『ホームレス女子大生川を下る in ミシシッピ川』"Homeless Female College Student Down the River. : ( in Mississippi River )" 読了

高座渋谷の書店で、あれこれ思案投げ首の挙句買った本。前々回買った、ルワンダタイ料理店を開くシンママの本もよかったですが、これも面白かった。

f:id:stantsiya_iriya:20220224202050j:plain

カヤックとテントが全財産 メキシコ湾まで3000キロ ミシシッピ川を巡る笑いと困窮のノンフィクション」

帯がついてないかわりに、表紙にそのまま煽り文句が印刷されてるタイプの本。

prtimes.jp

こんな本。なぜに報知新聞社が出版したのか、さっぱり分かりません。

f:id:stantsiya_iriya:20220224203341j:plain

ショップ報知の書籍頁。下の方に、津川雅彦物語や自然塩の選び方なんかもあるので、この本が報知から出てもいいのかも。本書に、ジャイアンツファンであるとか、読売ユース出身であるとかの記述は特にありません。本書は、英語で○○編的な意味合いの「inミシシッピ川」をつけており、現在挑戦中のドナウ川編が続くかもしれません。ミシシッピが1,900マイル、3,000キロ強で、ドナウが4,000キロ。

旅の途中で中央大商学部の久保知一教授と知り合い、教授の後押しでクラファンに挑戦するとともに、その成果物である本書発行にもつながったそうです。どこでどういうふうにつながったのか、詳細は書いてません。下記は中央大学の研究者紹介ページ。個人サイトもほかに持っておられますが、こっちを置きます。

https://researchers.chuo-u.ac.jp/Profiles/2/0000177/profile.html

下は終了したクラファンページ。

camp-fire.jp

この頃からホームレス女子大生をキャッチフレーズにしていることが分かります。たぶん、麒麟のかたわれの、ホームレス中学生だった人に霊感をもらったのでしょうが、この、笑い飯の僧侶のほうとキャラがかぶってる人は、その後バスケばっかりやっていたので、ラビットの司会者になった相方、眞鍋の元カレと、すっかり差がついてしまったとは本人の自戒の弁です。ホームレス女子大生がそうならないことを祈りますが、もう早くもドナウ川下り挑戦とか、剥製師になる夢のための修業はどうなってんねんと思わなくもありません。ネブラスカの大学から800キロ離れたコロラドの剥製工房まで毎週末通うというハードな生活だそうなので、それでもうドナウ川下りを優先させることにしてしまったのかとも思います。皇族と結婚したICU卒の人もまだ学生ビザで、査証切替には苦労してるみたいなので、作者にもその辺の米国在留許可の事情があるのかもしれません。

Google マップ

本書やクラファン、ついった、報知関係のパブ記事には作者の大学名は全く書かれていませんが、私としてはてきとうな英題を読書感想に書く関係で、カレッジかユニヴァーシティかはちゃんと理解した上で書いておきたかったので、あれこれ検索を試し、Linkedinというサイトで、作者がネブラスカ、ウェインと棲息地を書いていて、つながってる人の何人かが、Wyne state college所属だったので、そこだということにしました。Wyne state universityだとミシガン州の大學になるそうで、また、ネブラスカの大学というと、東京五輪3x3代表の富永啓生という人が所属しているネブラスカ大学リンカーン校がやたら検索で出ます。でも作者の大学は上のでいい気瓦斯。

Wayne State College - Wikipedia

Linkedinというサイトは自己アピールのサマリがあるので、南米アコンカグア登頂以外に、スカラシップやネパールボランティアなんかも載ってます。アコンカグアはクラファンにも載っていて、高校時代ということで、今の日本の高校生ゴイスーと思いました。本書では、アコンカグア登頂後に下山した街で気持ちのいい芝生の公園を見つけてそこで寝てたら、持ち物盗まれたと書いていて、単独行だったのだろう、ということは米国留学以降、と考えていたのですが、日本の高校時代だとすると、マウンテンギャルアンドボーイズで、なかよく寝てたのかしらと思います。アルゼンチンで公園じべた。

