『武漢封城ロックダウン日記』"Diary of the Wuhan Lockdown" by Guo Jing 読了

カバー写真|「2020年2月7日、武漢・黄鶴楼近くの通りを見回る人たち」(写真提供:ユニフォトプレス) 日本語版ブックデザイン|Malpudesign(清水良洋+佐野佳子)

2020年1月23日、1100万の大都市が突如封鎖ロックダウンされた――!!
そこではいったい何が起きていたのか!?
NHK、英国BBC等で放送され大反響!29歳の女性ソーシャルワーカーが綴った封鎖下の都市の真実の記録!

武漢封城日記 | 潮出版社

台湾でもともと出版された中文版も日本で電子版で読めるようです。同じレイアウトの表紙ですが、黄鶴楼ではなく、放置自転車を活用して封鎖された路地と、”不紧集,戴口罩,讲卫生,勤报告”(密を避け、マスクを着用し、衛生に気を配り、報告に努めましょう)と書かれた弾幕。この"报告"は、この文脈なら素直に「通報しまくりましょう」と訳していいと思うのですが、そうではアリマセーン、報告はホウコクデスヨと言われても反論出来ないというか、やっぱり漢文てアイマイな言語だと思います。

cjjc.weblio.jp

一座大城市,就这样突然静了下来。
它什么时候再醒过来呢?
191万次读阅 微博首发

武漢封城日記 - 株式会社 内山書店 中国・アジアの本

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人的声音・不见了。
城市・被封锁了。
它什么时候再醒过来呢?
但遗忘没有那么容易。
有人说疫情过去,人们就很快会忘记,
疫情到底扩散得多严重?没人知道。
城到底要封闭多久?没人知道。
恐慌也是,自由也是。
病毒是看不见的。

下が、今でも読めるロックダウンダイアリー(の、一年後のスペシャル投稿)

郭晶|武汉封城一周年记 - 郭晶 (@GuoJing)

台湾聯經出版版は三月一日(未完)までで終わっているので、四月八日の最後まで読みたい人は上のウェブで読めばいいという。でまあ、かくしょうサンのピンイン"Guo Jing"とウーハン"Wuhan"でアンド検索してみたら、日記の英訳版もインターネットに出ていて、下記です。

www.wordswithoutborders.org

日記を書き始めてそくBBCから取材が来たそうで、それは何故かというと、かくしょうサンが中国新進気鋭のフェミニストで、それなりにその世界では名前が売れてるからのようです。*1だから私も、勉誠出版のアジア遊学で中国リベラリズムの特集やった時、載ってるかと思ったですが、その号には、フェミ自体フォローアップされてないかった。日本語媒体も少し検索してみましたが、当代中国フェミニズム、あんま紹介されてないんですね。中国人留学生とかバンバン論文書いてるかと思ったので、ちょっと意外。

Guo Jing (activist) - Wikipedia

郭晶 - 维基百科,自由的百科全书

mainichi.jp

https://www.waseda.jp/inst/weekly/assets/uploads/2021/01/waseda_0112_b.jpg右は、邦訳者稲畑耕一郎サンとはまた違う人の執筆ですが、本書感想を商学部院の教授が書いていて、そこに載ってた、長江をバックにしたかくしょうサンのポートレート武漢のホテルで客室清掃の仕事をしてたさだまさしのオカアサンも、この風景を見てたわけですね、半世紀以上前に。

コロナ禍とディストピア ── 中国武漢で起きたこと – 早稲田ウィークリー

おがわとしやす教授の感想も面白かったです。日記にはそんなこと中国人の当たり前なので書いてないですが、中国13億相互監視社会が生みだしたエポックメイキングとして、支付宝や微信支付ではAIが個々人の信用度をランク付けしていて、高ランクだとローンの金利などで優待が受けられるが、信用度が低いと逆に、なんでもスマホで出来る社会のマストからどんどん阻害されてしまい、どんどん何も出来なくなってしまう。そしてその信用度は、支払い能力や資産だけでなく、思想や、政治面での国家に対する忠誠度も勘案されている、という(そんなふうにこの感想は読めます)スマホワンストップが生んだディストピア

