「ベン・イズ・バック」"BEN IS BACK" 劇場鑑賞

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救えるとしたら、私しかいない。

珍しく北米版と同じポスターです。

en.wikipedia.org

ネタバレで感想書きます。これから都内でまたやるのかもしれませんが、とりいそぎ下高井戸で見ました。スティーヴ・カレルの「ビューティフル・ボーイ」(未見)とは、オピオイド経由のジャンキーかただのジャンキーかで差異化が図られてるのかと勝手に思ってましたが、オピオイド経由でも売人にまでなって人を死なせてるので、そこは関係ありませんでした。ヤク中に / なってしまえば / 同じなの(五七五)ニコール・キッドマンの「ある少年の告白」(未見)と同一主演男優で同時期封切りなので、皆主演女優の比較をしたくなりますが、エリンブ・ロコビッチは「ワンダー!君は太陽」(未見)の次にこの映画を選んで、整形してないのに整形してるかのようなかんばせを活かして、自分も整形旦那も金持ち黒人、絵に描いたようなリベラル上流家族を持つわよ草を演じきってるので、ニコールとは路線が違います。月影先生も吃驚仰天。

https://www.youtube.com/watch?v=RwV3G3naHeo

www.youtube.com

"Ben isn't back" でもよかった気がします。「ベン・イズ・バッカス"Bacchus"」という駄洒落を考えました。何故この映画はさほど上映館も増えないし興収も伸びないのか(厚木でもやらないし)考えながら見ました。

オピオイドの日本蔓延を防ぐため。

あんま関係ないと思います。服用のなれそめはざっくりした台詞のやりとりのみですし。米軍関係の偉い地位の女性が大量に日本に持ち込もうとして阻止されたニュースを検索で出そうとしましたが、見つけられず。

news.mynavi.jp

www3.nhk.or.jp

ジュリア・ロバーツの完璧すぎる何かがひかれた。

冒頭の、子供たちのクリスマス劇を満面の笑みで幸福そうに眺める彼女の顔が、すごいです。

たった一つの希望は、
母の絶対に諦めない愛。
クリスマス・イヴの晩、ラストに
待ち受ける衝撃の運命とは?

そんなふうに売ろうと売ろうとしてる映画ですが、やはり違和感があるので、パンフを買ってみると、カウンセラーの人と、ダルクの仕事もしてる精神科医と、内谷正文という人が文を寄せていて、カウンセラーの人は、当初は学校で思春期の子どもに対応する仕事だったのですが、子どもの前に親への対応、ケアが必要と分かり、現在はそちらの仕事にシフトしている人で、私が漫然と見終えたジュリア・ロバーツの演技、台詞にこと細かくチェックを入れていて、彼女は二律背反(後述)ならぬ二重拘束、ダブルバインドだとしています。相反する矛盾したルールで子どもを縛る。精神科医は、オピオイドの解説もしつつ、ここで必要な母の愛とは、突き放すこと(タフな愛、"tough love")だとバッサリ言っています。適切な治療とリハビリが必要であることを理解し、そちらに委ねる。

なんでクリスマスにベンが帰ってきたかと言うと、クリスマスプレゼントに何を(送って)ほしいか施設から尋ねるベンに、あなたが帰ってくることがプレゼントみたいに答えたのが契機と映画で語られ、まーでもそれで帰ってくるかという。薪を運ぶシーンなんかは、依存症の特質をさらっと描こうとしたんだと思います。養父は、お前が黒人なら施設ではなく刑務所で受刑になる所だと言い、母も、家に金がある、セコハンハズが裕福だから施設にいられる、国の補助もなんにもないとぼろっと言います。(ニュースを見ると、オピオイドに対する訴訟もすごいみたいですが、ストーリーとの関連は分かりません)

終わって映画館の照明がつくと、始まる前にいた人の三分の一くらいがいなくなっていて、スゲーと思いました。ベンがディーラー(後述)の親玉に、一人だけ足抜けは許さねえ的に(家族へ危害を加える的な婉曲的な脅し有)運び屋やらされて、報酬に1パケもらうところ(そんな簡単なスキームでインカ帝国)で一人、それを右手に持ってベンがふらふら運転するところでもう一人、後ろの扉開けて出ていくのを確認しましたが、たぶん誘惑との葛藤で、館内におれなくなったのだと思います。うそです。この映画は長いスパンで薬物依存にのめりこむ主人公と巻き込まれる家族を描くわけでなく、断薬77日目の主人公の一日、クリスマスの一日を描くだけです。家に帰ってスリップしてクリスマスを滅茶苦茶にするんだろうなと思いつつ見ると、以下後報

