと流すにもほどがある。

ジョン・ラルストン・ソウル - Wikipedia

徳間文庫のタイを舞台にした小説二作は、日本の古本屋では見つからず、アマゾンなら出品者からブイブイ出てるのですが、ふと一計を案じ、ブッコフ公式で調べると、はたしてブッコフが在庫持ってたので、即購入しました。

それから、もう一つ、作者は腰布の箇所で、ウィタヤーコーンという作家の『まるでなにごともなかったように』という小説を紹介してるのですが、これは確か前にほかの本でも紹介していて、その時は、ほかの作家がプロットまるごとパクったことも書いてたのですが、それを今探そうとして探し出せません。だいたいこの訳で邦訳が出てるのか。(→『アジア・旅の五十音』によると、本邦未訳だそうです)

ウィタヤーコーン・チエンクーン - Wikipedia

単行本頁88に出てくる「馬薬ヤーマー」「馬鹿薬ヤーバー」は純粋タイ語なのかと思いました。漢語のマーヤオ(麻藥)が、タイ語の文法で転倒してるとかではないのかとか。ヤーバーっていうと、中国映画で香川照之が演じた役でもありますが、「おし」の意味になりますが、どうなんだろう。哑巴。

単行本頁140、「タックロー」というタイの球技を紹介していて、セパタクローがふつうなのに、また前川流の単語使ってるよ、と思ったら、マレー語の「セパック」とタイ語の「タックロー」を組み合わせた造語が「セパタクロー」だと同ページに書いてあり、読みながら顔が赤くなりました。

セパタクローとは?|一般社団法人 日本セパタクロー協会

単行本頁170、タイはエロ印刷物は日本より厳しいが、メコンウイスキー(作者流表記だと、メーコーンウイスキー)のカレンダーは、股間を隠したくらいの全裸ポスターなので、人気があるとあり、作者の本でメコンウイスキーが出てくるなんて珍しいと思いました。まず、著者の本で酒類は出ないので。

本書は、前半は、他でもう書いたかもしれないが、講談社では初めてみたいな食に関する記述と、腰布など、他に誰か書いてるかもしれないけどもや、みたいな記述で、後半、建築関係になると、日本建築の本もバンバン読んで知識を蓄え、何故か韓国建築の本まで読んで、すごくインテリ風が吹いています。この後一級建築士にでもなったから著作が減ったのかと思ってしまう。頁250、藤森照信建築探偵、という単語が出るのですが、ライバルライターの執筆週刊誌の連載よく知ってるやんと思いました。

建築に関して、「ショップハウス」という単語がよく出るのですが、亭仔脚がないのがタイスタイル、しかしそれはなぜ、という答えはまだ見つかってないみたいです。筑摩の本では確か、潮州にクリソツと書いてたと思うのですが、どうなったのか。また、台湾でこの形式が健在まで引き継がれてる理由は、本書ではバリバリ書いてますが、『バンコクの好奇心』段階では「たぶん」であり、ちゃんと突き止めてはいない状態でした。

前川健一|教員情報 | 創価大学 文系大学院

途中からこの人は東大入って念願のアカデミックの世界に行ったので、それで著作がアレしたのかと思いましたが、たぶん別人なのでしょう。

 単行本頁126、"USa"と読める「擬英語書体」の洗剤を紹介してます。

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"Breeze"のタイ語บรีสだそうで、それで検索するといっぱい出ます。

https://asset-apac.unileversolutions.com/content/dam/unilever/dirt_is_good/global/logo/brand/laundry/fabrics_cleaning/dig_global_brand_marques_usa_thailand_thumbnail480x360-771840.jpg.ulenscale.354x199.jpg

บรีส | ทุกเรื่องการซักและกิจกรรมเด็ก - บรีส

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CokeCollection.com - Details 15034

タイのコカコーラ思い出しましたが、あれはまた別のカテかな。で、今は、逆に、タイ語書体というのもあると思ってます。

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世界のkitchenから  タイの台所の知恵から  A REFRESHING DRINK FOR THE HEAT SALTY LITCH ソルティライチ  10th おいしく塩分・水分補給  沖縄海塩ひとつまみ  JUICY LITCH & OKINAWA SEA SALT

