シンハラ人のスリランカ料理店にNHKドラマのポスターが貼ってあったので、それで読みました。讀賣新聞2020年5月7日~2021年4月17日まで夕刊連載。単行本化にあたり加筆。2021年8月初版。読んだのは2022年3月の6刷(!)装画 西山竜平 装幀 中央公論新社デザイン室
巻末に各位への謝辞。参考文献中、タイトルの元になったスリランカ民話の電子書籍があり、この読書感想もそこからシンハラ語タイトルをひっぱりました。小説に英題併記がなく、ドラマも日本語のローマ字表記だけでしたので、上記シンハラ語をグーグル英訳したものを併記します。
運よく上記アマゾンの表紙画像からグーグルレンズでシンハラ語をコピれました。ふつう二言語併記だと、どちらかが文字化けするのですが、上記は日本語が文字化けで、シンハラ語の勝ちです。
ただ問題のないものはなくて、シンハラ語は英語の借用語が多い言語らしく、この民話タイトルも、文字はシンハラ文字なのですが、「ねこ」がプッシーです。シンハラ語でもねこをプッシーというわけないので、英語をシンハラ文字で書いてるだけかと。
鶏肉のチリソース炒めをデビルチキン、春雨をスリング、きしめんみたいなコッツをドルフィン・コッツ、目玉焼きをブルズアイというように、シンハラ語は随所に英語が入ってくる、さすがウィッキーさんの国、ですので、ねこがプッシーでもいいのですが、でも、なんかなあ。例のワニのかたちをしたスリランカの有名なパン、キンブラバニス"Kimbula Banis" කිබුලා බනිස් はアリゲーターでもクロコダイルでもない、シンハラ語なわけなので、ねこもシンハラ語でいいのではないかと。
「やさしい猫」をグーグル翻訳すると、කරුණාවන්ත බළලා karuṇāvanta baḷalā になりますので、そのうちそっちがホンマもんのシンハラ語名にならないかなあと。"pūsī hon̆da pūsī" プッシーホンダプッシーはなんかやだなあ、なんとかしてけさいと思いました。
<ここから後報--------20230906-------------->
スリランカ料理店のしとに訊いてみると、බළලා バラーラは文語で、පූසී プゥシーは話し言葉なんだそうです。プッシーでなく、プゥシー、pūsīを素直に読めばよかった。で、プゥシーはめすねこの意味で、おすねこはプゥサだとか。
- කරුණාවන්ත බළලා karuṇāvanta baḷalā 親切な猫
- පූසී හොඳ පූසී pūsī hon̆da pūsī 良い猫
むう。
<ここまで後報--------20230906-------------->
私はこの人を、『イトウの恋』くらいは読んでるのですが、イザベラ・バードのまんが『ふしぎの国のバード』に激しくインスパイアを与えたと思われる割に、クレジットに出てこないのかな、可哀想に! と思うくらいで、あと、『漢方小説』も読んだかな、と思ったら、違う作家さんの小説でした。
本書がテーマとして取り上げている問題は、文字通り日本を分断するテーマのひとつですので、本書並びにドラマもそれなりに粘着されており、そういう本の読書感想を書くのも、めんどくさいと思うのですが(私は「東京クルド」も「牛久」も観てません)スリランカ料理店にポスターが貼ってあったしなあという。
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そのかわり、上記、安田奈津紀サンの本で、当事者も日本は難民認定が塩対応なので行きたくないのに、ブローカーにだまされたり、土壇場のリコンファームで成田行きのチケットを受け取るかご破算にするかを迫られたりで訪日する例を読んで、どこの誰かは知らないけれど、世界にはブローカーの世界があって、彼らはつねにゆさぶりをかけてくる、カスタマーファーストではぜんぜんない人たちなんだなあと思ってます。杉原千畝サンの逆張りかな。
でも本書は難民認定の話ではないので、そこは出ません。主人公スリランカ人が長期拘留した際のルームメイト、イラン人やビルマ人、中国人の中には政治的に帰ったら本気でヤバい人が混じってそうだったのですが*1、語られません。ポットでケーキを作る方法なんかが語られます。
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上記のプラ・アキラ・アマロー師の本に入ってる1984年発表『72時間の祖国』は、強制送還しようにも無国籍なので送還先がなく、ゆえに本気で先の見えない長期拘留をされている(本牧時代の収容所)華人青年の婚約者の邦人女性の話です。こういう人に法務大臣決済の特例永住許可を与えて、それがあっというまにハンコめくらおしの濫用になって、というあとの時代が『やさしい猫』かなと思いながら読みました。
