酒ほそ54巻の帯に広告があったので、買いました。WEB太陽2021年7月~2022年9月の連載をまとめたもの。ご本人は、自伝なんてまんずはんかくせ、おしょすいべや、と思ったそうですが(米沢弁だとどう云うのか知りません)手練れのライターふたりのリライトがあまりにうまいので、まあいっかとなったとか。その辺が書いてある「はじめに」byラズウェルサンが巻頭、巻末には「おわりに」by酒の穴、それと略年譜、単行本刊行リストがあります。コロナカでしたし、住んでるところもバラバラの三人なので、すべてリモートで行なわれた鼎談をパリッコサン&スズキナオサンのユニット「酒の穴」が文章に起こしたもの。録画から文字に起こすのも今はAIとかがやってくれるんでしょうか。かなり労力減な気はします。
カバー・口絵 撮影=栗原論 デザイン 鯉沼恵一(ピュープ) 「はじめに」で、左記のカメラマンサンと平凡社菅原悠サンに謝辞。
私はラズウェルサンの人生のアウトラインをかなり誤解してますので、その辺の事実関係の認識を修正するツールとして最適でした。こんなに誤解してインカ帝国というくらい誤解している。
①ラズウェル細木の細木は本名だと思っていた。
ラズウェル細木は漫研時代からデビュー初期のマンガの主人公の名前だそうで、それが何故か本人のペンネームになったそう。本書のどっかに、本名のみよ字も書いてあった気がしますが、忘れました。私は勝手に、ラズウェルなんて日本人はいないから、そこは芸名だろうけど、姓は本名で、細木数子と関係あるんだろうか、細木数子といえば安岡正篤の晩年(酒乱の後妻)だけど、どうラズウェルの人と関係してくるんだろうか等々、勝手に妄想の翼をはばたかせていました。まったく関係ないかった。
②山形から大学進学で上京した人だと思っていた。
それはまちがいではないのですが、山形の人と言い切る前に、父親が転勤族だったので、京都で生まれ東京で育ち、小学生の時に山形に移ったんだそうで、だいぶ地理面で重層的な人格形成がなされたようです。
京都では御所の近くに住んでおられたとかで、グレゴリー・ケズナジャッサンの住んでいた出町柳も御所の近くといえば近くですので、そっちかと勝手に思いましたが、夷川通というところの近くに住んでいたそうで、今地図で見て、私が離婚調停で大変お世話になった京都弁護士会や弁護士会館、その先に一保堂があるんだと思いました。
パリッコ&スズキナオサンが、ラズウェル一家が住む借家があった近くの、青果市場のあったころのアキバを知らない様子に見え、そんなものかなあと思いました。日本農業新聞社があのへんにあったので行ったことがありますが、青果市場の移転とともにいなくなったコジキが舞い戻って来たのを手に職というわけで、自治体が支援してリヤカー引かせてなんかさせてたのを見た記憶があります。青果市場があると乞食が多いというロジック自体が、今世紀では理解が難しいのかもしれません。青果市場の余りものはナマでは食べれませんので。
大学進学に際しては、現役で落ちた後上京して代ゼミに一年通って上智と早大に合格して早稲田に進学したそうで、在京の親族が保護者がわりに素行を見てくれたので親が上京を許したそうですが、酒ほそに出て来るオジサンとはまったく別キャラだそうです。私はラズウェルサンは一文の国文学か演劇の人かなと勝手に思ってましたので、教育学部とはこれまた意外でした。国文科は国文科ですが… 教育学部卒の有名人というと、二浪して入学した苦労人、ロッテ小宮山選手がまず思いつきます。
③育児まんが『パパのココロ』は、離婚後ソロで子育てした記録かと思っていた。
本書を読むと、『パパのココロ』が再版されないのもむべなるかなと思いましたが、それもまた勝手な思い込みで、電子版はナンボでも読めるようです。どうりで酒の穴のふたりがよく知ってるわけだ。
