『少年と犬』"Shōnen to inu" 読了

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読んだのは2020年8月25日の七刷。初版は5月15日。装画 小田啓介 装丁 野中深雪 

初出誌「オール讀物」『少年と犬』が一番最初で2017年10月号、その次が『男と犬』2018年1月号、以下4月号、7月号、翌年1月号、さらに翌年1月号。

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同名のハーラン・エリスン原作の映画があるみたいなので、英題を勝手につけず、ワールドキャットからアルファベットとりました。英訳はまだかどうか知りません。

馳星周変わったという話は聞いたような聞かないような、で、私はもう、台湾野球の八百長物以降ほとんど読んでませんでしたので(タイを舞台にした『マンゴー・ツリー』の分厚さにくじけた)ブッコフで東北震災に関連したような作品を眺めて、へーと思ってただけでした。変わったのだろうか。

この本がその辺にあるのは知ってましたが、読んでませんで、韓国の犬の絵本を読んで、じゃあ読むかで読みました。

かつて浅田次郎の講演に行った時、現代人は本を読む時間がない、かつては一日のうち、二、三時間読書に集中出来たが、今はネットに時間をとられているのか、ぶつ切りに、数時間ごとに小刻みに十五分くらいずつ本を読む時間をとるのが関の山だ、と言ってました。それに対応した小説であることは確かです。痛感しました。全六話、短いもので十分、長いものでも二十分で読めます。

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家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった -男と犬  仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す -泥棒と犬  壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれの名前で呼んでいた -夫婦と犬  体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった -娼婦と犬  老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた -老人と犬  震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ -少年と犬 

コロンビアでしたか、南米人の男が、イラン人のトラックに乗るのですが、このイラン人は流暢に英語を話すので、革命に対してあれな人で、ずっと日本にいることを選択した人なのだろうなと思いました。妻が日本人で、子どももいる。「ホダ・ハーフェ」と書いているのですが、私の記憶では「ホダ・ハーフェ」だったので、また覚え違いかなあと。検索しても「ズ」でした。

マイクロチップは、飼い主が逝去されたことまでは追えないのかなと思いました。どの拾い主も、まず必ず獣医に連れて行って、マダニなどの懸念事項を検査するのが、とても知識と実践の向上を感じさせました。ドッグフードをふやかして与えると胃がどうこうするのを防げるとか、さまざまな動物飼育のナレッジ。

名犬ラッシーとか、名犬リンチンチンとか、そういう「名犬」に対する幻想のある人は心揺さぶられる気がしました。人間同様、バカ犬もいると思うんですが、それを語る小説ではないよ、と(バカ人間は出ます。猟のこういう話は私も幼少期聞きました)名犬幻想と同じレイヤーのものとして、無農薬幻想がある気がして、確か五十年は農薬を使っていなかった土地でないと有機JASとれなかったんじゃなかったっけ、それで行くと休耕田借りてもダメだから、てきとうなキャピタリストが原野をゆんぼで切り拓いて畑やるほうがやりやすい、ということになって、農村の荒廃を防ぐ役にはあんまり立たない、と思っていたので、検索すると、今は、二年禁止農薬を使わなければおkだそうで、すべての農薬を禁止しているわけではないと知りました。

https://www.maff.go.jp/j/jas/hyoji/pdf/pamph_d7.pdf

ので、まぎらわしいので、今は普通の生産者はあんまり「無農薬」とうたわないんだとか。

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第163回直木賞受賞作  傷つき悩む人びとと、 彼らに寄り添う犬を描く感涙作! 20万部突破! 

馳星周変わったのかどうか分かりませんが、人が死ぬ話と思っていなくて、初回からイキナリ人が死んで、毎回死んで、この犬をデスノートというか死神と思う一部のはねっかえり読者が出現することも想定内の展開なのだろうなと思いました。ラストの話を最初に書いてるので、終着点はもう明確で、だからひるむことなく突き進んだのだと思います。あるいは、ラストをああしてしまったことは、先に書いてしまったので変えるのはいさぎよくないけれど、別のオチのほうがよかったかもとひっそり思っているとか。以上