『装丁道場 ~28人がデザインする『吾輩は猫である』』"The Training Hall of Binding Books. : 28 Persons Design The Novel "I Am a Cat." " 読了

dhikidashi.exblog.jp

上の編集長の方のエキサイトブログは、2010年11月のもので、現在では版元品切れ増刷未定みたいです。

ブックデザイン=ASYL 取材=杉浦由希 写真=弘田写真事務所 企画・編集=津田淳子(グラフィック社)

これも、ビッグコミックオリジナル連載まんが『前科者』の、ロイホ読書女子会に出て来た本。

いつものとおり、図書館でリクエストしようと思い、近隣の図書館は蔵書なしで、書誌情報を見たら品切れ中で、版元であるグラフィック社公式サイトで検索しても出て来ず、それで、ブッコフを見たらそちらでも在庫なしで、本体¥2,500とわりとイイ値なので、古書も千数百円とかそんなんばっかでしたが、日本の古本屋とアマゾンで同じ古書店が、表紙にキズありただし内容に問題なしで七百円くらいで出品していたので、それで思わず日本の古本屋のほうで衝動買いしました。送料はゆうパケットで三百円。このへん、私の脳内は、国内書籍小包国外プリンテッドマターの時代からなかなかアップデートされません。

見てのとおり、表紙の上のほうにキズがあります。まあこういうのも古書の味。

キズ拡大。

今でも刊行されている、年三回発行のグラフィック社「デザインのひきだし」という雑誌が、創刊からやった企画で、毎回三人の装幀者(デザイナー)に、『吾輩は猫である』を定価千四百円で「四六判」で「上製本」というしばりで、作ってくれへん、の成果集だそうです。この企画は、その後、お題を『注文の多い料理店』に変えて、今でも、やってる…のかな、やってないのかな、という。

四六判は、ヨコ127タテ188㍉の版型で、上製本は、イコールハードカバーでいいのかな、表紙が本文より大きくて、その余分なスペースを「チリ」と言うそうです。あちこちの印刷屋さんがホームページで熱心に書いているので、検索すればすぐ分かりますが、じゃあ、そのどれを引用しようかというと手が止まります。最大手とか業界公式みたいなとこに集約されてる感じではないので。やっぱあれでしょうね、同人印刷でなるたけ引き込みたいからどこもこういうの頑張ってるんだろうな。(きめつけ)

この本自体は、菊判150mm×210mmの並製本ということになるのかなと思いました。

それで、創刊号から七号まで連載して、さらに単行本化にあたって、「デザインのひきだし」じたいの装丁をしてるとこにもデザインしてもらって、総勢28人の珠玉のデザインと書いてありました。2007年一月号が創刊号で、六月、十月と出して、翌年からは二月六月十月の年三回で、しかしけっきょく合計は七冊なわけで、各号に登場する装幀者も、この号だけスペシャルで五人登場とかそういうことがないので、キッチリ三人三人、かける七冊だと、21人じゃん。プラスいちにんとして、それでも22人じゃん。それでどうして28人だなんて言えるわけ? と、はやとちりしないで、目次を見ると、㉓バーコードのデザイン提案㉔本文組版の提案㉕本文用紙の提案㉖本文書体の提案㉗製本の提案㉘本文用紙の提案、と、"extra case"インタビューが六人もいて(しかも用紙提案がふたりもいる)それで28人でした。

そういうことに惑わされない資質が、装幀者には必要ってことなんだろうなあ。この雑誌は、未来のデザイナーを夢見るわこうどたちが読む本だと思いますので、そういうトラップも必要だと認識されているのかもしれません。イケズ回路。

同じ小説でも、こんなに違うブックデザイン。やっぱり紙の本はおもしろい!

帯裏。なぜか上下逆になりました。みなさんすごくまじめにプレゼンされているので、当初から、これはどういう企画でいまどき漱石のこの本をこの値段で売ろうと思ったのだろう、という疑問符がついてまわり、回が進むにつれて、活字離れの今の若者にこの本を手に取ってもらうには(買わせるには)という付加価値論や、百均古書や青空文庫、電子版で幾らでも読める素材に千四百円も出そうという人はこういうのを求めてるんじゃない、という架空のカスタマー像模索などがありました。書いてないのは、版権切れてるだろうから(房之介さんに入るとも考えにくい)その分せいだいに製作費使えるんでないかという視点。思っててもぶっちゃけないのも、業界のリテラシーなんだなと思いました。

個人的には、わがねこ(今勝手に略しました)は冗長なので、さいしょとさいご以外飛ばしていいような(胃が悪いことだけ押さえておけば)気がします。ので、そういう装幀があってもいいかなと思いました。面白いとこだけ活字を大きくていねいにして、どうでもいいと思ったところはちっさく、読み飛ばせるように印刷する。炎上商法としかとられないかもしれませんが… 文豪へのボウトク。

