謎の名匠ホン・サンス監督がコロナ直前に仕上げた映画。厚木で逃しましたが、高田馬場でつかまえました。レビューで、ほとんど会話ばっかと書かれてましたが、それのどこが悪いと、迷匠洪常秀監督の雄叫びが聞こえてくるような映画。
上の右側の女優さんの着てるセーターはボブ・マーリーの柄で、それでいて黒を基調としていて、あからさまなラスタカラーでないので、ちょっとほしいです。いくらだろう。
名商はキム・ミニという女優さんを奥さんにして、奥さん主演の映画ばっかり撮ってるという、何を撮っても宮本信子主演な伊丹十三ばりの宣伝のされ方をしているので、それでこの映画の煽り文句が「ひとりになって見えてきたもの」だと、すわ冷却期間か？ などと思ってしまうのですが、それは売る側の仕掛けたミスリードの罠です。
単にストーリーが、結婚以来五年間アツアツで、特に夫が放してくれなかった妻が、夫の出張中、初めてひとりで自由行動して、パイセンふたりと同窓生ひとりを訪ねる話ってだけです。監督と主演女優のなかはまったく冷えてなくて、ワシだけが知る妻のこんなしぐさや表情を、特別に観客のみなさんにもおすそわけにみしちゃるわい感が満載。
犬も食わないものを食わせられる観客の身にもなってほしい。妻の寝起きのスマホいじりとか、なんだよまったく。この映画のキム・ミニは、80年代のバブル女性でなければオバサンがよくやるソバージュですので、時としてむくんだ、ブタがおになっています。それがまたかわいいと思う人は思え。むかし知り合いだった韓国人牧師の奥さんもソバージュで、美容院のパーマの機械が日本製だったそうで、「前に回転します」等の機械音声の日本語をぜんぶ耳コピしてかんぺきにそらんじてました。どう考えてもムダなナレッジ。英題が過去形"RAN"なのは、なんとなくノリでだと思います。原題は、「逃亡したヨジャ（女子）」でいいはず。
こんな映画なので尺はおそろしく短く77分。最初はコロナで撮影期間や編集人月がブッタ切られたせいかと思ったですが、2019年にはクランクアップしてたようなので、コロナ理由ではなさそう。単にこの内容でこれ以上長い映画を作れなかったからだと思います。客も飽きるし。名将の作戦は高回転高収益の目的勝利であったのかも。これを封切り単館で￥1,800払ってみた人は泣きっ面に蜂だと思いますが、せっかく二本立て￥1,300でお安く見たはずの私も、三つのエピソードのうち最初のエピソードをまるっと寝てしまいましたので、ラスト一本上映￥800で最初の部分だけもう一度見直しまして、それで結局お得感は帳消しにしました。余裕があると思ってるとすぐそういうお金の無駄遣いをしてしまう。民主党の選挙カーだけ平気で高速道路使う（以前の選挙で目に余った）のを安易に批判出来ない身の上なのかも。
知識的文化人界隈の住人なので、登場人物はぜんぶ知識的文化人です。ブルデュー的資産家。この映画は女性同士の会話がホントにええ感じに鈴を鳴らすようで耳にここちよくて、韓国人女性の会話はなんてやさしいんだと誤解しそうになりましたが、併映の映画の女性のせりふを聞いて、やっぱし、ホン・サンスのは、一流の女優同士による演技、擬態であったとわかりました。浅田真央が永遠に辿り着けなかった金妍兒の境地。
会話は、「そうなの」的言葉が、「クロッチ」とか「クロッタ」とか「クレ～」「クロニカ」「クロンデ～」とかそりゃまあ膠着言語って語尾がバラエティに富んでるよなあというそのままで、「わかりました」のアラッチも同様に語尾が千変万化。たわいもない会話が多いので、こむずかしい単語はないと思います。たぶん。よくこれだけ感情をこめて「山がきれいですね」「セウォルだかなんだかの家賃が安くなってよかったですね」とかそういう会話を続けられるなあと。
世界同時多発百合ブームに乗った、ノンバイナリというか、韓国の人と人との距離の近さは女性同士でもむろんそうだった、を楽しむ映画かもしれません。時々クローズアップしてきますが、タルコフスキーとかそういうのへのオマージュなんだよたぶん、そっとしておいてあげよう、と、観客に上から目線気分を味合わせてくれる暴力温泉芸者のようなテクニックだと思いました。あと、飼い猫でないのに餌付けするなら、去勢の面倒まで見ないといけないように思います。以上
【後報】
（2021/10/28）
