『ののはな通信』"Letters between Nono and Hana" Shion miura 読了

装画 布川愛子 装丁 鈴木久美

ののはな通信 (角川書店単行本)

ののはな通信 (角川書店単行本)

 

 のっけからというか、最後までというか、徹頭徹尾というか、LGBTQ?、百合、ズーレー小説。これも相鉄瓦版第270号(2020年10月1日更新)特集:相鉄線沿線文学さんぽ 北村浩子「小説でめぐるヨコハマ」で紹介された小説。

相鉄瓦版 バックナンバー

北村浩子 - Wikipedia

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ののはな通信 Letters between Nono and Hana Shion Miura

著者名が「シオンの地」から来ていて、"Xion"と書くのだったら、以降ミューラー・ザイオンと呼ぼうと思っていたのですが、裏切られました。誰が裏切ったかというと、私の良心が、です。

シオン (植物) - Wikipedia

三浦しをん - Wikipedia

名前の由来 - 両親が、当時の世田谷の家の庭の紫苑の花から名付けた。ただし、後に母から石川淳『紫苑物語』が好きという意味もあったと聞いた[2]。

 この小説は百合は百合なのですが、「女同士でもセックスはできる」ことと、与田というキャラクターがあまりに嚙みあわなくて、しかも、与田という名前が出るだけで、二人の心に粟を生じさせるというか、兎が飛び跳ねているように見える時化の前兆の、波立つ感じがあり、そこまで二人の女性の感情がかき乱されているので、この小説はこれで成功と言えるのだろうかと思いました。もう一点、アフリカも、破綻してる気がしてならない。

作中で事実と異なる部分があるのは、

意図したものも意図せざるものも、作者の責任による。 

 巻末に、執筆に際し協力された人の名前と謝辞、それから上記の文章が出て来て、当初は、LGBTQ?に関して、注意深く慎重にしてるのだろうと思ったのですが、少し時間が経ってから思うのは、これ、紛争難民絡みで云ってるのではないか、ということ。

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当初はさらっと感想書けると思ったのですが、手が止まったので、著者インタビューなぞ読み、編集部からの依頼が、「三島由紀夫っぽい女の子の話」だったと知り、それで与田なのかと納得出来るかというと、相変わらず納得しません。

初出:「小説屋sari-sari」2012年1月~2015年1月3月5月配信を加筆修正。

三島なら、形而上学的に、ロジックの上にロジックで、かつ、ヘンタイ(潮騒除く)でいいと思うのですが、なら、磯崎という男性や、フジコ・ヘミングではないけれど、隣の駅に住んでるそんなような、ベニシアさんみたいな、女性をクローズアップして、ビルドゥングス・ロマンにしてしまえばいいのに、往復書簡という体裁の小説であるせいか、行動や会話なら、あえて与田という名前は、口にしないと思うのですが、それだけに紙にペンだと、べらべらべらべら深奥の自分を書いてしまうのだろうかと、思いました。引き摺りすぐる。

 あまりに口直しが必要だと思ったので、和山やまセンセイの漫画を森下帰りに買って、夜中の二時まで読んで、ラジオ体操行きそびれました。☆先生もJK食うのかなあ。

頁31

 葡萄酒といえば(ほら、ちゃんと書けるでしょう?)、ねえ、あなた知ってる? 聖フランチェスカに来る神父は、大半が酒びたりなんですって。神父だけじゃない。ここは女子校だから見かけないけど、修道士も。

 フランチェスカの裏手に、修道館があるでしょ。そこの窓から覗くと、ワインやウィスキーの瓶が床にたくさん転がっているのが見えるそうよ。世俗と離れて男だけで生活するからには、アルコールぐらい摂取しないとやっていられないということかしら。禁欲も大変ね。 

