「君たちはどう生きるか」(How Do You Live?)"THE BOY AND THE HERON" A HAYAO MIYAZAKI FILM 宮崎駿監督(原作と脚本も)作品劇場鑑賞

TOHOシネマズ割引デーの水曜日で、雨でしたので、観ました。以前観ようと思って、職場の福利厚生でTOHOシネマズの優待券を購入していたのですが、その頃は夜の上映で、どうにも機会がなく、人に譲りました。今日は朝九時前の上映だったので、観終わっても十一時で、時間を無駄にせず済むと思って、それもよかったです。

観客は二十名ほどで、老人男性が多かったです。六十五歳以上なら、何も水曜の割引デーに来なくてもいつも割引だろうのにと思いますが、人が多い日に来たいのかもしれません。人恋しいお年頃。

実際この映画は、老人ホイホイかと思うくらい老人のツボにハマる映画だと思います。アニメですけど、宮崎アニメはもうそういう域に達した。世界中そう思ってると思う。思ってないのは、この映画の広告の仕事に一枚カマせてもらえると思ってたら、一切広告打ちまへんと鈴木プロデューサーに言われてがっくし来たタイ人女性(推測)くらいか。

冒頭、B-29モロトフのパン籠も出ない空襲があり、「カルメン故郷に帰る*1浅間山があり、夭折した弟子の監督作品「思い出のマーニー*2へのオマージュともいえる洋館と沼があり、三輪車のブレーキを引く動作、少年がベッドに身を投げ出すと、遅れてふわっとシーツが空気でふくらんで、またおちつく描写のあたりで、完全にうまい、これはうますぎる、今のアニメの作り手がこういうことをやらないのは、予算の問題ではなく、気づきの問題に過ぎないのではないか。教えようとして教えられるものではないから。おそらく今後は断絶して絶滅する、日本アニメの至高の境地が此処に。マニュアルで作るものではない。自分でつかみとらねばならない(あるいは盗まなければいけない)センス、感覚の世界。と、思いました。

このシーツの動きは、たぶん実写で撮ろうと思っても、百回カメラ回して百回失敗すると思います。あげくCGに頼る。なぜかというと、脳内ではシーツはこう動くだろうと思って納得していても、じっさいはそうでもないからです。アニメは、実際の動きを模倣することにかけては実写に負けますが、実際とちがうんだけど、人間の認識ではこうなるはずというイメージの具現化が強み。しかしそれはセンスある人のみなし得る世界。センスがなければ、マンガと同じ絵がある程度動くだけ。

格子戸の窓だから少年の顔に十字の影がつくとか、いやんもうジジイ酔わせてどうするつもり。青鷺の縦横無尽な動きは言うに及ばず。

この映画はまだブログに書いてはいけないんでしたでしょうか。「もうみんな動画でネタバレやりつくしたんじゃないですか」とも言われたのですが、どうなんでしょう。

①なぜ『君たちはどう生きるか』という邦題なのか、映画は雄弁に語っています。少年が疎開先でイジメられて、これ以上いじめられないようわざと自傷して、村の子どもたちのせいになるよう権力者の父を利用して策謀をめぐらす中、死んだ母の、成長した自分へ贈るつもりだった本、吉野源三郎君たちはどう生きるか』を見つけ、同書は裏切りと寛恕の物語ですので、読んで考えるところのあった少年は、正直に、自分が村の子どもたちを陥れるため自傷したと告白する…… 海外の観客はコペルくんなんか知らないでしょうから、「青サギと少年」のタイトルにするしかないわけですが、国内の本作に関しては、「『風立ちぬ』読まんで映画観くさってドアホウが! そんでもこれは読むやろマンガもあるし」くらいの自叙伝映画の心意気なのではないでしょうか。

しかし世の中的には、「カジはミサトが殺した」など、どこをどうしたらそういうストーリー解釈になるねんという人が想像以上に多いことがSNSの発達とともに徐々に明らかになってきておりますので、この映画は、ワザとダマテンにして、ガマンしきれずストーリ―解説をする人の何割が内容を全く理解せず誤解してるか、AIで統計を取ろうと思ってるのかもしれません。

私は、線虫なのにくんくんぼくらは鼻が利く、否戦中なのにツーブロックのはやりの髪型なので、さすがキムタクが出る映画、やるのうと思ってましたが、そういうことではないかった。

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②この映画がこれ以上ないほどパヤオ監督の自伝だと私が思ったのは、ロリコンはマザコンのねじまがったあらわれであるという世の俗説を、これ以上ないほど力強くパヤオ監督が肯定してくれたからです。誰が少女時代の母親と旅したりハグしたりしようと思うだろうか。いや、思うのか。だから老人男性ホイホイで、すすり泣きの声が聞こえてきたりする。