寄藤文平/帆足英里子/松田行正/針谷建二郎/池田進吾/平林奈緒美/葛西 薫/新村則人/長嶋りかこ/大久保明子/奥定泰之/Blood Tube Inc./原条令子/櫻井 浩/buffalo-D/長友啓典クラフト・エヴィング商會松蔭浩之/佐々木 暁/collect apply design company/祖父江 慎/佐藤直樹/堤徳/紺野慎一/鈴木 貴/鳥海 修/都筑晶絵/岩渕 恒

帯。総勢28人の顔ぶれ。ぱっと見て、文平銀座とエギング商会もといエヴィング商会、重鎮祖父江慎しりあがり寿喜国雅彦と同窓)くらいしか知らなかったのですが、それは私がマンガと古い本ばっか読んでるせいと、覚えてないせいだと思います。ひとりひとりこの日記で検索すれば、もう少し手に取った人も出るかもしれません。あと、本職の装幀家でない人、駆け出し(といっても大手に就職したとか賞をとって鳴り物入りとか)の人もいるので、業界通というか業界ゴロの人が読んでそれなりに発見知見がある本なのかもしれません。

愛読者カードのハガキが入ってました。装丁もだけど、こういうハガキつうしんって、いつまでも大切にしたいものなのか、今やもう誰も書かんわでFAなのか、業界の会議を聞いてみたい気がします。

料金受取人払
麹町局承認
6747
差出有効期間
平成24年4月30日まで

装丁酒場。装丁塾。装丁道人。装丁の神さま。装丁道。以下それぞれの感想。

寄藤文平

JTの大人たばこ養成講座やR25を手掛けているとは知りませんでした。文平銀座は消滅したわけでもなく、それぞれがその中で自分名義で活動してるということなのかな。この企画は、まず作品がドーントブチヌキであって、次に見開きで細部に宿る神々を見せ、さいごに、そこに至るまでの試行錯誤をやはり見開きで見せるという、業界を目指すわこうどに至れりつくせりな構成になっていて(その後二ページ、インタビューをまじえた、ライターによる褒め殺し記事がある)寄藤さんはトップバッターらしく、アイデアページを六分割して、プレゼン六案をだだっと並べています。各案に、それぞれ一切ネガティヴなことを書かず、ひたすらホメまくるキャプションをつけるという、その世界に出て生きるための模擬試験のお手本みたいなことをしてる。ひょっとしたら(しなくても)いい人なのかもしれません。将来のライバルの芽を摘むための仕事ではないかった。(でも、漱石に関しては、現代に売るためにリリー・フランキーにリライトさせたらというトンデモ案を出してます)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/stantsiya_iriya/20211204/20211204083853.jpg左は西小泉駅に貼ってある、ポルトゲスの大人たばこ講座。いや、これは大人たばこ講座とはちがうかな。私は寄藤文平さんのの装丁は、ミシマ社の遊牧夫婦三部作以外に、『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』(亜紀書房)『世界屠畜紀行』(解放出版)『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン)を読んでました。

帆足英里子

どっちかというと広告の人だそうで、私はこの人の装幀本読んでませんでした。スピン*1という、ひものしおりの先にしっぽをつけるアイデアは、本が閉じないのではないかとか、せっかくの猫の目が、片方切れてるので目に見えないとか思いました。

松田行正

『さいはての中国』(小学館新書)『trái cây チャイ・コイ』(中公新社)『恋するアラブ人』(白水社)『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)を読んでました。わがねこを読み返そうとして読めなかったので、読めるようなくふうをしたそうです。でも段落が長いとか、漢字が多いとかのもんだいは、余白では根本的な解決にならない気もします。でもやりようないか。

針谷建二郎

CDジャケ、アパレル、Webデザインといろいろこなしてる人だそうで、しかし装丁は今回初挑戦だったとか。でも猫に見えない表紙で、ほかの人に比べて猫縛りから自由で、しかも人目を惹くいい表紙だと思いました。

池田進吾

『図書館の神様』(筑摩書房)を読んでました。一見薄墨使いのような表紙で、しかしアートワークの苦労話では、丸ペンでひたすら猫の毛を描いたことを前面に出しているという、食えない腹芸仕事でした。漱石の筆跡を真似てる時点で、フェイクが好きなのかと深層心理を勝手に分析(リスペクトに対してそんな判断されたらかなんでしょうけれど)

平林奈緒美

未読。この企画は、日ごろ裏方の装幀者さんの顔写真が必ずついていて、顔出しNGはひとりもいないのですが、この人はちょっとひねったポーズの写真です。眼鏡っ子で下を向いてる。カバーなしで帯をつけ、カバー不要論をぶちあげる姿勢がすがすがしいです。

葛西薫

未読。カバーより表紙がいいというか、カバーをめくらないと損な体裁でした。でもこの題字は、私のように人生仮免中を連想する人がいるかもしれません。わがねこテイストとはちがうかも。