“浙江性别歧视第一案”郭晶:胜诉后,我还要上诉_2014女性传媒大奖11月人物_网易女人

上は確かかくしょうさんが一躍中国フェミ界の切り込み隊長として躍り出た事件の記事。日記によると、かくしょうサンはもともと河南省の信陽というところ出身の、農村戸口かなんかの人で、高卒で、かな、浙江省のくいの杭州の調理師学校の事務職に応募して、応募時は特に条件なかったのに、男性限定の求人デスと断られて、それで就職差別の裁判起こして、勝訴した人だとか。その後、湖北省武漢フェミニストとしてソーシャルワーカーの職につく。

www.youtube.com

上はそうやってもめてたときに、自称公安を名乗る男性が、ホンモノかどうか動転してたので確認しきれなかったが、いきなり夜彼女のアパートに押しかけて入ろうとしてあわやだった騒動(2022/4/27追記)の動画ですが、つべなんかロクに簡体字圏は見に来ないと思うのに、13億もいるとやっぱりヒマな人や国外在住者もそれなりに多いのか、2件コメントがついてて、いずれも簡体字で、「ブスに育ったら人権がない…カネも稼げない…恨みつらみを抱くだけ…そんなのはどこも同じ」「こんなんで誰がおまいにセクハラするんだお」というセカンドナントカでした。このように育つとか、空気読まずとか、そんなあれこれを入れた漢字の文章。

matters.news

上は日記サイトの自己紹介。「女権主義者」がフェミニストの意味だそうで。すごいですね。アラサーそこそこでもう堂々名乗っている。名乗ったもん勝ちな世界なのかもしれませんが。

ファンファン大佐に対して思うのは、中国も高齢化社会になりつつあるので、老人問題が深刻になるわけですが、そこで、やっぱりあちらの方が遠慮なく老害叩きをする、その標的になった感があるなあと。我が物顔で公園を占拠して踊りまくって自転車マナーがどうこう口の悪さも天下一品みたいな老人女性が問題になってると、コロナカ前に中国語の老師が云ってたです。本書のかくしょうさんは、SNSでのつながりが広いせいもあるでしょうけれど、ファンファン大佐ほどは叩かれなかった(若い分、行政批判も空気読んで、うまいことしてない)

武漢ロックダウン日記の特色は、①最初は買い物には出歩けるくらいののほほんだったのが、だんだん厳しくなって共同購入が多くなって、散歩にも行けなくなる展開が順を追って描かれ、ファンファン大佐よりタイムライン的な日常の変化が追いやすい。②毎晩友人とビデオチャットし、その時々のネタなどが書き留められるので、真剣チョベリ場10代(20代だが)inCHINAが読める。③なぜかジャーナリスティックな使命に目覚め、在宅ワークの利かない、かつ給与も低い補償も不明瞭な清掃員にインタビューしてまわる。日本も緊急事態宣言まんぼこ時代は、清掃バイトのなりてがなくて困ったとか。日本はコロナカで宅食需要が急増しましたが、宅食先進国の中国は、封城下就ケータリングも制限がかかったと思われ、本書だと自炊主体みたいな感じでした。

頁37のブタのマメそば(腰花麺yaohuamian)を検索しましたが、麻辣あり闘将否刀削ありヤキソバありの多種多様な世界で、武漢の作者アパート界隈の店がどれか、はんじかねました。

かくしょうサンの街角ウォッチングは、かなりの頻度で、葬儀屋が開いてるかどうかを書いてます。

頁38 一月二十五日

 花屋もまだ営業中だが、売れ残った鉢植えはどれも生気がなさそうである。葉っぱに斑点のあるポトスを選んだ。手がかからないからである。

ごめんなさい、本文の趣旨と全く関係ないところ、中国の省城の商店街に今は花屋があってポトスが売られている、というところでかなり胸がじんとしてしまいました。しかし、よくよく検索してみると、私はポトスとポインセチアを混同していて、ポインセチアが売られてると思って感動していたのでした。ポトスだと、ちょっとちがう。

zh.wikipedia.org

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頁47、豆腐干のうしろにカッコをつけて「岩豆腐」と書いてますが、岩豆腐が何か分かりませんでした。検索すると、徳島と岩手県の「岩豆腐」が出ましたが、豆腐干とは別物な感じでした。

頁53、次亜塩素酸水を中国では84消毒液と呼ぶとありました。1984年に製品化されたので、そう呼ぶんだとか。しかも私の人生の転回期の地壇病院開発じゃん。

84消毒液 - 维基百科,自由的百科全书

xtrend.nikkei.com

页54  螺蛳粉

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どこかページを忘れたのですが、スーパーの前に止めたシェアバイクをカギかけ忘れて、そく盗まれてますが、シェアバイクだからまいっかで済ませてます。その辺の感覚がウケました。

