バター茶をどうぞ : 蓮華の国のチベットから (文英堂): 2001|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
なんとなく、キーワード「チベット」で図書館蔵書を検索して、出て来た中の本。アンドロケッツでないシーナのしとの奥さんと、先日読んだ小さいオカーサンのひと*1の本です。チベットを馬で行ったしとの写真展を見た出版社の人から誘いがあって、本にした、写真を中心とした、チベットの概説書みたいな本。
装幀・本文レイアウト 白尾隆太郎事務所 地図作成 ソーケンレイアウトスタジオ 本文イラスト 竹内彰子 「はじめに」で、角貝譲計(つのがい じょうけい)という人への謝辞あり。どういう人か分からないので検索しまして、鍼灸師の方が出ました。
チベットのバター茶はチベタンティーということになり、チベタンティーをどうぞとは、含蓄のあるタイトルだなあ、ということになります。チベット語で題名を書いてこましてみたかったので、なんとか書きました。
まずこの「どうぞ」という言い回しのチベット語を、白水社のエクスプレスで探しました。漢語なら、この場合の「どうぞ」はぱっと出せます。
英訳はこれでいいと勝手に思ってます。
エクスプレス頁072に「お茶を一杯召し上がれ」という文章があるのですが、その「お茶」という単語が敬語だそうで、
གསོལ༌ཇ་གང་མཆོད། スージャカンチューと書いてあります。ブッジャじゃない。
さらに頁082にバター茶のチベット語として、
ཇ་སྲུབ་མ་། チャスューマという単語が載っていて、私がラサで教わったブッチャという単語は載ってません。
ジャスューマは英語版ウィキペディアのバター茶にも出てきますが、
敬語のスージャ གསོལ༌ཇ་ は、
英語版ウィキペディアのスージャ སུ་ཇ とはつづりが違うのです。
どうしたらいいのステラ!
ということで教えてもらいに行き、敬語のスージャは、バター茶であれただのお茶であれミルクティー(チャガモォ ཇ་མངར་མོ་།)であれスージャだそうで、ミルクティーを一杯どうぞと言う場合、ブッジャカンチューと言ってもいいし、チャスューマカンチューと言ってもいいそうです。アムドとラサでちがうかな、いやアムドでもブッチャ言いますよとかやいやいやってもらって、とてもありがたく感じました。
ので、これひとつでそんなにお手間をとらせてしまったので、「蓮華の国」もチベット語でなんというか教えてくださいとは口が裂けても言えず、入手困難の希少本で、古書市場でものすごく高い値がつけられている日本語チベット語辞典で蓮華をあたってみたのですが、
「蓮華座」དཀྱིལ་ཀྲུང་། しか見つからず(あとから考えると、「ハス」で探すのを失念してました)
エクスプレスの単語一覧の「韓国」フロコリアのフロ ལྷོ་
例文の「日本から」の「から」ネー ནས།
例文の「~の(もの」キ གི་
をぜんぶくっつけて、
ལྷོ་དཀྱིལ་ཀྲུང་གི་བོད་ནས། という文章を作りましたが、
「蓮華座の国」でなく「蓮華の国」"land of Lotus flower"、「蓮華経の国」"Land of Lotus Stura" という意味合いでチベットを馬で行く人はつけたのだろうなあと沈思黙考するしかなく、でもそれらの単語のチベット語は分からないので断念したままです。
近隣の図書館はおろか都立図書館にも県立図書館にも英蔵辞典や漢蔵辞典はなさそうで、知人に大学図書館で調べてもらおうとしたのですが、仏文畑のしとでしたので、ピンインで引く大陸のツテンの引き方を説明しているうちに、これは非中文畑のしとに頼んでもむりだと悟り、依頼を撤回しました。
そういうあれこれはあれこれで、以上。この本はチベット文化の概説書みたいなものなので、気楽に読むといいと思います。写真の多くは、撮ろうと思ってもなかなか撮れてない、的確なチベット文化を写していて、含蓄がありました。