『パパのココロ』は、『ママはぽよぽよザウルスがお好き』青沼貴子『あたし天使あなた悪魔』田島みるく(どちらも私は未読です)と同時代の育児まんがで、離婚前の執筆。母親が家事放棄して父親が泣く泣く育メンしてるかのように読める場面が多いので、当時はまだ限定的ですが、それなりに炎上したそうです。描き方については、パートナーのしとに相談して了承を得たうえで描いたそうですが、それでもDISられるとパートナーのしとは心中おだやかでないかったとか。それが理由ではないそうですが、ふたりは協議離婚、娘にどっちに行くか聞いて父親が育てることにしたとか。
で、ここからが中央線沿線群像っぽい話なのですが、離婚後、パートナーのしとは忙しくなったラズウェルサンの通いのアシになったとか。こじんのそんげんとかいろいろ理由はあれど、エクストラワイフが宗達の頭髪のベタ塗りをやっていたなど、あおしゃかさまでもきづくめえという(気づくでしょうが)
さらに中央線沿線群像っぽい展開で、元パートナーのしとはタロット占いを極めるためアシをやめ、かわりに娘さんが学業をおえたあとアシになったとか。星野之宣のアシサンも息子さんだそうですし、ジブリ美術館の館長のようなポストはそうそうないので、マコとルミとチィでなく、別業界に進出とかじぶんもクリエイターになるとかでない場合、そういうこともあるんだろうなと思いました。
で、ラズウェルサンは、生涯一穴主義とかそういう単語はまったく出ませんが、エクストラワイフの方をとても愛してるんだなと随所で分かるトークをしており、初期のかすみサンは色濃く元パートナーの方を反映したキャラではないかというのが酒の穴ふたりの見立て。私は逆に、近年のかすみサンは娘さんを反映してるのではないかと思っており、スピノフ『かすみたなびく』パリ旅行編で、無防備にGPSオンの写メをついった(当時。現在の名称はエックス)であげまくったために、邦人旅行者狙いのストーカー犯罪者にロックオンされてしまう話は、あまりにリアリティがあったので、娘さんの卒業旅行か何かの実話でないかとするうがった見方を捨てきれません。こんなに誤解しまくって、まだやるかという。業の多い人生(私が)
ラズウェルさんの京都移住に女性の影があったとしたら、中島らもがわかぎゑふと本妻サンのあいだでガーみたいな印象がと思うこともありますが、本書のようにエクストラワイフへの愛が溢れてると、まったくそれはないかなと。元パートナーのほうとしても、男の方が引き摺る、みれんたらたら重い、やめて、となってたらアシなんかしないでしょうから、それなりのいい関係でしょうと。
帯。「酒に愛された男」というコピーは、パリッコサンも清野とおるからそう言われてました。本書は太田和彦や吉田類の名前は出ますが、元酒つま編集長大竹聡サンや清野とおるサンは出ません。
頁29、ラズウェルサンがCOM休刊後ガロを読み出した時期は、安部慎一、鈴木翁二、古川益三ら「一、二、三の時代」だったそうで、私はその三人の誰も読んでません。今はどんな希少まんがも電子版で読めるのでいい時代ですねと書いてから検索したら、三のしとは電子版ありませんでした。ガロでますむらひろしが入選した時、同期で入選したのがひるこのうじゅう、もとい蛭子能収だったとか。あと、漫研の後輩として、けらえいこが出ます。ケラサン(サンドロヴィッチではなく)のまんがも読んだことないかなあ。いや、あたしんちは連載してるので、目を通したことは絶対あるはず。でも記憶にない。
頁40、ラズウェルサンが最近中華圏に行くと、あちらでは若者の白酒離れが進んでいて、ラズウェルサンが白酒を飲んでるとガイドに驚かれるとか。へえ。
頁116、『酒のほそ道』というタイトルは、エクストラテレストリアル、否ワイフのひとが考えたそうで、しかも彼女はラズウェルサンのズージャまんがのファンだったとか。すごい話だ。私はラズウェルサンのズージャまんが読んだことありません。本書には竹書房で新人賞とった短篇と早大漫研時代の短編が載ってますが、なんともいえない。よくこれで以下略 頁78、大学卒業後、就活には失敗してるのですが、フリーのイラストレーターを一匹狼でやるのもなんなので、仲間を集めて事務所を作って、事務所所属のフリーイラストレーターということで仕事をもらいはじめたそうです。以前読んだユーネクスト社長宇野サンの伝記でも、大学卒業後自分たちでベンチャー企業をたちあげて、資本金はそれぞれ限度額までクレカで借りたとあり、そういう時代だったのかと思いました。