頁70、清掃員への聞き取りで、マスク100枚を198元で買った清掃員が、休み時間に盗まれた話を聞く。

頁81 一月三十一日

(略)武漢慈善総会(チャリティ財団)は、四〇〇万人から五億元余りの募金を集めたら、昨日までに一銭も使っていない。

頁87に、リック・アンド・モーティーというアニメが出ます。主人公がアルコール依存症という設定のアニメがもう出来てて、中国長江流域でもバンバン見てる時代なんだと思いました。

https://www.netflix.com/jp/title/80014749

リック・アンド・モーティ - Wikipedia

dic.pixiv.net

頁121、二月七日。李文亮逝去。彼の注釈に「哨(警笛)を吹いた人」とあって、それはそうなんですが、〈吹哨人〉は英語の"WhistleBlower"の漢訳で、意訳としては 「内部告発者」になるそうです。

李文亮 - Wikipedia

吹哨人 - 维基百科,自由的百科全书

内部告発 - Wikipedia

頁130、『銀河ヒッチハイク・ガイド』が出ます。『ブラック・ミラー』というイギリスのSFドラマも出る。今の中国の若者はこんなの見てるんですね。さすが三體世代。

ブラック・ミラー - Wikipedia

頁150 二月十一日

 幼い頃、毎日の朝と夜はほとんど〈馍菜汤モーツァイタン〉だった。スープは「白麺湯バイミエンタン」で、小麦粉に少しの水を加えてかきまぜ、固い糊状にしてから、さらに水を加えてかきまぜとろとろの液状の糊状にする。最後はお湯が沸くのを待ってそのお湯に入れる。私と弟は「白麺湯」が大嫌いだった。たまにお米のお粥も作ったが、お米の量はごくわずかだった。お昼はほとんどが麺。旧正月の年越しの時だけ肉を食べることができた。夏は野菜の種類が少し増えた。農村の人は自分で野菜を作っているからである。冬になると野菜が減り、主に大根、白菜、じゃがいも、玉ねぎだった。

農村幼少期の食生活と、ロックダウン下の食事の比較をする箇所。「貧困は、究極のところ、分配の不平等である」という文章が飛び出します。

頁165ほかに出てくる「ステムレタス」が分かりづらかったのですが、私が中国で、火鍋の具材などで食べていたウォースン、〈莴笋〉であることが検索で分かりました。こんなところで再会。

ja.wikipedia.org

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この日の夜のチャットのテーマはDVで、一人っ子の小皇帝にも平等に、この問題は降り注いでいたことが分かります。

頁175、バレンタインデー。伊藤詩織サンは中国を講演巡回してたようで、現場でそれを聞いた人の話が出ます。

伊藤诗织 - 维基百科,自由的百科全书

ブラックボックス』の漢訳は中台それぞれにあり、大陸版は《黑箱:日本之耻》だそうです。このあと、チャットのテーマで中国の引きこもり問題となり、「肥肥フェイフェイ」と呼ばれるパラサイトおたくが出ます。この単語は検索してもその意味で出ませんでした。

頁195、二月十六日に臨時通行証の内容と、「武昌区住民区域封鎖式管理実施に関する公告」が出ます。何昊という金持ちの青年が、何炎仿という父親の力で、全省封鎖の中、天文という街から邢州まで帰宅した記事の話が出ますが、その事件は完全にデリートされたようで、何も検索で出ません。その後書かれる、蒋劲夫という芸能人が、コロナ前に付き合っていた日本人女性にDVを振るっていた話は、検索すれば出ます。

蒋劲夫 - 维基百科,自由的百科全书

頁203、例の倒産した広州の恒大(こうだい)が出ます。ヘンダーといつも呼んでたので、ちょっと新鮮。

頁216、二月十七日。越境移動禁止でミツバチを雲南に移動させることが出来なくなった四川の養蜂家劉徳成自殺のメモと、その夜、隣家の女の子が初めての生理で困惑して緊張して泣いている夢のメモと、冬の陽だまりのなかの中庭散歩と、共同購入や義捐物資(野菜)の受け取り。通りかかる車から范玮琪と张韶涵の《るぐおだし》が流れている。

www.youtube.com

そんないい歌かというと略ですが、ベトナム語の歌詞でなにが何やらのこの動画のほうが、公式よりクリアに聞こえるふしぎ。この日、フォロワーから、「世界第二位の経済大国にして、こんなにも多くの人が、あなたと同じ土地で飢えることになるとは、想像すらできませんでした」のコメント。原文見たかったのですが、共産党批判の嵐のコメントとそれに脊髄反射した反論のせいか、ありませんでした。書籍では日ごとにコメントが振り分けられてますが、ウェブだと数日単位のまとまりの最後にコメントがまとめられてる感じです。

