『メグレとワイン商』(河出書房新社版メグレ警視シリーズ 33)"Maigret et le marchand de vin" by Georges Simenon 読了

メグレとワイン商 (河出書房新社): 1978|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

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写真提供 オリオンプレス  ジョルジュ・シムノン――フランス最大の推理小説作家。1903年ベルギーに生まれ、1922年以降もっぱらフランスに居住して作家活動をつづける。多作家として知られ、現在までに400冊以上の小説を書き、約4000万冊が売れたといわれる。メグレはシムノンが創造した探偵で、パリ警視庁所属の司法警察局警視。メグレが登場するミステリーは1930年から1972年まで,102篇を数える。 ■ワインの豪商オスカール・シャビュは、若い秘書との逢引を終えて高級同伴ホテルを出たところを、何者かに射たれた。一代で富を築いた成り上がり者、その上漁色家とあれば、シャビュに恨みを持つ男は無数にいる。会社の使用人、交友関係についての常道の捜査が勧められた。だが、決定的な容疑者は浮かんでこない。そんな折、で出合った男がメグレの注意 交錯した瞬間、男は立ち去 ようとしていた。その直後 メグレには気になった――《 》……。

装幀 水野良太郎 飯田浩三訳

ジュール・メグレ - Wikipedia

ジョルジュ・シムノン - Wikipedia

折り返しにパリの手書き地図あり。ワインにまつわる推理小説アンソロジーを読んだ時、その中にメグレ警視ものも一点入っていて、そこに、メグレ警視シリーズには長編で本書もあると紹介されていたので、それで読みました。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

とにかく訳者が品のよい日本語に訳していて、大変良いかんじに読めます。飯田浩三という人を検索しましたが、ぱっと出ませんでした。下記の、中央大学仏文で教授だった人でしょうか。

CiNii 論文 -  故飯田浩三教授略年譜〔含 著作目録〕

あとがきによると、メグレはドビュッシーの音楽を連想させるそうです。よく分かりませんが、仏語タイトルで出るYoutubeの動画がクラシック音楽で、それを再生すると次がドビュッシーなので、あながち感覚だけで云ってるわけでもないんだろうなと。

Maigret et le Marchand de vin — Wikipédia

下は、フランスのテレビ番組配信サイトらしいです。

https://www.programme.tv/c2541242-maigret/maigret-et-le-marchand-de-vin-411009/

古い訳なので、パリの運河を利用してワイン樽を運ぶ船が「伝馬船」だったりします。頁13。ホットラムも、「ラム湯」頁221。そういうのもひっくるめて、味がある。頁109などに出る、義理の妹が送ってよこすアルザスの「りんぼく酒」については、個人の方が2014年にエキサイトブログで謎解きをしているのが検索で出ました。ウィキペディアによると、白水社の現代フランス語辞典でも同様の謎解きがされているとか。

スピノサスモモ - Wikipedia

頁93で昼食に食べるシュークルートも、知らないので検索しました。

ja.wikipedia.org

本書のフランスは、21世紀の西洋と異なり、私たちに近い像を結んでいると思いました。45歳で再就職が困難な点は、かつての終身雇用が強かった時代のフランスですし、底辺から叩き上げの経営者が色きちがいで、とにかく出物腫物ところ嫌わずで、オフィスでもどこでも目をつけたらすぐ口説く。すぐ二人っきりになって、モノにする。ちょっと現実にいそうもないモンスターとして描かれ、それと、44歳なのに少年の面影を残してしまっている寝取られ失業男が絡み、さらには、冒頭で出てくるだけの別件の取り締まりで、二十歳過ぎて丸顔でアゴがほとんど埋もれているような気力に乏しい青年が、たった一人の肉親である82歳の祖母が、80歳に身体的理由でリタイアを余儀なくされるまで、市場で働いて貯めたお金をせびりに来て衝動的に殺した事件の、空想の余地のない殺伐さが、あらゆる箇所で、本件の殺人事件との対比として、印象的に彷彿される構成になっています。アゴのない無気力青年の、父親は精神病院で、母親は酒びたり、姉は15の時に家を出て行方知れず。

こういう中でメグレ警視は、風邪ひいて高熱出して一晩汗かいて直ったと思ったらまたすぐパイプで喫煙して飲酒して捜査して、ぶりかえすの連続。なんというか、ええはなしやと思いました。

 本書の原書もキンドル版がなくて、もったいないと思いました。いい話です。河出のメグレシリーズ全50冊揃いの古書がやたら検索に出ますが、高いんだろうな。買わないのでどうでもいいですが。

Maigret et le Marchand de Vin

Maigret et le Marchand de Vin

  • 作者:Simenon, Georges
  • 発売日: 2000/02/01
  • メディア: マスマーケット
 

 以上