Linkedinではほかに、フィリピンの言語が、ビサヤ語「挨拶程度」というふうに書かれていて、ルソンとかミンダナオでなくビサヤなのか(私はまったくその辺不案内ですが)と思いました。ビジネス初級とある英語の駆使ぶりを鑑みるに、挨拶程度も謙遜だと思います。母親に関しては、私は読んでて、母親の死後、父親から逃げるために山岳部に入って、山行のあいだは父親から逃げてたと理解したのですが、あってますでしょうか。本書のタイトルを『(元)ヤングケアラーミシシッピ川を下る』にする手もあったと思いますが、本人がその方向を望まぬなら、あえてする必要もなしと。現在ドナウを航行中なのも、「印税入ったやろ」みたいな第一声で日本から連絡が来たらかなん、逃げるデ、ということかもしれないとは思っています。

f:id:stantsiya_iriya:20220224202112j:plain
f:id:stantsiya_iriya:20220224202106j:plain

本書の参考資料ページ。ぜんぶ英語のウェブサイト。こんなの日本語エンタメノンフで初めて見ました。日本語で書かれた、紙の古典書籍とかもうぜんぜんない。(実際には巻末で植村直巳に言及したりと、それなりに、系譜につらなるものとしてのリスペクトは見せている)それだけ、邦人として前人未踏の行為(バイブルベルトを喫水から観察しまくる)だったんだなあと。ふつうはこれだけ英語ドップリだと、なかなか思考のトランスレーションが出来なくなって、日本語でスクウェアな本を書き上げられない、モチベーションが欠落してくると思うのですが、作者はやっぱり理由があるから(たぶん)なのか、ものすごいガッツ(胆力)です。

頁12

 若者の貧乏旅というとまず、ヒッチハイクが思い浮かぶが、それは間違いだ。アメリカにはルールオブロードというものがある。これはヒッチハイク界に伝わる不文のルールブックで、ヒッチハイカーは車に乗せてもらった対価としてcash(金)、ass(尻)、grass(草)の3つのうち、いずれかを支払うのが礼儀とされている。草は大麻、尻は性的なものを意味する。残る選択肢はお金だけど、移動の度にお金がかかったらいつか破産する。ヒッチハイクの意味がない。

このあたりの出だしからもう目からウロコで、SNS時代の21世紀はなんでもヤリモク全盛で、それはグローバリゼーション、全地球規模の現象なのだと、如実に実感しました。私はヨーロッパと日本でしかヒッチしたことないですが(カンボジアベトナムと中国は有料ヒッチなので除外)お尻を要求される時代でなくて本当によかった。

hochi.news

en.wikipedia.org

下はカバー折のミシシッピ川の写真。表紙の、ガン黒かと見間違える写真の左側。

f:id:stantsiya_iriya:20220224202055j:plain

左はカバー外した裏表紙。このシンプルさが報知クオリティなのか。

表紙デザイン 入江あづさ

本文デザイン 株式会社サン・ブレーン

以下後報(後報はやりたくなかったです。ロシアが悪い)

本書執筆時はキャンピングカー暮らしで、ミシシッピ川下りに費やした時間は三ヶ月で、費用は約10万円。彼女のように貧乏旅行ができる人は、それだけで文化的に豊かな人、"Culturally Rich"なんだそうです。頁3。で、川下りの精密地図は米軍作成のものがネットからDL出来(精密地図はすべて機密の解放軍中国とエラい違い)川の辻々には川下りの人間を支援する名物人間、リバーエンジェルと呼ばれる人たちがいて、SNSで彼らと連絡を取り、寄宿したりなんだりしながら進んだとか。言葉は大切だなあ。

本書にはそんなに全身写真ないのですが、白人のドレッドの女性が登場し、白人ドレッドはアメリカではかなり変わり者扱いになるとどこかに書いていて(いざ頁数を書こうとすると探し出せず)そうかなあ、逆にジャスティンビーバーなんか、ドレッドにしたら、黒人から「文化の盗用」だなんて騒がれてやめたじゃん、と思いました。いや、そうではなく、全身写真が本書にはなく、クラファンのページかなんかにあるのですが、ぜんぜん墨を入れてないので、そっちのほうが私には意外でした。腋毛はボーボーだそうです。

頁56

(略)「自分は日本だとちょっと変わり者扱いされるけど、海外だと溶け込めるかもしれない」、「多様性を認める海外ならきっと、居場所がある」。そう思って海外移住を目指す人は多いけど、そこには少しだけ落とし穴がある。

