『リボンの男』"RIBBON NO OTOKO" YAMAZAKI NAO-COLA 読了

 ブックデザイン 鈴木成一デザイン室 装画 尾柳佳枝/れな[帯手書き文字]/りこ[表紙・扉・帯のリボンの絵]初出「文藝」2019年秋号 全国学図書館協議会選定図書 一回の読切で、単行本換算で百四十ページの分量を掲載し、それをそのまま一冊で刊行するんだなあと思いました。絲山秋子の小説もそんな感じな気がします。

リボンの男

リボンの男

 

www.kawade.co.jp

http://www.kawade.co.jp/img/image_i1/9784309028521.jpgさくさく読みました。エッセー『かわいい夫』絵本『かわいいお父さん』と異なり、作者の相方はモチーフ程度となっており、特に私生活を切り売りしてるとかなんとか外野が妄想をたくましくする必要はないことが分かりました。内容紹介でタイトルの説明をすると、それがそのままオチであるという展開が悩ましいといえば悩ましい。図書館本で帯がないので、版元公式から帯画像ひっぱりました。奥付の装画に帯を書いた人の名前まで書いてあるので、見たくなります。

作者の本は、夫婦で趣味探しをする連作から読み始めたのですが、実に「漢」な女性キャラが印象に残っており、この小説もその点は変わりません。常に断言、ダメなものはダメと言いそうな、背筋がすごそうなひとです。そう云うとたぶん「傷つく」とか「デリカシーがない」とか言ってパワハラ下剋上ハラスメントなどの職場いじめを始めるかもしれない、始めないかもしれない。ぜんぜん関係ありませんが、本作のアマゾンレビューに、「息子の名前が「太郎」な時点で無理」と、星ひとつしかつけてないレビューがありました。それくらいしか戦いようがないのかもしれない。

主人公のふたりは結婚相談所を介しての結婚ですし、ワイフが書店店長兼物書きの副業持ちで年収六百五十万、ハズバンドはロスジェネ世代だから気にしてないという設定で新古書店のアルバイト年収百八十万(でもふたりはタメ年)どちらも学生時代に双極性障害摂食障害の診断と服薬などの経験があります。社会に出る前にほぼ完治。はしかか(棒 この辺、小説は小説ですよと云う感じになれるので、よかったです。

ただ、作者のパートナーが、相手が作者だから秘めた心情を吐露したのに使われた、部分はここではないかというのを無理に私が推測すると、「父乳」がそれではないかと思います。男性が子どもに自分のおっぱいをあげる可能性、未来。私自身はどうも「父乳」は苦手で、楳図かずおまことちゃん』で、配下のオムツ軍団も意思疎通が出来ないくらい生後間もない赤ちゃんが、とっても美人なママのおっぱいを飲むことを忌避していて、そのわけはママが顔に似合わず乳毛を抜かない人だったことにあった、という話を思い出してしまいます。母親においてもそんなことがあるのに、男性が自分の胸とか乳毛にデリカシーや気くばりがあるとも思えない。まことちゃんの何巻に乳毛の話があったか知りません。全巻電子化されてるので、探してみるのも人生かと思います。

まことちゃん 16 | 小学館

それとは無関係に、食洗器や洗濯乾燥機の購入による家事労働の軽減、液体ミルクはまだなかったが電気で搾乳して冷凍して授乳、などの描写は実体験が反映してると思いました。職業女性で35歳で結婚で、その後の妊娠として、いつから産休かがまったく書いてない気がしました。見落としたか。宿六がいつから非正規雇用やめてカジテツ男子専業に入るかのモノローグはあった気がしたのですが、ヨメの産休がない。ような気瓦斯。

 作者の小説は、私も理屈っぽいので、嫌いじゃないことが分かりましたが、いちじるしく登場人物が理屈っぽいです。家事労働の賃金換算なんて、フェミニズムの基本のキなので、専門書でも読み出すかというとそういうことはないのですが、いっつも主夫男は考えています。主婦と主夫が、看護師みたいに性別関係ない新単語にそのうちならないかとかはいいのですが、プラスチック食器について考えてしまうあたりは、右か左で云ったら左の思考だろうと思いました。土手でよく見かける犬の散歩(トイプードル)のちょい悪おやじがネトウヨで「韓流ばかり放映するフジテレビ許せねえよ、そう思うだろ」(古いでしょうか)とか話しかけて来ればいいのにと思った。

野川の土手のオヤジがネトウヨかなと私が思ったのは、キショウブという帰化植物についてのくだりから。キショウブ、私は見たことありません。この日記の写真にも登場してないはず。

キショウブ - Wikipedia

主人公の妹子は、よく見かける疥癬の狸に薬入りの餌を与えたらと、ネットで見た行為を参考に動物病院に相談に行ったら、自然界への人間の介入ガーとか言われて処方を断られるのですが、初診料と診察料で千五百円とられるくだりがおもしろかったです。保険ナシの獣医が、てきとうにいなすだけで取れる上限てそのくらいなのかなという感じで。保険の効く人間の、診察券のあるかかりつけ医でいなされる場合は、百五十円とか二百円とかな気がします。それで三割。健康保険は偉大だ。

主人公は主夫で保育園のママ友社会とどう調和してるのかというと、うまく調和出来ているそうで、そのためのNG話題集などをネットで見て活用しているさまが冒頭出ますが、この段階では主人公の名前が「妹子」で、性別は書いて無くて、万が一だが、主人公でなくヒロインかもしれない(女性でも主人公と呼んでよく、男性をヒロインと呼んではいけないがヒーローと呼ぶとそれは主人公の意味ではなくなる)「妹子」は、イモトアヤコみたいな女性かもしれない、と思ってしまう読者も、大海の一滴くらいの確率でいると思います。

頁19

 後ろから、その子の親らしき人が小さなキックバイクを抱えながら追いかけてきて、妹子たちと二、三メートルの距離に近づいてから、妹子に挨拶した。髪をゆるくまとめて銀色のバレッタで留め、パフスリーブのボーダーシャツを着ている。 

 どういう服装か分からなくて、作者はさすが小説家だ、バレッタとかパフスリーブといった、一般人には理解出来ない用語を自在に使いこなせるのだから、と思いました。でも、五月で初夏で暑い暑い、野川(多摩の野川です)で水遊びするような季節なんだから、適度に肌露出してるお色気シーンなんだろうなと思いました。

バレッタ (装身具) - Wikipedia

f:id:stantsiya_iriya:20200616204356j:plain

バレッタという装身具は髪をアップにするとかではなさそうなので、耳は出るかもしれないが、うなじは、出るとしてもバーンという感じではないのだろうと思いました。

dic.pixiv.net

この後ママ友をナンパしてダブル不倫で沖縄旅行行って振られる前に振る展開になるのか、キタ――(゚∀゚)――!!(古いですね)と思いましたが、それは杞憂でした。ママ友ナンパしてダブル不倫て、相当鬼畜らしいです、私の周りの総合的な意見では。

f:id:stantsiya_iriya:20200616202934j:plain

オチが散文的で、もっともっと書けそうだけどキリがないのでいったん区切ったようにも思えます。プロットとかをカッチリ作った感じでない。

そういう小説ですが、巻末の参考文献一覧にも出た、『散歩で見かける草花・雑草図鑑』は相当使えそうなよい本に見えますので、私も購入してみようかと思います。そしたらブログに写真を載せる時の手助けにもなるだろう。

改訂版 散歩で見かける草花・雑草図鑑

改訂版 散歩で見かける草花・雑草図鑑

  • 作者:高橋冬
  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 以上