デキ・ドルマ བདེ༌སྐྱིད༌སྒྲོལ༌མ། bde skyid sgrol ma『チベット女性詩集 現代チベットを代表する7人・27選』དབྱངས༌ཅན༌པི༌ཝང༌ལྟང༌ལྟང༌། "Tibetan Women's Poetry Collection. 7 Representatives of Modern Tibet, 27 Poems." (現代アジアの女性作家秀作シリーズ)(Contemporary Asian Female Writers Excellent Works Series)

チベット女性詩集│ゾンシュクキ/デキ・ドルマ他

編訳者:海老名志穂サン。段々社編集坂井正子サン。装丁者未記ながら、担当されたということなのか、草本舎の青木和恵サンにイラストレイアウトの謝辞。イラストは勿論蔵西サン。日本学術振興会特別研究員研究奨励費と東外大AA研共同利用・共同研究課題「チベット・ヒマラヤ牧畜文化論の構築 ー民俗語彙の体系的比較にもとづいてー」の成果一部。

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概括は上記に書きました。

ふたり目はデキ・ドルマサン。བདེ༌སྐྱིད༌སྒྲོལ༌མ། bde skyid sgrol ma

いつものように、打ち込んだチベット文字が合ってるかは知りません。

アムドのソクゾンというところ出身だそうで、そこは、ようするに河南モンゴル自治県。夏でも湿った冷涼な牧地で、小遣い稼ぎの冬虫夏草掘りに精を出す現地の人がいて、チベットなんだけど黒くて四角いゲルでなく、白くて丸いパオなので、ホショト部というモンゴル人たちが言語や服装面で周辺チベット人と同化しつつも、住居の形式などでモンゴル人認定されうる、という土地柄。確かここ出身の男性作家もいたよな、と思ったら、それはツェラン・トンドゥプサンで、デキ・ドルマサンは民族中学でツェラン・トンドゥプさんにチベット語と漢語を教わり、その縁で執筆活動を始めた師弟関係の仲なのだとか。

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また、詩人のジャンプという人には化学を教わったそうです。

四つの詩が紹介され、その後、【コラム2】「チベット文学に新しい風を吹き込んだ女性たち」海老原志穂サンが掲載され、そのコラムによると、デキ・ドルマサンの下記詩は、チベット文学において初めて女性の身体性をテーマとした詩になるんだそうです。

妊婦の記録』 ཟླ༌ཐོ༌ཆུ༌མོ༌དགུ༌མདུད།

チベット語版青海新聞に2003年発表。中国語の新聞はまず「新聞」という漢字を使わないので、漢語版の同紙をそのまま書くと「日報」とかではないかな、と思うんですが、チベット語から直接日本語なり英語なりに訳せば、そりゃニューズパイパーにもなろうし(豪州弁)ガゼッタにもツァイトゥングにもなりましょう。その後、青海出版社から2011年に出た『草原の愛』རྩྭ་ཐང་གི་བརྩེ་བ།という詩集に収められ、本書の使用テキストもそれ。

「一ヶ月目の幸せ」「二ヶ月目の疑い」「三ヶ月目の嬉しさ」「四ヶ月目の後悔」「五ヶ月目の驚き」「六ヶ月目の愚かさ」「七ヶ月目の恐れ」「八ヶ月目の悲しみ」「九ヶ月目の苦しさ」と続き、陣痛が始まった時点で終わっています。そしてその後、蔵西サンによるカンリン・ポチェ(カイラス山)のイラストが、何故か載っています。出産に似た光景なのでしょうか。

母の記録』 ལོ༌ཐོ༌བརྩེ༌བའི༌ཞགས༌ཐག

これも、一ヶ月目から十一ヶ月目、一年目と続く育児観察記録ポエム。九ヶ月目に突然、チベットの子どもなので、チベット語で「アマ」と初めてしゃべって母親を呼ぶ場面があり、なんしかじ~んと来るものがありました。私はザリン湖とオリン湖のほとりの家で、そこの子が三歳くらいにポリオかなにかで高熱出した後、耳が聞こえなくなってしまい、それまでに口から出していた言葉は言えるのですが(もちろんそれは本人には聞こえない)そこで止まってしまい、さらにはその返答も聞こえないので、ときどきかんしゃくを起こして暴れていて、歳の近いお兄ちゃんを困らせたり、母親に抱かれて泣きやんだりしていました。前にも書いたかもしれませんが、そのことを思い出します。

私は『よいおっぱい悪いおっぱい』も読んでませんし、『私たちは繁殖している』も読んでないので、日本のそのジャンルの文学とこの作品の比較は出来ません。

初出不明で、その後、青海出版社から2011年に出た『草原の愛』རྩྭ་ཐང་གི་བརྩེ་བ།という詩集に収められ、本書の使用テキストもそれ。

消えた「わたし」』 བོར༌ཟིན༌པའི༌ང།

海西州の文芸誌「カンギェン・メト」に2007年掲載。その後、青海出版社から2011年に出た『草原の愛』རྩྭ་ཐང་གི་བརྩེ་བ།という詩集に収められ、本書の使用テキストもそれ。

草原の愛』 རྩྭ༌ཐང༌གི༌བརྩེ༌བ།

青海省の文芸誌「ダンチャル」に2002年掲載。その後、青海出版社から2011年に出た『草原の愛』རྩྭ་ཐང་གི་བརྩེ་བ།という詩集に収められ、本書の使用テキストもそれ。

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この後五ページイラスト。その後、【コラム2】チベット文学に新しい風を吹き込んだ女性たち」海老原志穂サン。チベット文学はながく僧侶による仏教文学として語られてきた。ので、その中にときどき現れる女性のテクストも、修道僧尼による仏教的なものばかりで、そうでないテキストの登場は、中国の80年代フェミ文学革命が内地に及ぶまで待たねばならなかったです。

以上