頁12、13なんて、砂地のチベットナキウサギの足跡が縦横無尽に文様を描いてるのかしらと思ったですが、ちがうかもしれません。左は頁124、僧院の犬。やせてます。下は頁187。
なんとなく真似はしてましたが、どの指でやるかは深く考えてなかったです。猿真似だった。
出た! チンコー! 漢語来了。チベット語で何と言うかは知りませんが(たぶんウィキペディアに載ってます)チンコーが中文なのは確かです。沢木耕太郎『天路の旅人』で、「せいか」と日本語読みしていた記憶がなまなましいです。なぜ日本語でハダカムギと言わないんだろう。私が勝手に、解放チベット旅行記用語の二大漢語と読んでいるもうひとつの単語、畝(ムー)は沢木本ともども、出ません。頁206、ツァンパ。こんなんです。最初は自分でうまく作れないので、親切な誰かが作ってくれたりしますが、もちろん素手でやられます。なので、自分の口に入れるものは自分で作れるよう、必死に練習します。必要は発明の母。ちがうか。しかし、エクスプレスの会話文によると、こうやってまるくこねた団子は「パー」というそうで、団子状のものまでツァンパと言ってしまう風潮が旅行者のあいだで定着したことを、チベットの母一号みたいな人は憂いているのかもしれません。でもむかし京都にあったイギリス人のオバサンがやってたチベットレストランのメニューでもお団子をツァンパって書いてましたし。しかも頼んだら砂糖入りを出して来た。
我こそはと思う者の挑戦を待つ、現在開業中チベットレストランのツァンパセット。インドのカレーは手食でなくちゃ食べた気がしない通人に、その斜め上へトライする得難い機会を提供します。日本食レストランが、客に自分でおにぎり握らせるセットメニューを用意するようなものか。すばらしい。
頁221、ヤクの解体シーン。頭を棍棒でブッ叩いてた気がしますが、ちがうかもしれません。私は実は、ムスリムがハラルで屠畜する場面を見たことがない(たぶん)ので、そっちも見てみたいとかねがね思っています。河南省とかで、オバサンがアホンにツブしてもらおうと、コッコ鳴いてるニワトリを清真寺に持ってく場面は見ました。
例の、手で筒の中の棒を上下させて撹拌させ、バターを作る場面や道具は、いろんな本に載ってますが、最近はミキサーが手作業にとって代わっているという、21世紀初頭の当世ラサ(?)事情写真は、ほかでまだ見てないです。頁213。


ページ忘れましたが、かまどと寺院のラクガキ。たぶん。意味があるのかもしれませんが…
ラシャムジャ『路上の陽光』*4に出てくる、固い牧民のチーズ。口のなかに入れてしゃぶるそうです。この本で初めて見ました。頁101。
こ
ん
な
か
ん
じ
の
本
な
ん
で
す。
以上
*1:
stantsiya-iriya.hatenablog.com
*2:
Butter tea, also known as Bho jha (Tibetan: བོད་ཇ་, Wylie: bod ja, "Tibetan tea"), cha süma (Tibetan: ཇ་སྲུབ་མ་, Wylie: ja srub ma, "churned tea", Mandarin Chinese: sūyóu chá (酥油茶), su ja (Tibetan: སུ་ཇ, Wylie: Suja, "Churned Tea") in Dzongkha or gur gur cha in the Ladakhi language)
バター茶(バターちゃ、中国語: 酥油茶〈スーヨウチャー、拼音: sūyóuchá〉)は、主にチベット、ブータンを中心としたアジア中央部の遊牧民族や住民が日常飲んでいる茶飲料。ヤクの乳脂肪、塩を加えるため、塩バター茶とも言われる。チベット語ではプージャ(チベット文字:བོད་ཇ་; ワイリー方式:bod ja)、ラダック(インド)ではグルグル・チャ、ブータンではスージャ(suja)と呼ばれる。
*3:
*4: