「きょうの肴なに食べよう?」 クォン・ヨソン[ノンフィクション(海外)] - KADOKAWA
紀伊国屋書店に取り置きの『ゆりあ先生の赤い糸』を取りに行った時、それ一冊だけだとなんとなく気恥ずかしかったので、あわせて買った本。亜紀書房の「隣の国のものがたり」とかチョン・セランとかなんかないかと思って海外文学の棚を見て、亜紀書房の韓国小説は、BLしかないかったのでこれを買ってみました。日本でも女流作家はよく酒とアテのエッセーを書くので(男性作家も書くか)それの韓国版くらいのつもりで読みましたが、あにはからんや儒教道徳の強烈な韓国で女性の酒のみ、ひとり飲みに関してということだと、というようなことはまったくありませんでした。
作者はいちばんのベストセラー小説もまた、飲酒にかかわるものだったそうで、下記です。近場の図書館にはないので、リクエストするか、買うか。
『春の宵』 クォン・ヨソン|韓国女性文学シリーズ|海外文学|書籍|書肆侃侃房
本書にも『春の宵』は最初と最後に登場し、原題は直訳すると『あんにょん、酔っぱらい』だそうです。『あんにょん』が邦訳なのかはさておいて。原題「안녕 주정뱅이」の後半は「酒酊主」といった感じのヨッパライだそうで、「안녕 노가다」でないのは、ちょっと残念です。
イラストレーション:山手澄香 ブックデザイン:鈴木成一デザイン室 訳者は神奈川出身でソウル大卒のしと。
読んでて、あまりピンと来なかった帯後ろ。
カバー折。『春の宵』は、少し読んでみたいと思いました。本書は、う~ん。ソジュ(焼酎)ばっか飲んでますが、酩酊過程を省察したりしてくれないので、なんだか分からんというところ。マッカリだかマッコリも時々出ますが、맥주(ビール)とか日本酒とかウイスキーとかウォッカとかアラクとか飲んでほしかった。
頁90、幼少期の思い出を語る場面で、むかしは飲食店で食事をすることを「外食」「외식」と言ったが、今は「賈食」「매식」と云う、という個所は、日本語っぽいから変えたのかなぁ、と。でも、〈买食〉は、漢字で成り立ってる単語だけど、中国語っぽくもない。漢語だと、テイクアウトっぽくなる気瓦斯。そのすぐ後の頁92に、ある店のおいしいコロッケを「クロケット」とは言いたくない、あえて「コロッケ」と呼びたい、という個所があり、これも、日本語だとなにがなにやらだけど、そんなことでチニルパと言われてたまるか的発言だったのかなあ、とも思いました。
頁119
私は汁を口にする時はほとんどさじですくわない。熱かろうが冷たかろうが、みっともなくても器ごと持ち上げて飲んだり卓上お玉ですくって食べるのが好きだ。
お玉をスッカラ代わりに使うのは論外ですが、スープ類の器を持ち上げてそれに口つけて飲む韓国人の描写は初めてです。頁39に、箸さばきもおかしくて、ハサミのように箸を持つとあります。そうした、家庭内教育でのためらいが、革命的な人材育成に役立ったのか。どんぶりやお椀を持って口につけて汁を飲むわけでしょう、すごいです。
ギョーザと訳しつつ、マンドゥとルビを振ってるのがおもしろかったです。
頁72の「朝鮮かぼちゃ」は、朝鮮でない南瓜との違いが分かりませんでした。
う~ん。以上
【後報】
本書は訳し下ろしだそうですが、原書は新聞や雑誌のエッセーを集めたものだそうで、わざわざ「訳し下ろし」と一ページまるまる使ってことわる必要もないかと。随筆の邦訳が単行本あるいは文庫本初出になるのは、或る意味当たり前なので。これがインタビューだと、雑誌に邦訳が載ることはわりとあると思います。
チョングッチャンも、一ヶ所出ます。名前だけ。
酒と肴さえあれば。
(2021/9/19)