 本当に変な人は、どこの国に行っても変人である。(後略)

私も中国で、日本人にも中国人にも見えない、おまいはおまいにしか見えないと言われたものです。で、旅行中というのは、けっこう社会性やコミュ力閾値が低いので、日常ではそうとうな変人でも、旅行中だけはなんとか、人付き合いが出来るんだとか。なるほどという。で、アメリカのほうが登山やカヌーカヤックのしばりが日本より低く、自由なのはやっぱりそうなんだとか(じゃー事故も多いだろうとは思います)で、すべてノールールなわけではむろんなく、例えば焚火、だいじなコミュニケーションの場としての焚火では、マシュマロを焼くマロスティックという枝と、火かき棒として使うポーキースティックは燃やしてはいけないとか。勝手に燃やすと非難ごうごう手加減ナシだとか。頁61。

頁76のセレンディピティということばは知りませんでした。ケニヤの国立公園かと思った。それはセレンゲティ

kotobank.jp

頁101

 高校生の頃、部活の顧問に忠告されたことを思い出す。山登りとか、人力の挑戦にハマる人は、一つクリアするとまた次にもっと過激なのをやりたがる。そうやって上がっていく情熱と反比例して、体は確実に年をとって体力が落ちていく。この2つのカーブがクロスした時、人は死ぬ。だからお前も気をつけろ、という注意だった。

じっさい、今現在はドナウ川下りにチャレンジしてるわけで、気をつけてけさい。これは真理だなあ。

頁122

 クライミングというスポーツは不思議なスポーツで、ある一定以上にうまい人は、ほとんどみんな選手か廃人かのどちらかに分類される。後者のクライミング廃人は、アメリカではしばしばクライミングバムと呼ばれている。バムとはホームレスを指す言葉。クライミングの場合、バム生活者とは、無職同然で車中生活をしながら岩場を転々として年中登っている人のこと。よく言えば、ノマドな生活。悪く言えば、そのままホームレスだ。

私は最初の中国旅行の帰りに、ヨセミテでどうこうしたという、同行者いわく、ホントにすごい人というフリークライマーと一緒になり、リンゴを素手て二つに割るくらい朝飯前の人でしたが、国内の移動はすべてキセルと言っていて、今考えるとネジ飛んでるなと思います。

頁143、ミシシッピ州のクラークスデールという街のステイ先(白人宅)で、シソの味が効いた紫色のキムチが美味しかったと書いてます。上澄みのピクルスの液を飲むのがおいしくて、発酵が進んですっぱいのがクセになるとか。誰が考えたんだろう。たぶんミナリではない。

www.google.com

こんなとこ、まず行かない。本書の、喫水目線から見た、合衆国縦断記には、ほんとうに価値があると思います。このあたりは、ディーペスト・サウス、南部の中の南部だそうで、白人によるネイティブアメリカン侵略の痕跡と、農園の黒人奴隷の遺産が明快に見える土地なんだそうです。頁145。ミシシッピ州の人口は白人が大多数なのに、デルタだけ黒人が圧倒的だとか。そしてその先祖は、奴隷。全米貧困州の常に上位。家の手入れの有無は収入を反映するというのがアメリカの常識で、デルタの家はあばらやが多いとか、アメリカ版生活保護であるフードスタンプの受給率も極めて高く、多い所では住民の四割が受給者なんだとか。で、黒人地域はデモクラッツ(本書では左翼派とカッコ)それ以外の地域ではリパブリカン(本書では右翼派とカッコ)が支持されているとか。民主党共和党と書くよりカッコいいので、これから私もデモクラッツとリパブリカンを、日本語の文脈のなかで使おうと思います。こういうところで、するっといろいろ話を聞けたりするのが、本書の素晴らしい点です。ともすれば私は、ホンカツの『アメリカ合州国』で、アフロの黒人ドライバーの助手席で南部をドライブしていたら、すれちがいざま対向車から撃たれてフロントガラスに弾痕がピシッ、の場面の印象が強く、服部和己事件の影響もあって、南部怖いと思ったりするのですが、作者は親切にされながら旅行します。南部にはそうしたホスピタリティの伝統があるそうで(頁95、サザンホスピタリティ)、しかし黒人からそういう歓待を受けたようには書いてません。あくまで白人ホストの中だけなのかなあ。そう勝手に読んでるだけならいいのですが。