 別の教会の話だと思いました。昭和59年設定。

頁122

(略)えぐえぐ泣きながら、「ごめんなさい」と言った。 

 えぐえぐ、あったなあと懐かしく思いました。これも昭和59年。

解せないのが、伊勢佐木長者町五丁目の交差点で待ち合せて、扇町のラブホに行くという展開。昭和59年当時、桜木町にまだキリコの絵のような高架下があって、例の落書きがあって、ソフトめんの立ち食いそば屋があった頃の伊勢佐木長者町は知らないんですが、扇町が駅方向なのは現在と変わらないと思いますので、せっかく学校の生徒や職員の動線から離れた場所で待ち合わせたのに、何故また駅方向に戻るのかさっぱり分かりませんでした。私としては、黄金町や日ノ出町まで行かない、永楽町あたりがラブホが多いという認識があるので、待ち合わせた後は、そっちに歩いてゆくのがスジではないかと思ったので。どうにも解せないです。

Google マップ

永楽町にラブホが多いことは、銭湯スタンプラリーで行くまで知りませんでした。もう今となっては望むべくもないことですが、銭湯スタンプラリー、いろいろな土地を知るすべになったので、よかったなあ、楽しかったなあ。

翁町や寿の駅よりのはずれにも確かにラブホはあるのですが、どうなのかなあ。寿だから同級生や職員の通学通勤ルートと被らないという設定なのかなあ。それなら待ち合わせ場所は、駅の向こうの、元町は目につくだろうから、中華街でもよかったのでは。いやだめか、そっちも目に付くか。

いずれにせよ、作者や、相鉄瓦版のブックナビゲーターにとっての石川町は、女子校やラブホの街で、私にとっての石川町は、中華学校とドヤ。こんなに視座が違うと、もう百合を受け入れるしかない。

アフリカ。ここは、架空の国にしたことで、内戦下の当該国邦人社会や現地採用などの話が、希釈されてしまい、残念です。首都に反政府軍が侵攻するような情勢は、そもブラックアフリカではそんなにないし、そういった国にはそもそも日本大使館はないでしょうから、リアリティーという点でも、少し絵空事になった。あと、使用人がタイ人というのもよく分からなかったです。現実にあるのかなあ。英語堪能なフィリピン人や、ムスリムインドネシア人でなく、タイ人。

在赤道ギニア日本国大使館|外務省

ポルトガル語圏のサハラ以南のアフリカということだと、モザンビークですが、モザンビークには日本大使館はあるようです。上にスペイン語圏の赤道ギニアを参考例として置きました。ガボン日本大使館が兼任して管轄してるとか。こういうところが多いはず。作者と同じ大学の高野秀行の処女作でも、モケーレ・ムベンベを探しに行ったコンゴには日本大使館がなく、当時は定住邦人は天理教の教会のみだったとか。

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21世紀の首都陥落だと、リビアとかシリアとかアフガニスタンとか、イエメンはどうだっけ? と思いながら読みました。いずれもサハラ以南のアフリカでなく、黒人のアフリカだと、ソマリアとかだろうかと思いました。現在ではケニア日本大使館ソマリアも見てるようです。スーダンには日本大使館あり。

ここで、小説としては破綻してるけど、小説中のキャラクターの暴走、作者の手を離れたという言い方が許されるのであれば、あっぱれだと思ったのが、難民認定などの日本の問題点を、もし「パヨク」寄りに描いた時、ネトウヨっぽい読者が離れたりするリスクヘッジを作者が懸念したとして、それに対し、作者が決断するのでなく、主要キャラが先に動いた点です。

この二人は、古典的な言い方をすればネコとタチだったのかもしれませんが、何でも受け入れるおおらかさが、まさか難民まで受け入れることになるとは、ちょっと読めなかったです。ここをもっとでっかく描けば、すごい小説になったかもしれない。

グリコ森永事件や大喪の礼、バブル期の、簡単にお金が稼げる短期バイト(当時もブラックバイトはあったはずですが、情報革新前なので、拡散されるということがなかった)山岸涼子花とゆめのマンガの最終回など、その時々のエポックメーキングがちょいちょいふたりの文通に現れ、それで、2010年くらいから、宮城県が話に登場し出すので、ああ、来るのか、と覚悟して読んでいて、で、これはないわと思いました。立ち合いで変わり身。がっぷり四つに組むつもりだったので、小説のルールとしてはありですが、多少残念閔子騫です。

以上