チメ འཆི་མེད། 'chi med『チベット女性詩集 現代チベットを代表する7人・27選』དབྱངས༌ཅན༌པི༌ཝང༌ལྟང༌ལྟང༌། "Tibetan Women's Poetry Collection. 7 Representatives of Modern Tibet, 27 Poems." (現代アジアの女性作家秀作シリーズ)(Contemporary Asian Female Writers Excellent Works Series)

チベット女性詩集│ゾンシュクキ/デキ・ドルマ他

編訳者:海老名志穂サン。段々社編集坂井正子サン。装丁者未記ながら、担当されたということなのか、草本舎の青木和恵サンにイラストレイアウトの謝辞。イラストは蔵西サン。日本学術振興会特別研究員研究奨励費と東外大AA研共同利用・共同研究課題「チベット・ヒマラヤ牧畜文化論の構築 ー民俗語彙の体系的比較にもとづいてー」の成果一部。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

概括は上記。

ラストバッター、七人目はチメサン འཆི་མེད། 'chi med 

レゴンのひと。この人はヴァージニア大学のシンポジウムに行ったことがあるので、そのページにドーンと載ってます。同じ写真で。

Pema Tso/Chimay པདྨ་མཚོའམ་འཆི་མེད | Tibetan Women Writing བོད་མོ་རྩོམ་འབྲི་བས་རྩོམ་རིག་གླེང་བ།

牧畜犬འབྲོག་ཁྱི།

初出は2009年の「カンギェン・メト」གངས་རྒྱན་མེ་ཏོག 《岗尖梅朵》

原題はチベタンマスチフを表す単語で、英語版にはキッチリこの詩のタイトルと同じ単語が出て来るのですが、日本語版ウィキペディアでは、独自研究なのか、別のチベット文字が載ってます。日本語版ウィキペディアは、ウイグルのラグマンが中国のラーメンになったとする、石毛直道ほか世界の食文化研究者と真逆の記事がどうどう記載されることもあり、裏事情を推察するのもまた、いとおかしというか、乙なものです。

en.wikipedia.org

The Tibetan Mastiff (Tibetan: འབྲོག་ཁྱི། འདོགས་ཁྱི། སེང་ཁྱི།, romanized: Drok chi/kyi; 'Dok kyi; Seng kyi, lit. 'Nomad-dog; chaining dog; lion-dog', THL: Do khyi, Wylie: 'brog khyi; 'dogs khyi; seng khyi)[a] 

ja.wikipedia.org

中国語では「藏獒」(Zàng áo) あるいは「西藏獒犬」(Xīzàng áoquàn) となり、「東方神犬」の異名もある[1]。チベット語ではདོ་ཁྱི།(ドーキー)と呼ばれている。

日本語版ウィキペディアは、音は似てますが、つづりがちがう。

ཨ་ལོང་།

初出は2016年に『民族文学』という雑誌だそうですが、これは分からない。よくある名前なので。

遠くにきらめく星རྒྱང༌རིང༌གི༌སྐར༌མ༌འོད༌ཆེན་།

初出『ダンチャル』སྦྲང་ཆར།《章恰尔》1999年。テキストは『ジョロン 現代チベット女性作家詩歌精選』བཞོ་ལུང་། この詩は「灯明」サイトに載ってました。

རྒྱང་རིང་གི་སྐར་མ་འོད་ཆེན། - མཆོད་མེ་བོད་ཀྱི་རྩོམ་རིག་དྲ་བ།

そのあとはイラスト。家屋、私の知らない、ハゲワシが上空を舞うような城塞都市、チベット全図(たぶん)のイラスト。

〆のコラムは【コラム7】「百年前に英国で出版『私のチベット」三浦順子サン。1980年代、中国現代文学の「女流」躍進の影響を受けてチベットでも女性文学が始まったとする定説はそれはそれとして、先駆者として、リンチェン・ハモという女性(カムかな)が1926年、イギリスで英語で出版した『私のチベット』について記しています。同書の邦訳は、ペマ・ガルポサンと三浦サン。

彼女はダルツェンドのイギリス領事と結婚したチベット人女性で(イギリス領事館がダルツェンドにあったんですね)ハズの帰国に伴って1925年、24歳で渡英、翌年本書出版。ふたりは四人の子宝に恵まれたが、冒頭のコラムと円環するのか、高原を離れたチベット人の例にあるように、結核に冒され、1929年、28歳の若さで逝去したそうです。

彼女のハズは代々中国で布教を行ってきたスコットランドの宣教師の家系で、夫婦間の会話はおもに漢語だったとか。その彼女が、夫にせがんで読み聞かせてもらう英文のチベット関連のデタラメな記事に憤慨し、自ら出来る限りの英語でチベットについて書き残した本、それはチベット文学における「女流」の先駆として、今なお消えない輝きを放っている、という記事でした。(私は未読です)

私のチベット (日中出版): 1988|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

今回、数人の方が出版されていた個人詩集などのチベット名、チベット語表記に関して、フランスのアカデミックな書籍検索サイト、"sudoc" で面白いように検索することが出来ました。心から感謝します。

Catalogue SUDOC

で、上記"sudoc" で出た『雪の耳飾り』に、《藏族女作家丛书》という漢語のシリーズ名がついていたので、そっちも検索してみると、漢語サイト《藏人文化网》の記事が出ました。

藏族女作家丛书首发式暨研讨会近日在青海西宁召开_藏人文化网

http://www.tibetcul.com/d/file/news/wx/d90b885617476ab9ee11908e3975e911.jpg左からふたり目がホワモさんですかね。華毛(华毛)"huamao"ホワマオサン。本書のプロフで『春の輝き』と訳されている詩集が、なぜか詩集でなく散文集と紹介されてます。漢語タイトルは《春之韵》 蘭州の西北民族大学に籍を置いているからか、出身の青海省の作家でなく、《甘肃女作家》と紹介されています。ホワモサンはかろうじてチベット名から漢語名の推測がついたのですが、ほかはほぼ全滅でした。真ん中かひだりはじがトクセー・ラモサンだと思うのですが、《藏家姑娘》という、邦題『チベットの女』に対応する漢語タイトルの詩集の作者名が 次吉"ciji"で、ツージーのどこにトクセーとラモの入る余地があんねんと絶句しました。*1 右からふたり目がカワ・ラモサンのように見えるのですが、『雪の耳飾り』に対応する《雪饵》の作者は梅朵吉"meiduoji"となっており、カワの片鱗もラモの片鱗もありません。むしろ、花を意味するチベット語の「メド」と金剛を意味する「ドルジ」のどっちかが入ってるチベット名なのかなと、まったく見当違いの推量をしてしまうこと請け合いの漢字表記になっており、孔明の罠おそろしいと思いました。

以上

*1:中国を代表するインフルエンサー、竹内亮サンの記録片《再会長江》に登場するチベット人女性は逆に漢語表記のみ紹介されていて、《茨姆》”cimu“で、原音は分かりません。ひょっとしたら、つーむーサンも同様に、チベット文字で表記すると、トクセー・マリメッコとかそういう、全然違う音になるのだろうかとも思いました