タイ チェンマイ|旅の取材記|世界のKitchenから|キリン

あとスーパーのサンワ。てっきり全国チェーンかと思ったら、町田発祥の、三多摩制覇レベルだったのか。

http://www.heartful-sanwa.co.jp/image/company/company_index_04.jpg

スーパー三和 会社情報|株式会社三和

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/e/e3/%E4%B8%89%E5%92%8C%EF%BC%88%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E5%8F%B0%E5%BA%97%EF%BC%89.jpg/1200px-%E4%B8%89%E5%92%8C%EF%BC%88%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E5%8F%B0%E5%BA%97%EF%BC%89.jpg

三和 - Wikipedia

う~ん、あと何を書けば。以上

頁51、タイ料理店はたくさんあってほぼ日本に定着し、主なカスタマーは日本人だが、ほかの東南アジア料理はそれに比べて、という個所。現在ではベトナム料理インドネシア料理ビルマ料理シンガポール料理(マレー料理を内包)はそこそこ目につき、カンボジアラオスはその規模からそこまでレストラン多くない、といえると思うのですが、フィリピンだけが分からない。フィリピン料理、日本人の口にあうと思うのですが(私は行ったこともなければ食べたこともないのですが、インドネシアのパダン料理みたいなもんかと思ってるので)甘すぎるのでしょうか。なぜお店がないのか。あやしくなってしまうから?

フィリピン料理できますよ あります。 - Stantsiya_Iriya

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六月四日までの写真 - Stantsiya_Iriya

下記の映画ラストで買い食いする、つみれか肉団子を酸梅湯みたいなタレで食べるスナックなど、食べてみたいです。

『ローサは密告された』(原題:MA' ROSA)劇場鑑賞 - Stantsiya_Iriya

あとはタイ人が氷好きな箇所など。頁42や頁323のタイ人度チェック㉖「氷がなくては、生きていけない」(久米宏ニュースステーションは1999年当時もうこんなことやってませんでしたが、海外生活が長いので惚けてこんな企画をねじこんだものと思われる)ベトナム人も好きと思いますが、むかしは氷の砕き方が違ってたと思う。タイは細かくじゃりじゃりって感じで、ビニル袋に入れた飲み物によく合う。ベトナムは、包丁の背かなんかでカキンコキン、ってくらいの大きさで、厚手のコップに入れて飲み物を注ぐのに合う。製氷機の差か、いやちがうか。それでいうと、タイ人も製氷機が普及するまでは氷好きになろうにも氷が手に入らなかったと思います。ブルース・リー映画で、タイの製氷工場で働く華人たちの話があった。広東語しかしゃべらない。当たり前か。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

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カラー写真の一部。デジタル写真でなく、スライドフィルムで撮った(と、『アジア・旅の五十音』を読むと分かる)のだから、元手もかかっています。カオパッアメリカンは今度どこかのタイレストランで聞いてみます。昔、下川裕治メコンのリポビタン割りを書いてた頃、真に受けて新大久保のタイ料理屋でそれを頼んでみたら、「そんなもん頼むの田舎者だけだよ」と一笑に付されたことがあるので、そうならないことを祈ります。そして、名前を書いてしまった。

以上

(2020/8/9)

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sanwa

座間

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sanwa SUPER MARKET

座間

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sanwa SUPER MARKET

日本人とタイ人が結婚する際、日本人側の親族が黒の礼服を持ってバンコクに行って、黒は不吉な色なのでアチャー、という話があるのですが、それならば、山岳民族なんか黒ずくめようさんいますし、香港の清掃業の客家も黒ずくめですよね。あれはどうなるのかと思いました。黒のタキシードは喪服と思われるが、民族衣装はおk、ということでしょうか。

(2020/8/14)

【後報】

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sanwa スーパーマーケット 

相武台前

(2020/9/20)