『カウガール・ブルース』"EVEN COWGIRLS GET THE BLUES" Tom Robbins 読了

装丁 木村裕治 読んだのは初版から三ヶ月後、1994年4月20日の三刷

 なんでこの本を読もうと思ったか思い出せないのですが、ガス・ヴァン・サント監督でユマ・サーマン主演の映画トレーラーを日記に貼った覚えはあるので、検索したら、坂東眞砂子の批評本に出てたので、読もうと思ったみたいです。『親指Pの修業時代』と対比してみようと思ったみたいで。

『愛と心の迷宮 -イタリアと日本ー』読了 - Stantsiya_Iriya

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  • 発売日: 2017/07/19
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 訳者の人はこれが初めての翻訳作品だったと訳者あとがきで書いてます。その後どうなったか検索すると、この後めきめきとアメリカ文学の大家を翻訳し、ドン・デリーロという人の小説の翻訳などはウィキペディアに「豪腕を発揮した」と、尋常ならざる形容をされています。翻訳の豪腕ってなんだろう。シバタ麾下のハルキ・ムラカミバックアッパーズのひとりでもあったそうで、でふ先生こと南條竹則と共訳してみたり、最近では何故か、スコットフィッツジェラルドや『ワインズバーグ、おはよう』を訳してるとか。

上岡伸雄 - Wikipedia

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  • 発売日: 2018/09/25
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 宇野鴻一郎風にいうと、私、親指がすごいんです。じゅんときた。みたいな小説ではありますが、カウガールとあるからには、ほかの要素もむろん多く入っており、主人公シシーは1/16アメリカ先住民で、そのことをことさら強く意識しているようです。そんな強く意識するほど濃いかなとも思いますが、アイデンティティの作り方は人それぞれなので、なんも言えません。伯爵夫人と書いて「カウンテス」とルビを振られるキャラも印象的なのですが、私としては、「チンク」という登場人物に目が釘付けになってしまいました。最初、なんの注釈もなく、「チンク」として頁15に登場します。次に登場する頁86でも、新聞の一面見出しなのに、何の注釈もなく「チンク」 三度目の頁102でやっと、「チンク」は中国人に対する蔑称という訳注がつきます。ここでほっとするのも束の間、本書に登場するキャラ「チンク」は沖縄生まれの日系一世で、戦争中は強制収容所に収容された経験を持つ老人で(しかも合衆国への忠誠に深刻な疑義がある人物だったので、特殊な収容所に移送される)、日系人なのに何故か渾名がチンクで、しかも地元のネイティブアメリカンの祭祀をつかさどっているという。。。そして多分セックスはうまくて、主人公シシーに、若い男性の激しいセックスとはまた違う快楽を与えてくれるようです。なんじゃそりゃ。くちぐせは「ハッハッ、ホーホー、ヒーヒー」

 まあそういう小説なので、ペヨーテとか出ます。マリファナも、頁273など、わざわざ「タイ産」と書いてあったりします。タイ産、有名なのかなあ。このページでは、シシーの若いセックスメイトが、チンクのことを精神科医に相談するのですが、精神科医はチンクを毛沢東のことと誤解し、毛沢東がどうとか言い出す目の前の若造は共産主義者コミュニストだったのかという話になります。なんじゃそりゃ。

カウガール・ブルース

カウガール・ブルース

 

 訳者あとがきに、原書のペーパーバック版によせられたトマス・ピンチョンのおほめのことばが収録されており、要するに、ピンチョンがほめてるんだから、なんだか分からないけど、おもしろいんだよ、ということです。覆面作家ピンチョンは覆面作家だからてきとう大学で作文講義とかやって口に糊することは出来ないだろうから、時々パブ記事書いてお小遣い稼いでるんだよという意見もあるかもしれませんが、多分ピンチョンは分限者だから、そんなことしなくてもいいはずで、本書を公開でホメたのは、多分気まぐれです。ただ、松浦理英子『親指Pの修業時代』は作者定義する処によると、ビルドゥングス・ロマン、教養小説ですので、ヒッピーのおフリーなおセックスに対するケジメ的な意味があったのかもしれないなと思いました。

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表紙イラストは映画を意識してるのかどうか。

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裏表紙は、冒頭のくだりで、カソリックの天使は手足がなく、顔に羽が生えてる、という記述(智天使セラフィムかなんかのことだと思いました。中公文庫のシンボルのやつ)を意識してると思います。以上