メグレとワイン商 (河出書房新社): 1978|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
装幀 水野良太郎 飯田浩三訳
折り返しにパリの手書き地図あり。ワインにまつわる推理小説アンソロジーを読んだ時、その中にメグレ警視ものも一点入っていて、そこに、メグレ警視シリーズには長編で本書もあると紹介されていたので、それで読みました。
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とにかく訳者が品のよい日本語に訳していて、大変良いかんじに読めます。飯田浩三という人を検索しましたが、ぱっと出ませんでした。下記の、中央大学仏文で教授だった人でしょうか。
あとがきによると、メグレはドビュッシーの音楽を連想させるそうです。よく分かりませんが、仏語タイトルで出るYoutubeの動画がクラシック音楽で、それを再生すると次がドビュッシーなので、あながち感覚だけで云ってるわけでもないんだろうなと。
Maigret et le Marchand de vin — Wikipédia
下は、フランスのテレビ番組配信サイトらしいです。
https://www.programme.tv/c2541242-maigret/maigret-et-le-marchand-de-vin-411009/
古い訳なので、パリの運河を利用してワイン樽を運ぶ船が「伝馬船」だったりします。頁13。ホットラムも、「ラム湯」頁221。そういうのもひっくるめて、味がある。頁109などに出る、義理の妹が送ってよこすアルザスの「りんぼく酒」については、個人の方が2014年にエキサイトブログで謎解きをしているのが検索で出ました。ウィキペディアによると、白水社の現代フランス語辞典でも同様の謎解きがされているとか。
頁93で昼食に食べるシュークルートも、知らないので検索しました。
本書のフランスは、21世紀の西洋と異なり、私たちに近い像を結んでいると思いました。45歳で再就職が困難な点は、かつての終身雇用が強かった時代のフランスですし、底辺から叩き上げの経営者が色きちがいで、とにかく出物腫物ところ嫌わずで、オフィスでもどこでも目をつけたらすぐ口説く。すぐ二人っきりになって、モノにする。ちょっと現実にいそうもないモンスターとして描かれ、それと、44歳なのに少年の面影を残してしまっている寝取られ失業男が絡み、さらには、冒頭で出てくるだけの別件の取り締まりで、二十歳過ぎて丸顔でアゴがほとんど埋もれているような気力に乏しい青年が、たった一人の肉親である82歳の祖母が、80歳に身体的理由でリタイアを余儀なくされるまで、市場で働いて貯めたお金をせびりに来て衝動的に殺した事件の、空想の余地のない殺伐さが、あらゆる箇所で、本件の殺人事件との対比として、印象的に彷彿される構成になっています。アゴのない無気力青年の、父親は精神病院で、母親は酒びたり、姉は15の時に家を出て行方知れず。
こういう中でメグレ警視は、風邪ひいて高熱出して一晩汗かいて直ったと思ったらまたすぐパイプで喫煙して飲酒して捜査して、ぶりかえすの連続。なんというか、ええはなしやと思いました。
本書の原書もキンドル版がなくて、もったいないと思いました。いい話です。河出のメグレシリーズ全50冊揃いの古書がやたら検索に出ますが、高いんだろうな。買わないのでどうでもいいですが。
以上