そもそも法務大臣の決裁は、事実上の朝鮮戦争避難民救済のためのもので、それを表立って認めてしまうと日本として何かが崩れる、ので、法治でなく人治の大臣決済を使ったわけで、それだからずっとブレてるというか、シン・ゴジラのヤシマ作戦みたいな、スカッと胸のすく解決出来る能力も権限もある官僚なのに、なぜ思い通り躍動させてくれないんだ? 例えば、愛知県の開業前の病院をダイヤモンドプリンセス号の感染者収容に使って、横須賀から愛知まで、自衛隊の防疫班フル稼働で空気感染防止に万全を期しながら輸送し、こんなウルトラCな解決法他の誰も出来ないだろう、褒めて褒めてと思ったら、周辺住民が事前説明がないことに怒ってる、根回し軽視すなやと言われ、なぜ国民が国難に際しおもんばからないんだ? と視野を広く持たず苦悩してるようなことをずっと続けてる気がします。
戦前から日本にいる人だけを永住対象と規定してしまって、しかし連合軍は一時プサンまで押しまくられたわけですから、玄界灘を越えて逃げてきて居着いた人たちがいないわけがなく、定義と、人智を超えた現実の乖離をすり合わせてうまいことまるっと処理し得ない。ユギオ避難民と経済難民の切り分けを入管に丸投げしたところで、もともとゼロワン回答出来るものでもないので、どうしたってグレーゾーンの焦げ付き案件が出る。隣国の戦争難民を日本は受け入れなかったんですか? 杉原千畝の国なのに? とも言われたくないし、おおっぴらにもしたくない。戦前から日本在住の証明が出来る人をまず切り分けて対応して、その後、残りの人たちの幾たりかをナントカ法何条で救済して、さらにその後、理屈でどうにもならない人たちを、法務大臣の特別決裁で、最終的恒久解決。要するに三段階で処理。で、その後も、前線の入管が、えんえん、「みっちゃん」©大村収容所と対峙させられる。そりゃスパイ防止法をべっと制定してもらって、水際対策は公安に任せたくもなろうと。ここが本書に繋がる原点のはずで、本書に出て来る奄美はスタートラインではないです。
大分の湯布院に行った時でしたか、おそらく釜山から鴨緑江まで押して押されての中で、自分の身元を証明するものが何もなくなってしまった人が、大分の山岳地帯の人たちの厚意で、ひっそりと戸籍も何もないまま、阿蘇の山の中で炭焼きを営んで暮らしていたと聞いたことがあります。誰もチクらない。チクっても寝覚めが悪くなるだけで、なんのメリットもないし。私が行った時はまだご健在だったそうですが、物見遊山で会う必要もないので、話を聞いただけで終わったです。前世紀は、そういうこともあったらしいということで。
[B!] 在日外国人の暴走に「住民は恐怖している」は本当か? 現地で見えた埼玉県川口市「クルド人騒乱」の真実 - 社会 - ニュース
本書はクルド人も出て来るのですが、彼らがどう難民なのかをずんずん踏み込むようなところまで書き切れず、筆が鈍ったんじゃいかと思いました。仮放免だから働けない、で止まっていて、上のルポみたいに、働きゃなきゃ収入がないんだから、働いてるに決まってんじゃん、みたいなとこまで踏み込めなかった。仮放免だと国民健康保険に加入出来ない点も、だから顔写真のない保険証は貸し借りするのにべんり、みたいなマイナンバー一本化でごまめを助けるような描写は一切なし。國民を分断するテーマは、難しいなあと改めて思いました。
そのように、本書は仮放免が労働するシーンは1㍉たりとも出てこないのですが、ネットのレビューでは、仮放免が働く場面があるなんて法の無秩序ガー、けしからん小説デス、アカン、みたいのがあって、ああおとくいの印象操作、もしくは模造記憶の持ち主、とも思いました。ほんとめんどくさい。
頁22はじめ、主人公の長いスリランカネームが出ますが、「ラナシンハ」が、「ナラシンハ」ではないかと思いましたが、ラナシンハはラナシンハで、ある名前のようでした。
頁21で、ファーストネーム、ラストネームという言い方が出て、お前はステイツ在住のアメリカ人か、と思いました。ファミリーネーム、オウンネームと言いなはれ。
頁40、「セレンディピティ」という単語は、そもそも語源がスリランカ絡みだそうです。
頁55、ポルサンボルはじめ、スリランカの食生活が出ます。ポルサンボルは、ポルサンボーラと書いてある。頁62の代々木のスリランカフェスの場面では、ワタラッパンとビリヤニが出ます。私が分からないことのひとつが、代々木で国や民族ごとにフェスティバルがしょっちゅう開催されることで、何がルーツで、どれだけの国や民族がフェスをやってるのか、一覧表を見てみたい。と思って今ちょろっと検索したら、北海道フェスや九州フェスもあったので、「国や民族」という言い方もへんだなと思いました。どう言えばいいのか。頁217に出るエッグホッパーは食べたことないです。たぶん。
頁64、海のネギは食べてはいけないという、その海のネギが分かりませんでした。検索も及ばない。
