「オールド・ドッグ」ཁྱི་རྒན། "Old Dog"(映画で見る現代チベット チベット映画特集)劇場鑑賞

2011年。88分。第12回東京フィルメックスという映画祭でグランプリをとった作品だとか。

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『オールド・ドッグ』 Old Dog / Khyi Rgan:東京フィルメックス・コンペティション : TOKYO FILMeX 2011 / 第12回東京フィルメックス

この、安西肇と与沢翼フュージョンしたようなオッサンが主人公なのですが、宣材のスチールではオッサンの父親である老人ばかりが使われています。

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Old Dog (film) - Wikipedia

Pema Tseden - Wikipedia

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/thumb/8/86/Old_Dog_%28film%29_poster.jpg/220px-Old_Dog_%28film%29_poster.jpgオールド・ボーイとかレザボア・ドッグスとか、その手のタイトルの映画が多いので、それでオールド・ドッグという題名にしたのだろうかという。

「羊飼いと風船」も家族計画の話でしたが、これも子作りに絡んだおはなし。それも不妊、の、はずが、急転直下、ネタバレでいうと、キレやすい老人登場でゲットオール。

1990年代末、中国富裕層の間で起きたチベットマスチフ犬ブームを背景に、「犬を通じてチベット族の現状を表現したかった」と監督が語る衝撃作。主人公は老マスチフ犬を飼っている牧畜民の老人。犬を売り飛ばそうとする息子、しつこく付きまとう仲買人や犬泥棒。老人は「犬は民族の誇り」と手放すことを頑なに拒むが……。 

映画で見る現代チベット チベット映画特集 | 岩波ホール

下記は2014年3月19日 15:43のニュース

www.afpbb.com

下記は2016/6/12のニュース

withnews.jp

下記は2017年9月19日のニュース

中国でチベット犬バブルが崩壊 捨てられた野犬が大量発生 | ハフポスト

というご時世を背景にした映画。字幕監修者で、上映後短いトークショーをしてくれた、一連のアムド映画日本上映の仕掛け人でもある人の「ユニット」が訳した小説、ツェラン・トンドゥプ『黒狐の谷』で、いいように牧畜関係の実用品を漢族古物商に買いたたかれる展開の延長線上にあるストーリーと言えると思います。また、ラシャムジャ『雪を待つ』で、漢人古物商の手先になって、広範囲に散居する牧畜民住居を訪ねて、隙あらば価値のある品をかっぱごうと狙ってるチベット人商人がそのままこの映画の犬狙いとも言えます。いくら麻酔で眠らせようとしても、獰猛な犬ですので、扱いになれたチベット人でないと、吠え立てられるに決まってます。むかし追いかけられたことのある私が言うのだから間違いない。

チベタン・マスティフ - Wikipedia

犬ブローカー1の王と云う男は漢族なので、彼とほかのキャラとの会話は、漢語です。チベット語ではない。西北方言。イントネーションが違うだけで、北京語と同じ北方方言のカテ。王役の役者さんはエンドロールを見ると、楊本加とあり、漢族性で名前がチベット系なのだろうか、父母が漢族とチベット人というケースだろうかと思いましたが、次の映画「タルロ」で、ヤムツォという女性が楊措と書かれていたので、ヤムペマギャルとかそんな名前かなあとも思いました。

おととい見た「風船と遊牧民」は、「マレ」「チェズレ」の映画でしたが、この映画は「ジョ」(行こう)の映画。ガンガジョチ、コルガンジョチ、ジョチニ。やたら「ジョ」という単語がせりふに出ます。チベット語の「ジョ」と漢語の「走(ゾウ)」って、似てますが、關係ないのでしょうか。なにせ、シナ・チベット語族ですから、大きな枠組みでいうと。シナ・チベット語族の中で、唯一かつ最大規模の特異点が漢語だとか。遊牧騎馬のアルタイ語族を繰り返し中華王朝に取り込んだ結果、シナ・チベット語族のなかでひとつだけ浮いた言語になってしまったという、漢語。

テレビがあると、だらしなくテレビばかり見てしまう、という場面はわざとそこを強調させた演出だったと思います。298元。天呐!

https://filmex.jp/2011/img_compe/fc03sub2.jpg魔女宅の冒頭、キキが草原で寝転がってる場面を見て、いつか草原で寝っ転がってやろうと夢想していたのですが、いざチベットの草原に寝っ転がってみると、羽虫がブンブン飛んでて、たかってもくるので、あまり想像してたほど快適ではないという、そういう草原が出ます。

で、そういうとこに、こういう朽ちた土造建築物の遺構みたいのがあると、すぐ、これは50年代か文革期かに破壊された僧院ではないかと、妄想を膨らませてしまう外国人旅行者。

で、町に戻ると、狭い路地と密集農家で構成される農村と違い、一本の公道沿いに建物が並んでいる、殺伐とした牧地の商店街で、旅社か招待所が一軒二軒あるだけなので、どうにも目立ってしかたがなく、なので白人旅行者などは初めからこういう街には入りこまず、どのみち僧院なども公道から離れた辺鄙なところにあるわけですから、ひたすらキャンプして移動しようとしたりするという、ようなことが、厳しくない時代はあったんだろうなあという。

ネパール語堪能なイギリス人にチベットで会った時、彼がチベット人を評して、「タフピープル」と言っていたのを思い出しました。この映画はアムドですが、西川一三だかのカム旅行で、「人殺しつつ、経唱えつつ」の世界だと言っていた、その底力でキレ芸を演じている感じです。字幕監修者は、そのショッキングな結末に、この日は上映見ないことにしたそうですが、まあ見てもいいじゃん、というか、今安いなら、チベタンマスチフ飼いたいです。番犬用に。以上