『凪なぎのお暇いとま』⑩ "Nagi's Long Vacation" vol.10 by Konari Misato(ALC DX)読了

Cover design Kawatani Yasuhisa 初出一覧:エレガンスイブ 2022年1月号~8月号

そうとうに、個人的に脅威を感じてるマンガ。『ひとりで飲めるもん!』はふつうにおもしろかったですし、『珈琲いかがでしょう』はそうでもなかったのですが、このまんがの力には、圧を感じています。

頁42。「お通し花巻 からしじょうゆ」

中央線沿線で現役はってると、こういうお通しに遭遇するんだなと。こわいです。ビッグコミックオリジナル吉田戦車のまんがも中央線沿線ですが、こんなにさらっと、花巻(と書いてホワジュエンと読んでくれてるのかは知らない)が出て来る気がしない。

ノーパソもかなりの確率で持ってる社会人たちが主要登場人物なのですが、用途の大半がスカイプ。すごいマンガだ。でも作品世界はコロナカ設定ではないので、ズーム会議の場面はありません。

頁15「こっくりラムミルク」ごっついママと外国人女性?スタッフと、ゴン(欣)がボーイのスナックに、我聞がドーナツショップのドーナツ詰め合わせを差し入れして、ドーナツに合うお酒ということで出てきた酒。もうひとつはコーヒーのビール割。「こっくり」の意味が分からなくて「こっくりラムミルク」で検索したら、とあるウェブサイトしか出なかったので、口の悪い人だったらステマかと思うかもしれないなあと思いました。そうなのかどうかは知りません。

www.toyo.ac.jp

ワカコ酒』『ワカオなんとか』を読もうかと思ったらこれだったのですが、これのほうが、素で直球投げてくるので、おそろしいです。ゴールデンカムイよりこっちのがよっぽど「感情闇鍋」だと思う。

頁35。「飲み」の、屋根の部分を大きくしたことで、「宅飲み」「家飲み」の意味を持たせているのか、あるいはすでにそう読ませているのか、あるいはまったくそういうことはないのか、分かりませんが、現代人が知人とファックスで手書き文字でやりとりしてるわけないだろうし、デジタルでこんな創作漢字が変換されるわけはないので、こういうLINEスタンプでもあるのだろうかと思いました。こわいです。

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頁6。「尊けー」とか、こういう、書ける範囲の漢字だけでフキダシをやってしまう芸って、いつ以来でしょうか。内田春菊がやってたのは記憶にあります。でも女性まんがだと、私が知らないだけで、時代に関係なく、いつでもこれがふつうなのかもしれません。

頁124

須田「言っとくけどお前の黄金期学生時代で終わってるから

   今俺らん中で一番スペック低いし(後略)」

(須田は某大手広告代理店勤務という手書き文字)(怒る我聞)

我聞「親のコネで手にした職鼻にかけてんじゃねえよ

   俺はなあ」

須田「出た~!

   俺は親父に惑わされず兄貴と別の道歩んだアピール

   それって結局二乗で選ばされてるってことじゃね?

   あげくこのザマかよっていう」

端役との会話でよくこういうセリフをポンポン繰り出せるものだと感心します。「二乗で選ばされる」ってなんだよ、すぐ頭に入ってこないよ意味が、と思いました。秋田書店でなく小学館だったら、編集がネーム段階でツブして、まんがとしての完成体で読むこと叶わなかったかもしれないです。秋田書店素晴らしい。

頁68。凪の母親の夕が、東京でやってみたいことリストに記載した事項のうちのひとつ、全身脱毛をするところ。この後まるまる1ページベタに音声だけで描かれます。とてもリアルでした。その後の歯のホワイトニングも、興味深かったです。

ゴン(欣)というキャラのもてっぷりは、私の知人にもそういう人がいたので、自分と比べたら負けだと思ってます。違う世界のにんげん。その人は年とって落ち着いて、家庭を築いていることは風の噂で聞きました。神奈川県西部の戸建てらしい。相当なジジイになるまで、ゴン(欣)同様、さかってる女子の据え膳が切れることはないでしょう。違う世界のにんげんなので、考えたら負け。頁90の親子丼のところのシナプスは、作者にもこういう人種は分からないのだろうか、だったらいいなと思いました。最近読んだたかのてるこという人のラオス人のシーカレも、この手のスゴウデだったのか、ここまでではなかったのか、どっちかな。

プロポーズをした円が、職場でまさかの題フィーバー…!? 慎二、沼にハマる

帯 頁135と頁142、自分で自分をゴキブリだと思ってしまうところは、自覚を飛び越えてるので、あれあれと思いました。作者は円が嫌いなのでしょうか。

頁34

(欣が我聞と桃園に向かって)「つまり二人の話を総括すると 髪質が好みの自分のお母さんとエッチができたら最高ってこと?」

我聞「きっしょ なんだその総括」とりはだ

欣「えっ だって 無償で家事してくれるなんて親くらいしかいなくない?」

我聞「だからうちの母ちゃんはそういうんじゃなかったって」

ここの会話がとても衝撃的だったので、もっとこのベクトルで詰めるものだとばかり思ってましたが、まさか「はわわ」叩きが始まるとわ。ちむどんどんで、矢作が擁護されて暢子が叩かれる、一連の反省会軍団の流れと、同じ読者層が秋田書店にも一定数いるのだろうと推測しました。母と娘の相克は今は昔の話で、老後の介護は女の子どものほうがよく見そうだからという前提で、親が女の子どもをパラサイトさせ続ける家も多い(自活出来る収入があるかの問題もありますが)ので、家事してくれる云々のせりふが、思わぬ爪痕を一部の読者に残したのかもしれません。

ちょっとここは、①下宿の自活ばかりと思われていた中央線沿線青春群像にも、同居派が増加しつつある現状があるのだろうか、阿佐ヶ谷も高円寺も高齢化進んでそうだもんな、とか、②欣というキャラからそういうセリフが出そうにないと勝手に考え、私の脳内では、読み返すまで、スナックのママのせりふだとばかり、模造記憶できり変わってました。とか、③「欣」という漢字を出すのに、「男子の欣快」とか、中文でxinshangと打って〈欣赏〉で出しているので、めんどくさいですし、「男子の欣快」は「男子の本懐」の覚え間違いで、「男子の欣快」なんてことばはなかったことに気づいたりしました。とか、④コナリミサトも「総括」なんて左翼用語知ってるのか。私が三十年位前にアルバイトしたホテル客室清掃の請負会社は、「統括」とか「マネジャー」ととでもつける肩書のポジションを「総括」と呼んでいて、私がいっしゅん「へ?」みたいな顔をしたら、イスラエルキブツ帰りの事務のオバサンが我が意を得たりとばかり「そうなのよ、革新団体みたいでしょう?」と言ってました。とか、 etc.etc. =等々、とても脳内にさまざまな思いがよぎる、よい流れでした。ので、これが、いとも簡単にはわわゴキブリの流れに行くのが、ちょっともったいなかったです。相対化が性急な気瓦斯。

「俺は、この俺から逃げたい」慎二にプロポーズされた円が職場でまさかの大フィーバー。うまく立ち回ってきたはずの慎二の立ち位置に、変化が…!? そして、慎二の「選択」は――。 各店舗の感触見に行く? 北海道に 月刊エレガンスイブ(毎月26日発売)で大好評連載中!

入江喜和のマンガの後にこれを読むと、両者の距離が、近いんだけど遠い、その理由が言語化出来ないもどかしさを感じます。世代差で片付けたくない。……うまいこと言えたから以上です。以上