頁96、日本の軽トラは、アメリカのいなかでは隠れた人気車だそうで、なぜ「隠れた」なのかといえば、入手困難だからだとか。なんか規制でもあるんでしょうか。

頁98、ミズーリ州のいなかは、水道がないそうで、住宅各戸ごとに井戸を掘ってるとか。それで、水質の良しあしがその場所の地価にも影響するとか。そして、仕事のない地域で、井戸掘り職人の雇用創出は、ワークライフバランスだかインフラなんとかだかで、いいことなんだとか。

まったくわけが分かりませんが、頁157によると、作者は無類の爬虫類好きだそうで、ワニを見るのがこの旅の目的のひとつだったそう。ぎゃーと思いましたが、ミシシッピのワニはアリゲーターで、人を襲わないんだそうです。人を襲うのはクロコダイルで、アメリカには基本フロリダにしかいないとか。なるほど。そうなると諸星大二郎のまんがでサラリーマンがアリゲーターに食われる話はウソなんだなと。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

頁160に、バイユーという、ルイジアナ州ミシシッピ州で、大河や湖に注ぐ小川をバイユーと呼ぶとあり、ジェイムズ・リーバークという作家のアル中探偵小説に出て来たなと思いました。

ja.wikipedia.org

stantsiya-iriya.hatenablog.com

stantsiya-iriya.hatenablog.com

stantsiya-iriya.hatenablog.com

で、頁198に、ネブラスカの留学先ではピーカンと呼ぶpecan nutsをルイジアナではペカンと呼ぶとあり、上記の小説でも確かにペカンと訳されているのに、たまプラーザのアメリカ料理店ではピーカンと呼ぶナゾも解けました。南部では、ピーカンと呼ぶと、ピーウィーパーマンでおなじみ、おしっこのpeeと似た発音になるので、おま、アホっかという感じなんだそうで。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/stantsiya_iriya/20211019/20211019214446.jpg

たまプラーザの店のペカンのパイクリームのせ。

イチ、ニ、サラダ~ッ!!!!(闘魂酒場のサラダの供し方) - Stantsiya_Iriya

作者の理系ならではの、ナントカ把握能力の恐ろしさを感じたのは、魚を捌く個所と、ジャガイモを切る箇所。

頁107

 ジャガイモを切るのにまな板は必要ない。まず皮を剥いたら、縦に2つか3つ切れ込みを入れる。それからジャガイモを90度回して、最初に入れた切れ込みと直角になるほうにまた2つか3つ切れ込みを入れる。そして最後にジャガイモを鍋の上に持ってきて、縦に持っていたジャガイモを今度は横向きに持ってナイフを入れると、ジャガイモがサイコロ状に切れて鍋に落ちていく。この時、真っ直ぐに切り落とすのではなく、刃を途中まで入れて、ジャガイモを回しながら螺旋を描くようにして切っていくと良い。こうすると、最後まで切り落とさないので手を切る心配がないし、ジャガイモがポロポロ鍋に落ちていくので気持ち良い。

これ、再現して動画にあげてほしいです。私は自分の日本語読解力をもう一度見直す必要がある。何をどうしてるのかよく分からないです。

頁193、ポーボーイという料理は、ソーセージのような料理だが、肉でなく米でカサマシしてるとあるので、韓国のスンデみたいなものだろうかと思いましたが、検索で出るポーボーイはサンドイッチで、ソーセージではないかったです。ここは、なぜそう違うのか、ふしぎ。

en.wikipedia.org

マックラップみたいなものなんでしょうか。

gigazine.net

頁202、ファイヤーアンツに気をつけて、と言われ、ヒアリだったそうです。ルイジアナはもうふつうにヒアリがいるんだそうで。

「ホームレス女子大生川を下る」著者・ 佐藤ジョアナ玲子さんが語る3000キロ川下り秘話…高野秀行氏も絶賛 : スポーツ報知

あまりに面白かったので、高野秀行が引き合いに出した、野田知佑氏の名作「北極海へ」も読んでみます。気をつけて、よい旅を!

(2022/3/6)