『青の伝説』平岩弓枝 "නිල් පුරාවෘත්තය" හිරයිවා යුමීඩා "நீல புராணம்" ஹிரைவா யுமிடா "THE LEGEND OF BLUE" by HIRAIWA YUMIE 読了

庄野護サン『スリランカ学の冒険』*1「日本文学のなかのスリランカ」に出てくる小説三冊のうちの一冊。「青の三部作」第一作だそうです。スリランカ関連書籍33冊目。

装幀 深井国 たぶん文庫本含めて青の三部作はぜんぶこの人の絵です。

最初この表紙見て、どこがスリランカじゃ、こんなの古代ローマじゃんと思ったですが、古代ローマでなく、古代ギリシャでした。舞台はスリランカからニューヨーク、バンコク、東京名古屋静岡浜松を経てクライマックスがシチリアですので、インド亜大陸でなく地中海文明という点では、何もまちがってないです。ネタバレのような表紙ですが、中盤までシチリアのシの字も出てこないので、バレようがない。

読んだのは単行本。1985年初刷の翌年第4刷。

刊行の2年後の購入のようで、そこから途切れることなくそれなりに貸し出しが続いています。

平成9年のあといきなり西暦になり、その後バーコード貸し出しに移行したようです。

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文庫本の表紙は意味不明。ドン・キホーテでしょうか。スペインは本書に関係ありませんし、さっぱり分からない。で、青の三部作のうち、これだけ電子化されていません。

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二作目はトルコの話。トルコ青(ペルシャンブルー)もあるしナザールボンジュウは青い一つ目のお守りだしブルーモスクもあるしで、青の必然性はあるかと。電子版あり。

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三作目、完結作は青磁。Ms. 御宿かわせみはそれなりに中国を憎からず思っていたようで、本作にも華人がそれなりに出ます。『セイロン亭の謎』*2にも出る(『セイロン亭の謎』には静岡県もまた出ます)本作に出る中国人のうち、陳文威と楊子春はともかく、陳健民は日本で有名な、ケンミンの焼きビーフンで料理の鉄人の爹と人偏があるかないかの違いしかなく、出番もほとんどないので、てきとうにつけたなと思いました。

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左は背表紙カバー部分。
眠くなってきたのでメモだけ書くと、庄野護サンは本書を「やたらとひとが死ぬ」と評していて、そのとおりと思いましたが、「やたらと「インド人」が登場する」については、平岩さんがインド人とスリランカ人の区別がついてないんじゃいかとの見方に、それはどうかなと思わなくもないです。頁83で、ニューヨークのチャイナタウンで出会う女性がサリーでなく短いシャツ上着と巻きスカートなのでインド女性でなくスリランカ女性ではないかとの鋭い観察場面もあったりするので(この女性がロングアイランドで米国人からベトナム人とみられている点は逆に不信感ありありです)スリランカのサリーは実は歴史が浅く、20世紀初頭からの流行であると書いているのは当の庄野さんです。

本書は受け身の女性がそのまま平穏に幸せに暮らせてしまう反面、行動力があって社会で活躍する女性がひどい目に遭います。佐知子サンという女性の展開には開いた口がふさがらなかった。これだけやられても不撓不屈の意思で一矢報いるのですが、それがなければあまりにひどい。しかもそのコケの一念が、人間業でなく、とても意志の力では克服出来ないようなハードルを乗り越えさせられているので、ロボコップかと思いました。当時ヒットしていたはずなので。ターミネーターでは、ないと思う。そこまでやっているのに、婚約者は妹のことばかり気にしていて、いいなづけの彼女を最後までサン付けして呼んでいる。彼女を抱きしめて呼び捨てに号泣とか一切ない。なんでこんな待遇に差をつけたのか不思議です。乳母日傘の女性が得をして、ハイヒールで社会に蹴りを入れる女性がとことん無残な目に遭う。「いい加減にしてよアグネス」小説の白眉だったのかもしれませんが、それにしても。

というメモだけ置いて、後で細部気づいたことを膨らまして書きます。以上

【後報】

頁75、ケネディ空港からマンハッタンまで約24キロもあると書いてますが、成田から東京都心までは約60キロなので、どこと比較すればよいのだろうと思いました。

頁77、ニューヨークのチャイナタウンはどれくらいの規模か尋ねる箇所で、サンフランシスコのチャイナタウンへ入ったことがあるかと逆に尋ね、イエスと答えるとそことの対比で大きさを説明する箇所があります。そういえば、サンフランシスコはチャイナタウンで、ロサンゼルスがリトルトーキョーだったと思い出しました。「エスニシティーは住み分ける」の法則を邦人もまた実践していたんだなと、改めて思う。今もリトルトーキョーがあるのかは知りませんが。リトルテヘランはまだあると思う。