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似顔絵かきがけっこういい収入になったとあり、私は行ったことないですが、平塚の七夕祭りにも学生アルバイトの似顔絵かきがいたと聞いたことあります。似せる絵よりよく見える絵というのは分かりますが、好まれる絵のポイント、ノウハウが、漫研に受け継がれた無形財産に思えます。
本書各章にはご本人のイラスト、本文には本院本人提供当時の一枚多数。酒ほそでは、毎回単行本を出すたび、コラムをたくさん書き下ろさねばならぬのが苦痛と書いてますが、凝り性なんだなと。本書でも。
美味しんぼや一本包丁万太郎などのグルメコミックと酒まんがの路線のちがいなどは縷々触れられてますが、頁210、柳沢きみお『大市民』くらいの料理の絵でいい、あれで「うまし」とやればそれでとてもおいしそうにみえて、食べたくなるとあり、なるほどと思いました。
④「ダリッコ」はパリッコのもじりとしか思ってないかった。
スズキナオという人は、54巻の写真で初めて認識したのですが、前の巻から出ていたそうで、作中の「ダリッコ」は安田理央サンというフリーライターサンが「ダリオ」で、彼女とパリッコサンを足して二で割ったそうで、途中までのウルトラマンエースというか愛善ボーグのようなものだったみたいです。モギサンという、酒ほそのいろんな面に影響を与えている人物の存在が語られ、その人を前面に出した企画も見てみたいと思いました。このへんは新宿の三平酒尞がよく登場し、向かいの歌舞伎町側の24時間営業のチェーン店居酒屋ゲロ系は現在すべて淘汰されたからか、出ません。昔は中国人店員が屋上から氷を通りに投げ捨てて韓国人店員が激怒して階段をのぼって以下略
コロナカ前に、中国語講座の人たちと忘年会やった時、今の居酒屋はこんな落ち着いていい感じになってるんだなと、呆れました。オタク関連は新宿のしょん横ばかりなので、世の中のフツーのイザヤ書、否居酒屋の変化が分かってないかったです。本書には初期のチェーン店の話が載っていて、懐かしく思う反面、最初の一杯を同じものにしなければならない昔のルールはナンセンスという箇所は、ちがうと思いました。店としても、オーダーをいちいち耳で聞いて紙に書いて受けると、間違いも多いし、作るのにも時間を要するので、乾杯が遅れます。客はしらけるし、文句言う客も出る。そうするとむかしなので、居酒屋の店員も黙っていない。手間のかかるもんばっか注文しやがって、てやんでいっ!となる。(結果、最初の一杯から酒がマズくなる)だから最初の一杯はシンプルに同じものを人数分という共通理解が社会通念になるまで落ち着いた。今は端末でオーダーなので、ミスオーダーは少ないと思います。それで全員別々のものをオーダーしても、サーブのスピードが前より早い。
本書に女子大生が登場せず、なかったことにしていたら糾弾してこの読書感想を終わらせることが出来るのでとてもラクでしたが、そういうことはなく、女子大生は出ます。今はなき多摩川河原の店とねこより少し少ないくらいの描写。
近況まんがの飲みっぷりはこわいくらいで、しかし本人的には、講談社で『う』をやった時に、ウナギばっかり食べてた時のが健康の数値は悪かったそうです。ウナギとコメばかりでは栄養が偏るからだとか。
「イカポ」というエクストラワイフの人を本書で知ることが出来てよかったです。すばらしい。
帯裏 松籟社の住谷春也『ルーマニア、ルーマニア』と同じ値段。京都の単行本の相場なのか。思えば、私と酒ほその出会いは、京都の知人から勧められて読んだのでした。私もパリッコサン同様、居酒屋で寝てしまうくせがありました。以上