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個室を与えられた少年が疲れで寝倒した時に義母(母の妹)が蓋つきの湯飲みでお茶を持ってくるのですが、蓋つきのティーカップなんて、殆ど日本で見ず、逆に中華圏ではとってもポピュラーな器なので、台湾の人そのほかは、観てうれしいのじゃいかと思いました。これでタバコがひかりでなくシラサギだったら戯夢人生ですが、さすがにそこまではという。韓国の人が、日の丸や砂糖でイラついて何か言ったと報道がありましたが、さもありなんとは思いつつ、そんなそのまんまの反応するだけかなというのもチラと思う。

クライマックスは桜が満開の横で紅葉が見頃だったりと、季節感無視ですべての花が一斉に咲いてますが、もうハリウッドが先にCGでやってても、ジブリジブリで、この程度のことは誰でも考え付くので、シンクロニシティーの一例でしかないと思います。むしろ、このくだりの花をぜんぶ(たぶん)写真に撮ったことのある自分を、私は褒めたい。

少年はスリッパをはかず素足なのですが、その意味は語られません。

瀬戸物の便器は、以前展覧会で見ました。常滑市の美術館で常設展示してるのかな。

Bunkamuraミュージアム「染付古便器の粋 青と白、もてなしの装い Blue-and-White pottery Toilets of Olden Times Through Adornment, the Spirit of Hospitality」鑑賞 - Stantsiya_Iriya

洋館の文字は、「この門をグーグル、否くぐる者、一切の希望を捨てよ」だと思ったら、違いましたが、当たらずと言えども遠からずでした。森見登美彦の人に忖度したのか。

地獄の門 - Wikipedia

fecemi la divina podestate,

聖なる威力、比類なき智慧

麦飯や大根飯が出て、後者は「坊ちゃんはお口にあわないでしょう」なんて言われますし、形からすぐ分かりますが、前者は、粒にタテスジが入ってるのをめざとく見つけた者のみが二月の商社です。

以前、相模原市の老人から、戦中戦後は農家の子どもたちから、欠食児童として散々からかわれた、百姓なんてでえきれえだっ!!!と強く言われたことがあります。この映画を見て、そのへん、さまざまな思いがよぎる人も多いでしょう。戦後の担ぎ屋、闇米まで映画でやれば、今度は濡れ手に粟だと思った農家が海千山千の闇屋に騙される場面がたくさんあるのですが、それはまた別の話。

ポニョを見た時、村上隆、否奈良美智風の絵を臆面もなく使うなあ、この辺のおかまいなし感は世代的なものだなあ、と思いましたが、本作でも、ちいかわっぽくね? と思ったり思わなかったり。それが、インコになるとそうでもなくなり、全能の支配者である作者の分身たるオオオジサマの造詣がとても凡庸で、それまでハードルが上げられるだけ上がっていたので、ガッカリ感もハンパなかったです。でもドーラの旦那とか、ユパさまとか、ムスカとかクロトワとかカリオストロ伯爵とかを自分になぞらえたくはなかったのでしょう。私としては、映画の出来をすべて台無しにして、遊人『ANGEL』のあの顔を出してみたらどうかと思いました。でも実行したら絶交。

朝食をとらずに映画を見たので、ぐーぐー腹がなりました。また、二回途中でトイレに抜けています。近いので。最初はキリコ登場前。海とか帆掛け船とかよく分かってないです。波打ち際の、鏡のように足が映る絵はウソくさいと思いました。誰のアイデアだったんだろう。二回目は、インコの王がオオオジサマと直談判するあたり。よく分からないうちに最終決戦になって、ニュータイプが発動してホワイトベースが轟沈してた。

いちおう『セクシー田中さん』ネタで言うと、角野栄子サンは映画魔女宅にまったく納得していなかったそうですが、あまりに名作になってしまったので、もうなにがなんだか、というコメントを今回の騒動のどれかのコメントで読みました。結局魔女宅はユーミンが偉大。コナンとか考えても、パヤオサンはじゅうぶんに原作クラッシャーだと思います。モンキー・パンチは遊んで暮らせるので何も言わなかったと思いますが。

リドリー・スコットクリント・イーストウッドもたいがい高齢映画監督続けてますが、チャップリンが晩年「ニューヨークの王様」という駄作を撮ったように、批評家とか私以外の辛口の観客(うそ)とかはみな、最終作コケろ最終作晩節汚せ泥を塗れと思ってると思います。軽々と乗り越えるあたり、やはり天才なのかなあ。スピルバーグはんゴジラ-1.0三回もみてるばあいやおまへんでという。

場内のジジイはみんな、キリコ胸はだけろと思ってたと思います。そうは問屋がおろし金。

あと、今の70代80代はホントにパン食が好きだと思いました。べいはん給食はほんと、やってよかったですよね。やってなかったら、日本人の主食は、今以上にパン食になっていたと思う。

スタッフに畔韮という人がいて、すごい苗字だと思いました。

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今声優を確認しましたが、すばらしい。特に義母が少年を罵倒する場面。

以上