新村則人

広告の人。猫の足跡が水滴になってるのがきれいでした。

長嶋りかこ

企画時博報堂入社五年目で、昨年賞をとったとか。装幀未経験。まさにホメ殺し企画といっても過言ではないくらいのちょうちん記事でした。この仕事で初めて古本屋に行って発見があったとか、いろいろ語らせています。題字がにじんでよく読めないという致命的な装幀なのに、よくここまでもちあげたものだと。インタビュー箇所を後年読み返しても黒歴史だなんだとは1㍉も思わないくらいのご発展を祈念しました。

久保明

『のろのろ歩け』(文春)『路ルウ』(文春)『夫の悪夢』(文春)『さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで』(文春)『蛇を踏む』(文春)『50歳になりまして』(文春)文春デザイン部の人なので、文春の本ばかり。『カルト村で生まれました』も読んでますが、装幀者をメモってませんでした。

プロなので、V6の岡田某に書生の格好をさせて撮ろうと画策したがやめたそうです。文春文庫の100冊。非常に安定した仕上がりで、インタビューも、現在私生活で子育て奮闘中など、これから業界を目指す若者を置いてきぼりにすることおびただしい素晴らしい仕上がりでした。

奥定泰之

前者と対照的に同人的な仕上がりで、ご本人も早稲田文学などの仕事をしている人だとか。未読。

Blood Tube Inc.

アド業界のユニット。装幀は初めてに近いとか。"WAGAHAIWA NEKO DEARU"のローマ字題字をぶつけてくるあたり、この世界って、そうなんだなと思いました。門外漢は挑戦せねばならないというか、そういう気概がないとダメ的な。

原条令子

『ながいながいかもつれっしゃ』(交通新聞社占星術ということで、ゴスロリというかデカダーンというかな装幀でした。箱入りなのですが、コストの関係上、箱ではなく筒になっていて、本体の背表紙がそのまま見えるという予期せぬ効果も生んでいます。関係ないですが、『吾輩は猫である』はイギリスのエロ小説『吾輩は蚤である』にインスパイアされた説があるので、そういう表紙もあるのかなと思いましたが、私は『吾輩は蚤である』のあらすじも装丁も知らないので、あったとしても気づかないんだなと思いました。

蚤の自叙伝 - Wikipedia

櫻井浩

堂場瞬一の装丁してる人かと思いましたが、そうではないようです。未読。それくらいの、写真を使ったよい表紙でした。撮影はこの人でなく、西宮大策という人だとか。でもボツ案を見ると、ぜんぜん方向性が違っていて、漱石千円札を使って、法に触れないようあれこれ趣向をこらしたものを作ってました。なんでこんな違うん。

buffalo-D

デザイナ―集団(を率いている)装幀はあんまりしてないそうです。携帯小説世代によりそうようくふうした、というプレゼンはこう云え、という模範解答。横書きも考えたとか、またこういう企画に参加したいとか、いろいろ。リーダーとはかくあるべきなのか。

長友啓典

同じ事務所の黒田征太郎さんとの合作の絵で攻める。採用案以外の二案の絵もほんとうに捨てがたいです。文春新書やちくま文庫を連想しました、と言ったらどうなるかは知りません。

クラフト・エヴィング商會

出た、エギング商会。いちばん多く刷られた岩波文庫の紙をちぎって混ぜた紙を使うという、完全に量産を捨てたプレゼンを繰り出してます。業界を目指すわこうどに言えることはただひとつ、今を楽しめ、みたいな。

『小さな男*静かな声』(マガジンハウス)『父が子に語る日本史』(トランスビュー)『父が子に語る近現代史』(トランスビュー)『男の子のための軍隊学習のススメ』(ちくまプリマー新書)『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン短編集』(講談社)『本の雑誌坪内祐三』(本の雑誌社

松蔭浩之

装幀家かどうかは分かりませんが、18歳美大生を最終的には脱がせて表紙にしたことが、着衣のボツ案を追っていくことで分かるようになっています。羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』という本を読んだ時、表紙が若いデルモでしたので、これもそういう風潮の一環かと思いましたが、特に関連はないかもしれないです。18歳美大生は、事前にわがねこを読了しておくよう指示を受けたのに出来なかったそうで、そうすると脱がなければいけなくなる因習的な世界なんだよと暗に諭してるのかもしれません(ちがう)

佐々木暁

円地文子源氏物語は参考にしてないんだろうかと思いましたが、聞いていいものやら。『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)『キャロル』(河出文庫)『香港世界』(ちくま文庫

collect apply design company

イギリスから京都に来た白人ふたりのデザイン会社とのこと。英語の本の装丁は手慣れたものだそうですが、縦書きの邦書は初めてだとか。京都造形大学の学生さん達との合作。

祖父江慎

以下後報。

【後報】

個人的に、祖父江慎が、しりあがり寿のマンガに出て来るコイソモレ先生だと思っています。

①わたしは

②ホントーにいま

③おだやかなきもちでいるのです

(2022/6/2)