この人の名前は日本の音読みでは「かか」デス、とか、そういう話で〆たかったです。
十年前的TA。
この人は自分のSFを、ハードSF(硬科幻)でもソフトSF(軟科幻)でもない、おかいさんSFと呼んでいるそうです。私としては、ハードSFというのはジャンルとしてあるけれど、ソフトSFなんていうジャンルは実在しなくて、ハードSFに対する対義語、反意語が必要な時だけ担ぎ出される、アンチテーゼとしての架空の座標に過ぎないと考えています。ほんとなら、ハードSFの対義語を現実上で上げるなら、SFファンタジーという言い方でいいはずなので、何もそう对联(對聯)みたいにことばをツイにしなくてもいいです。
で、おかゆSFは英語ではポリッジSF "Porridge SF" となるのだそうですが、原語の中文がさっぱり見当つきませんでした。最初、「SFというのはウソかホントか?」というシロウト質問を中文でして、”科幻小说描写的世界到底是真的假的?“そうすると "真的假的?", "煮的!!!"というこどものことば遊びがすぐ想起されるので、それでお粥は煮るものですから、せやしお粥SF なのではないかとあてずっぽうで推測しました。
漢語の"真"は "zhen“ で、“蒸” の"zheng" とほぼ似た音です。鼻で「ん」と言うか、喉から「ん」と言うかの違いだけ。彼女の出身の西安、陝西省、西北はこの二種の区別がない人が多いとか。ホンモノは日中ともに「真」ですが、ニセモノは、日本語でよく使う"偽"は「ニセ満州」などのことばでは使いますが、”假“が口語では多いようで、この”假“ "jia"は揚げ物を指す ”炸“,“zha” とは明確に違う音なのですが、なぜかこの言葉遊びに限ってセーフなようで、"真的假的?"(ホントかウソか?)となのに、"(不是蒸的,也不是炸的,是)煮的呀!!"(蒸したのでも揚げたのでもない、煮たのだよ!!)と返すのです。おかいさんSFって、そういうことなんじゃいかなと。
原語は《粥科幻》ではなく《稀饭科幻》だそうで、「粥」は主に南方で使い、のりみたいにネットリしたおかいさん、〈稀饭〉はうっすい、コメの浮いた白湯のちょっと濃いやつみたいな感じですが、コメを煮ることに変わりはなく、たぶんそうなんじゃないかなあと。違ってても責任は取りません。
中原尚哉訳 初出は《科幻世界》2010年8月号。"Clarksworld" 2012年2月号にて英訳掲載。「啓蟄」「大暑」「寒露」「冬至」の四つのパートから成っています。上のような話で終わればいいのですが、この作品は、本アンソロジーにやはり作品が収められている、程婧波という人の、《赶在陥落之前》(落ちる前?)という小説の、ディティールをパクっているんだそうで(まあほかにもいろいろパクってるとそしられてるそうですが)そんなこと言われても、ヤメテヨーと思いました。
忍者ブログというところで、トリフィドの名を冠したブログを書いてる方の記事が、どちらのご芳名を検索しても、わりと上位に出るので、日本語ではこのパクリ問題を認識しやすいのですが、Wikipediaも百度も両者のプロフにそんなこと一切書かれておらず、〈夏笳 抄袭〉(夏笳 盗作)で検索しても、両者が本作発表後にウェイボーでやりあったものの、もう終わったことジャン、いいじゃんか、みたいな論調がちょこちょこ見えるだけなのが現状です。もちろんケン・リュウサンも立原透哉サンも本書の解説でそれには一切触れてません。
下記は百度でなんかかんかそれに関して論評して、2012年当時の微博の魚拓も貼ってあるページ。でもトリフィドのほうがいっぱい魚拓残してると思います。
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1631696897314544434
夏茄サン、否、夏笳サンの画像検索結果。別嬪サンですね。バーシーホウ。蓮舫サンが留学したことでも知られるベイダー、北京大学の才媛です。茄子(ナス)の「茄」ではなく、竹冠の〈笳〉です。ちなみに、漢語でバカの意味のベンダンのベンは、草冠の「苯」でなく、竹冠の〈笨〉