頁223、コロナカに加えてバッタ襲来のニュースがあったのですが、それがフェイクだったという文章を読んだというメモ。

页229,草泥马や河蟹と同じ理屈で、2018年罗茜茜博士实名举报北京航空大学教授陈小武性骚扰,一个洪亮的声音告诉中国#MeToo在此开幕。不久就开始〈删帖封号〉の時に、みーとぅーと同じ音の〈米兔〉を使ったり、”我也是“を方言で"俺也一样"にしたり、と書いてあるのですが、そこで"我都糸"と書いてるのは、"我都係"の誤記で、広東語じゃないだろかと思いました。俺なら山東だから河南のかくしょうサンは分かるかもですが、ヴィッキー・チャオとかの世代でないので、広東語そんな聞きこまなかったろうと思う。

www.bbc.com

頁245、二月二十一日のコメントに、「どうやら野菜は普通の値段ではないのですね」とあるのですが、それも原文見つけられず。嵐対策を兼ねて、〈社区精选〉〈最新回应〉というかたちで一部しか見せてない気がします、コメントは。書籍化されてない三月半ばの個所のコメントに、"土豆居然差不多5元1斤?太贵了吧?"「ジャガイモが500g5元もする!高すぎじゃない?」とあり、中国の野菜の物価って、そんな昔と変わってないのかしらと思いました。

当たり前なのですが、ウェブ版はブログなので、写真が豊富です。毎日の食事、共同購入の受け取り、車の下に隠れた猫。で、まあまあの範囲で、私の日記なんかより、はるかに人が写ってます。「コミュニティ」と書かれているアパートビルは、思ったとおり租界の香りのする古いものでしたが、前庭がなべて駐車スペースになってマイカーがずらり並んでいるのが、もはや昔日の中国ではない感じでした。窓からゴミ捨てたら車に当たりますね、今は。

zaodaotian名誉教授の訳者あとがきが右。ザギンの武漢料理店の日本語読みが「カッカ一号」なのはおかしい、《珞珈一号》はラッカ一号と読むべきとかねがね私はこの日記で書いてるのですが、稲畑耕一郎せんせいも同じルビを振ってくれていて、うれしかったです。日本語の読み方はちゃんとしたいです。てきとうな読み方始めるとキリがない。

あともう一冊、武漢の日記が日本で訳されていて、天下の岩波書店から出ているのですが、訳した人はベイダー日本語学科の院生で、邦訳時は广K广O大学の研究生(古典文学専攻)です。どういうつながりなんだか。題名は『武漢支援日記』で、上海からの支援チームの医師の日記で、アマゾンレビューは、中国共産党礼賛イカンゴレン的ボロクソが一個あるだけです。なので、読むかどうするか、迷ってます。ヤフコメや中国製の安かろう商品のレビューとちがって、在日中国人の援護射撃書き込みがないのが、ちょっとさびしい。しかし私は著者の查瓊芳サンの「瓊」が簡体字だと〈琼〉になることが分かってないかったので(人名によくある字なのに恥ずかちい)思い出せてよかったです。原題は《查医生援鄂日记》(鄂=湖北省)著者名が英雄的に前面バーンなタイトルですが、そこの説明とかも読めば書いてあるのかもしれません。原書と邦訳の表紙は同じイラストです。

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紀伊国屋書店のレビューのほうがアマゾンより数が多かったので、電子版もないことだし、紀伊国屋のURLを貼ります。アマゾンのボロクソレビューが見たい人は検索してけさい。

チャー先生もルントウ、否、上海仁済医院呼吸器科の主任医師として、上海ロックダウンで引き続きご活躍されてるのか、オミクロンは重症化しにくいのでヒマなのか分かりませんが,13憶いるんだから重篤患者も13倍いるだろうとは思います。「医者も13倍いるとは考えられないんデスカ?」北京冬季五輪であまり話題にならなかったので、シノバックとシノファームのムルベクシン(Ⓒ韓国"물백신을 맞다")の効き目スッカリ忘れてました。中国でも三回目四回目接種してるんでしょうか。走吧,走吧,清零之桥。我们走吧,向清零之桥。清零留点下班,我换装药厂的衣裳。妻子在澳洲。我去喝几瓶啤酒。"雪糕雪糕~♪  冰棍儿冰棍儿~♪" "病毒儿病毒儿?唉,你卖啥? 我打死你!“ 疫苗一秒,封一生。

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*1:でも一般では無名なようで、Wikipediaの記述出典のテンセントの記事のタイトルも、「武漢ロックダウン日記出版、たぶんあなたは作者が誰か知らない」でした