頁67、スリランカって書いてあるTシャツというか、シンハラ文字が書いてあるTシャツは私も欲しいのですが、ないのかな。シンハラ文字で、「刑事コロンボ」とか「ウィッキーサンとスピークイングリッシュ」とか「牛食うなbyタミル人」とか書いてあるやつ。どれかはシャレにならないかも。
頁79、スリランカの新年は四月だそうですが、タミル人もそうなのだろうかと思いました。ムスリムは、ちがうだろうな。
頁80、当時のスリランカ大統領顕彰碑が出ます。
頁129の在留資格の話、最近読んだビッグコミックのジャズまんが、ブルー・ジャイアントのニューヨーク編みたいだと思いました。アメリカが日本を参考にしたんでしょうか。
頁172の審理官はひどいと、読んだら思うと思います。頁306の弁護士事務所は、あったかくて、居心地がいいと読んだら思うと思います。弁護士の前でウッカリガイジンによりそわないような、意識低い系の発言をして、上から目線で叱られて、どっちも感じ悪いと主人公が思う展開になったらネ申でしたが、そうはなりません。
頁184、主人公は高校入試二次募集も落ちて三次募集に受かります。これが噂に聞く都立高グループ入試か、と思いました。知人の東大院卒が学生時代カテキョをやったのですが、やはり教え子が都立高グループ入試ギャフンだったそうで、東大生なのにヒソヒソとやられて、もう二度と家庭教師のアルバイトはやらん、と鼻息荒く断言してました。同じページに、入管は品川より天王洲アイルの方が近いとあり、時代が変わってインフラも変わると思いました。「それでも、長期収容は変わらないと」「誰がうまいこと言えと。うまかねえけどな」
頁208、本書は難民の話ではないので、在留特別許可をもらおうと法廷で争う話になるのですが、在留特別許可の略語が「ザイトク」だそうで、ザイトクといえば在日特権、とネットスラングから思っていたので、新鮮でした。おおむかし、国会図書館で催された東大生産研喜連川教授の講演を聞きに行ったら、ファブリーズを使うことを「ファブる」とちぢめたネットスラングが流行ってるという話になって、観客がどっと受けてましたが、私は「ファブる」を知らず、2ちゃんの「火病ファビョる」なら分かるので、すごく肩透かしを食らった思い出があります。
頁287、スリランカ人とキャッチボールして運動苦手を克服したという話があり、へーと思いました。クリケット好きでも、野球の基礎やったりするんだなと。
頁301、中国人女性がデマを流す場面も面白かったです。キンペーチャンの指示ではないと思います。東京五輪のため長期収容を増やして、出さないという話。インドでカルカッタで国際会議や大会があるたび、デカン高原にコジキを捨てに行く、というウソ話を思い出しました。
ヒロインが話しかけてる相手が誰なのかは、百ページ一寸過ぎたあたりから予測がつき、当たりました。一銭も儲からないのに、当たってどうするという。
現実のクルド人ナンパ師が影を落とした、クルド人のハヤトというキャラについて。ヒロインとヤレそうになってもヤラずに「マジメだよね」と相手を評して去る、という展開になったので、う~んと思いました。邦人なのはわかってたことだし、でもまだ結婚する年でもないし。でも最初ハヤトがナンパしてきた時は、日本育ちで母語がヘタクソな韓国人か中国人ガールだと思って声かけてきたんですよね。遊び目的だったのでしょうか。本書は、邦人は三ヶ国では比較的その偏見の薄い方ですが、それでも大坂ナオミサンの件などでも認識しないことはない、肌の黒い人と白い人へのアレについても踏み込んでないので、コーカソイドとネグロイドという人種の特徴からはみ出た、色は黒いけれど彫りが深い南インド系について何か云うことはないのですが、ホントは、ハーフモデルのようなハヤトと、色黒のクマさんについて、何か対比して語るつもりで、それでクルド人とシンハラ人という二つの民族を出したのかしら、ともちょっと思いました。
巻末に参考文献と謝辞。珍しく、編集の名前が出ない謝辞でした。
後半は法廷もののジャンルになると思うのですが、知らないがゆえに大変なことになる展開が、デジタルデバイドでオレオレ詐欺にひっかかるご老人を三匹のおっさんが助けるような展開ともまたちがうし、あれよあれよとサイコに巻き込まれるホラーにすると、入管=サイコということになって、その方がうけたかもしれませんが、なんか複雑だし、難しいと思いました。かといって、無知は罪、みたく上からでやってしまうと、絶対人口が増える方向に行かないだろうし。むかしのタイみたいに多少のオーバーステイは罰金払ってマレーシアに出てまたすぐ再入国出来るといった芸当が日本でも出来ると勝手に都合よく思い込んでいたりとか、五年再入国禁止ったって、DBに出ないように母国文字のアルファベット表記を変えてパスポート取り直せばいいじゃん(これもタイ人戦法)とか、そういう小賢しい手を使って策士策に溺れて、身内同士でもおお揉めに揉めて弁護士と魚屋が殴り合うような場面があったらもっとよかったのにな、と思いました。
以上