程婧波サンの画像検索結果。こちらも美人サン。この人もバーシーホウ。川軍の方で、川大出身。今でもそうなのか分かりませんが、チョワンダーの外務課勤務の写真が混ざってるので、四川大学に留学すれば、会えるかもしれません。(会えないかもしれませんが、その時は成都のイトーヨーカドーで買い物でもしてください)
下に、ガンダオシェンルオジーチェン、『ビフォアー・フォール・アウト』の出だしの部分のグーグル翻訳を置いておきます。本作はこの出だしに、似てるでしょうか。パクってるんでしょうか。
星云志.赶在陷落之前免费阅读--免费小说全文-作者-全球华语科幻星云奖组委会作品-七猫中文网
(グーグル翻訳)
西門魚道里の西側には長丘寺があります。
ここの僧侶たちは、午前のクラスでは「ヴェドゥオ・チャン」、夜のクラスでは「ガラン・チャン」を歌います。いつ歌うかは、雲盤を演奏する僧侶がいつ演奏するかによって決まります。寺院内には五香園があり、キンモクセイ、ハイビスカス、レモングラス、ユーフィラム、保定香などが植えられている。そのため、長丘寺の甘い香りのキンモクセイと花のプリザーブドは非常に有名です。同寺はまた、サツマイモ、ゴマ、レンコン、コリアンダーなどを植えるための別の土地も設けた。僧侶たちが夜の授業があるときはいつも、私は彼らが泥の中で踏んだ道をたどって、蓮の池を迂回し、寺院の隅に石コリアンダーを摘みに行きました。
この日、私がしゃがんで手を伸ばしたところ、後ろから「禅師!」という叫び声が聞こえました。
振り返ると、薄暗い空の中で、数珠を首に掛けた男性が、遠くないところに立って、私を見つめていました。顔は香りを発しそうなほど白くて薄く、そのビーズは鶏卵のように滑らかで半透明です。
百鬼夜行自体が激しく日本文化的な「付喪神」(つくもがみ)の要素を含んでいるので、中文世界でそのエッセンスを取り出すと、以前見た映画の「返校」のオバケみたいな感じもあるかなと思いました。
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カカサンの次の掲載作は『童童(トントン)の夏休み』
タイトルだけ見ると、先にスタンリー・チャンサンがフラワー・オブ・シャーズイで「フラワー・オブ・シャンハイ」に名前を似せたホウシァオシエン監督の、「冬冬(トントン)の夏休み」と「童年往事」を足して二で割ったようなタイトルです。偶然だと思います。
カカサンのその次の掲載作『龍馬夜行』は、漢語そのままタイトルで、竜馬という名前の中国人が主人公というと、獅子文六の小説で映画化もされた在日華人の物語『バナナ』の主人公がやはり竜馬で、神戸華僑のオジサンから、さかんに「ロンマー、ロンマー」と漢語読みで呼ばれる場面を思い出してしまいます。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
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程婧波サンはこのアンソロジーに一篇しか作品が収録されておらず、『蛍火の墓』という邦訳タイトルなのですが、原題《萤火虫之墓》英訳名"Grave of the Fireflies" 「ホタルの火」でなく、「ホタル」やんけ、まんま「ホタルの墓」やないけ、と思ってしまう人も少なくないかと。
パクリとも盗作とも〈抄袭〉ともひとっことも言ってないのに、難癖大好き人間の食指が動く直前にはっと気づき「いかん、これは孔明の罠だ」と言いそうな題名作品を集めてくるあたりが、ケン・リュウのおそろしいところでもあり、キンペーチャンの同郷人の所以でもあるのでしょう(ちがいます)
この話もおいしいものがたくさん出るのですが、味わって食べるとはどういうことか、AIが食レポ書いたらどうなるのか、などなど想像は尽きないという感じです。やっぱり先行する国でなく、後追いする国だから、シンクロニシティが多いんじゃいかと、上からの物言いをしたくなってしまう誘惑に、負けない。以上