彼自身はスポンサーもいて、ヤバくなるとその指示もあって、親よりミーティングを選ぶ堅実性も持ち合わせています。ミーティングに親がついてくのですが(本人は嫌がる)、そういうものかどうか知りません。ミーティングの説明はありません。スポンサーは或る意味ジャーゴンなので、「支援者」と字幕では訳されています。アラノンとかギャマノンとか、家族会は本人の会と別れているのがアメリカだと思っていたのですが、さて。「病気なのは本人で、私は依存症じゃない」でしょうから。でも、家族の集まりで、被害者であるだけでなく加害の側面もあることに気付いていくというか、言い回しを借りて言うと、「気づきをもらえる」のかな。エリンブ・ロコビッチは初参加みたいで、終了後、ベンがかわいい女性に近寄られるのを見ながら、底をついて再出発の男性から自分も話しかけられ、若い二人を眺めながら「ああやってお互いのことを話し合って高め合うんだ」「じゃああれはいいことなのね」「そうとは限らない」と二律背反なことをさらっと言われ、問い返す間もなく男性は踵を返して去り、かわいい女性は実はビギナーというか、断薬出来てないらしい人で、明日からやめようと思っているが、最後にあなたのような男性といっしょにハイになってからその思い出とともにやめたい、などと口説きにかかり、後でベンは、彼女はプッシャーというか、映画の字幕で言うと「ディーラー」売人だろうと言っています。ミーティング中は主催者のルールがあるが、終わった後の個別の歓談は危険な時間というか、狙いを定めて歩いてこられたりもするかも。誰が来るか分かりませんね。だから日本では通院者限定の外来ミーティングを病院が主催したりするのかも。有料だったりするそうですが(病院によって違うのかな)会場は教会ではなく、なんらかの施設みたいでしたが、よく分かりませんでした。バーンと看板も映してたのですが。

パンフの精神科医は、治療とリハビリには、安全な環境と同じ目標を持った仲間が必要としています。しゃばの、薬物と縁の深い人間関係に簡単に支配される危険。田代まさしと清原と飛鳥をふっと考え、一万円コンサートとかなんだろう、いちばん苦しそうと思ってます。

内谷正文という人は、本人、当事者なので、その立場から書いています。

なんで24時間、一日を描いた映画なのか聞かれた監督がそのまま "One day at a time" だから、と答えていて、「支援者」もそうですが、ミーティングさいごの小さなお祈りの唱和など、お馴染みのようであり、"God, grant me the serenity to accept the things I cannot change,Courage to change the things I can,And wisdom to know the difference." そのままだったかなーと思ったりだったりでした。私はデンゼル・ワシントンのフライトはDVDで見て、せりふを英語字幕で何度も確認したものですが、この映画もそこだけはそうしてもいいかなと。

Serenity Prayer - Wikipedia

セレニティープレイヤーのウィキペディア日本語版を見ると、市井で生きてゆくことの困難を思ったりします。すごく雑多な知識がついてくる。"Keep coming back, It works, If..." は同名の歌しかウィキペディアでは見つけられず。字幕では「逃げてはいけない」としています。そういう抽象的な意味じゃない、と思う人もいるかも。

ミーティング以外、薪も依存者行動あるあるでしたが、「ブツ(笑)」を隠す習性も登場します。慣れ親しんだ環境に帰すには早い、家族に見つからないよう置いといたのを見つけちゃうからみたいな説明的シーン。

パンフの監督やエリンブ・ロコビッチや妹役のキャスリン・ニュートン役のインタビューは猿渡由紀という人が取材と文を書いていて、なかなかでした。ジュリア・ロバーツは演技にあたって、何か特に取材したりしなくても、インターネットに素材があふれかえっているので、まったく困らなかったと言っています。監督は、自分もACだったと言ってますが、具体的な語りは控えた感じ。ベン役の監督の息子だけ猿渡さんの名前がありませんが、校正ミスかも。「グランド・ブダペスト・ホテル」も「スリー・ビルボード」も「レディ・バード」も見てるのに、きょうだいは初めて見るような新鮮さでした。男子三日会わざれば括目して見るべしと言いますが、21世紀はこれ性差なしで言いかえるべきなんでしょう。アイヴィーは、はっとするような感じでした。

映画『ベン・イズ・バック』公式サイト 絶賛上映中!

金持ちだから助かったみたいな台詞があり、処方し続けた医師を呪詛する場面があり、日本ではこの薬は厳格に管理されているとのことですが、映画では、24時間お薬センターみたいなところで、ほかの抗精神薬の名前もまくし立てて糾弾する場面もあり、医療報酬の点数とか、どうのこうので、薬漬けで逆に通院から入院、休職扱いから退職で、その後も社会復帰出来なくなるなどの例が日本でも散見されるなら、それも困ると思いました。あんまりないといいですね、そういう話は。

もうあまりこういう映画を観ないので、たまに見ると、ほかの映画、例えば、こないだやってた、「いのちの深呼吸」なんかも見とけばよかったかな、なんて思います。でもなあ。

https://www.youtube.com/watch?v=V88fin8gZhI

以上

(2019/10/22)