で、ニューヨークのチャイナタウンはブルックリン橋の近くで、ニューヨーク警察本部の近くだと説明があり、桜田門のそばに中華街はないよなとは思いませんでしたが、横浜中華街の突端に加賀町警察署があって、非常にシンボメトリックなのを思い出しました。じっさい暴動?の時はそれなりの役割を果たしたそうですし。神戸南京町や長崎唐人街に隣接して警察署があるかどうかは知りません。いわんやコリアンタウンをや。

ニューヨークでふたりの日本国際警察関係者は飲茶が旨く、気のいい広東系移民の老人を訪ね、容疑者の聞き取りを行いますが、はたして評判はかんばしくなく、「新来的なのでよく知らない」と。で、この頁81のやりとりで、老人が日本語は片言しか話せないので聞き取りを英語で行ったとあり、なにそれと思いました。なんでニューヨークなのに中国人相手だとまず日本語で話そうとするのか。この老人が米国在住ながら片言の日本語を話せることについて、マレー半島出身なのか香港出身なのか本土出身なのか分かりませんが、そこにいかなる経緯があったのか、想像してみるに如くはないじゃいか、その鈍感力こそがリーベンレンに欠けている点である、と、NHK国際放送局に外部委託で22年勤務したのち、堰を切ったように母国語で滔々と喋り出す人がいるとは思いませんが、しかしなんというか、不思議。

例のスリランカ人ともベトナム人ともみられる女性との会話でも、英語のはずなのに、外国人が片言の日本語を話しているとしか思えないせりふがあり、人気作家ゆえに書き飛ばしたなと思いました。本書は冒頭などところどころ一行改行のテクを使って、原稿用紙を埋めまくってます。そうでもしないとイカンかったのか。初出未記載なので、連載なのか書き下ろしなのか分かりません。

頁138

 ティファニィの隣は、新しいビルが出来ていた。

 五番街のもっとも新しい顔といわれているトランプ・タワーで、ここのオーナーはまだ三十代の百万長者としてしばしばニューヨークの話題になっている。

(略)

 広場はティールームになっていた。

 どのテーブルも満員なのは、今のところ、このビルがニューヨークの名所になっているからであろう。

「今のところ」などと書かれてしまう本書のトランプタワー記載箇所。御宿カワセミの御大が厳しいのは積極性のある女性に対してだけではないです。

右は中表紙。ここもエーゲ海文明のイラスト。スリランカとは無関係。シギリヤの上り方指南や、そこでの殺人事件、ボロンナルワ、キャンディ、トリンコマリー、コロンボ、仏歯寺と色々出てくるのに、そりゃないぜという。二作目の上下巻が青、赤なのは、本作の外が青、中が赤なのに対応してるのかもしれません。そうすると三作目は外が青磁で、中は万歴赤絵か。

平岩さんと中国との関係に関することとして、漢詩でもやられているのか、「つじつまがあう」の意味で「平仄が合う」を使っているのが目を引きました。漢詩でもやってないと、出ない表現。頁187と頁204、二ヶ所で出てくる。

頁225

 高木保雄が、彰一の依頼に応じて紹介したのはモスリムと呼ばれるイスラム教徒の一人であった。

 モスリムというのはインドから渡って来たアラブ商人の裔といわれ、スリランカの宝石業界には絶大な力を持っている。

アラブ系よりタミル系やマレー系のが多いじゃいかという理解度テストはさておき、こう書いておきながら、カシムという人物を、ヒンディーでなく仏教徒と紹介するなど(実際ハラルでないレストランで食事をしているようですが)平岩サンのスリランカ理解度がどれくらいか混乱にしそうになりますが、シシリアンマフィアの世界なのでてきとうに登場人物が口から出まかせを言っている感もあり、すべて作者の脳内知識と考えるのは植物性のナイーブでしょう。

本作の青はサファイアの青で、ラスト一行の乾いた余韻がなんといえないのですが、それにしても佐知子さんの扱いはひどかった。婚約者の対応が。彼女の姉と林きみ子さんもたいがいでしたが、ここまでじゃなかったと思う。ヒロイン浩子さんがここまで大切されているのに、この差はなにという。それが私の感想です。以上

(翌日追記)