『生ける闇の結婚』(チョンクオ風雲録 その十六)Each book of "CHUNG-KUO" series is published in two separate volumes in Japan. This book is the second part of "Chung-Kuo 8: The Marriage of the Living Dark". (文春文庫)未読

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Chungkuo XVI The Marriage of the Living Dark

積ん読シリーズ 

一度も読むことなく、十年以上本棚を占有し続ける十六冊。しかし手放せない。

大阪の天牛書店だったかな、古書店界の老舗から、日本の古本屋経由で一括購入し、そのまんま。全冊パラフィン紙にくるまれた、保存状態超良好書だったのが、私の置き場所が悪いせいで、いちばん上と下が、ちょっと鉄棒の痕がつき、黄ばんできた気がします。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏

 大阪の古書店街は、なんとなく通ったことはあるのですが、けっきょくこうしてネットで注文する以外、交流ないです。梅田だと聞きましたが、違うかな。近くの公園に、援交全盛期に、高校の制服を着た、どう見ても三十代以上の太った女性が頻繁にあらわれ、大阪はおおらかでまいどな土地柄ですので、気さくに話しかけるオッチャンがいて、すぐなにやら成立というかまとまるというかでそそくさと消えてゆく一部始終を、つかれて公園で休んでいると見なアカン、それがつらいとボヤいていた人を思い出しました。見なけりゃいいじゃんと云うと、どうしたって気になって見てまうやろー、という。

装画・安田尚樹 デザイン・坂田政則

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Chung Kuo (novel series) - Wikipedia

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壮大なスケールの未来叙事詩、堂々の完結! 地球の明日はこうなるかもしれない…  25th文春文庫創刊25周年 いただきますと読みはじめて、ごちそうさまと読みおわる。 文春文庫 今月の新刊 あついぜベイベー 忌野清志郎

この消しゴム版画の似顔絵はどう考えてもナンシー関。1999年2月初版。さいごの巻でいきなり「地球の未来はこうなるかもしれない…」と煽られても困るだろうと。

「チョンクオ」は「中国」のウェード式表記"Chung Kuo"のカタカナ転写で、人類が中国に支配される未来、2190年から2250年までを描いたSF大河小説です。原書の刊行開始が1989年で、まだ二冊くらいしか出てないときに文春が全巻翻訳の版権を取得、見切り発車でえいやで邦訳を進め、売れても売れなくてもとにもかくにも出し続け、(各巻二冊ずつ分けて日本語版刊行)1999年に、1997年の最後の巻(ウィキペディアの最後の巻の刊行1999年は1997年の間違い)を訳し切って全巻16冊出版しきったという、今世紀の出版不況下ではとても考えられない前世紀の赫々たる戦果なのですが、私は買ったことで満足して読んでません。

話を戻すと、人類が中国に支配されるというのは、1990年時点でニューヨークタイムズが既に、「ありえないから。そういう歴史経過は飛躍がどうのこうの」と書評してるとウィキペディアにありました。

However, in 1990, The New York Times felt that Wingrove's vision of a Chinese-dominated future was unlikely and "ungrounded in historical process.

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新天地を目指した人々は、長旅に疲れ、不安に悩まされていた。しかし帰るべき地球は、もはやディヴォアと花の形態をした謎の生物に征服されつつあった。故郷を救わんと帰還を決意するも、時間の歪みに捉われ…、異空間の「自分たち」と力を合わせて危機を乗り越えてゆく勇士たちの胸のすく活躍。風雲録、感動の完結篇! SF100年最後の巨篇[チョンクオ風雲録]全16巻  ごちそうさま。

本シリーズは各巻訳者あとがきがあり、この最終巻では、作者は作品では明かしてないけれどもダイアグラムというか、登場人物の名前を陰陽二元で遊んでるが、それをパワポで宣伝しないところがイギリス人らしく、美風であり短所だ、と書いたり、イギリスSFの伝統に則った王道作品なので、やっぱり社会批評がある、とか書いてます。

で、その後お待ちかねの翻訳苦労話があり、とても読んで楽しかったです。本書は訳者にも「健全な実験精神」を要求してきたため、対応におわれたそうで、まず、一巻刊行当時は、英米文学で中国人が出て来る場合、そのアルファベット表記に対応するありがちな漢字を選んで中文名を邦訳サイドで作ることが慣例だったのですが、本書はそれを捨て、アルファベットをカタカナ表記する道を選んだそうです。最近ではそういう邦訳も珍しくなくなってきているとか。原題のチョンクオをそのまま「中国」と訳したらそりゃなんならなので、英断ではあるけれど、それ以外選択肢はなかった気もします。チョンクオを支那と訳したら論外だし。しかし、ウェード式表記の"chung kuo"をそのまま素直に読むとチンクオで、チンクオと読むにはウェード式の読み方の知識が必要です。本書の人名はなべて、ウェード式漢語の読み方ルールに従ってカナ書きされてると考えるべき。これの続編を全編ピンイン表記でぶちあげたら、それは"ZHONG -GUO"なので、「ジョングオ風雲録」になるのかと思いきや、そこにやはり邦訳上の慣例、清音濁音は有気音無気音に非ずルールが割って入って、またまた「チョンクオ風雲録」になるんだろうかと思いました。

で、本書は漢語だけでなく、コーンウォール語という死語から復元された言語も登場するそうで、そっちも大変だったそうですが、それより、中国語を英語に意訳した表現に、ピンときて原語の四文字熟語などに還元する作業がサイコーに大変だったと書いています。例として、梅の形容「アイスの皮膚を持ち翡翠の骨をもつ」が、美人のメタファーでもある〈冰肌玉骨〉であることを探し当てるまで、かなり時間がかかったと書いています。

冰肌玉骨(ひょうきぎょっこつ)の意味や使い方 Weblio辞書

さいごに、最終巻刊行前に文春を退職された企画の発起人や、担当編集、調査協力者、各方面のブレーンに対し謝辞があり、そこに中国語関連として、残雪の邦訳などをした佐藤直子さんと並んで、岩上於沙武という方への謝辞があり、この人は一巻では岩上治さんと書かれていて、この時点で中国SFの日本紹介なんて、大修館あじあブックスで『中国科学幻想文学館』を書いた在野のひとのワンアンドオンリーだと思ったけど、とその著者を見ると、林久之さんとあり、さてはこの分野にもう二人もマニアがいたのか、今三体やらケン・リウやらでウハウハでござろう、と思ったら、林久之さんは岩上治さんのペンネームで、けっきょく同じ人なので「ひとり」で、長年孤軍奮闘してきた成果が今、報われたかんじで、おめでとうございますと思いました。

近藤直子 - Wikipedia

確か上巻の清末民初までが武田雅哉執筆で、下巻のNeo中国建国以後が林久之さんだったかと。

中国科学幻想文学館〈下〉 (あじあブックス)

中国科学幻想文学館〈下〉 (あじあブックス)

 

今年、中国のSFの賞の銀河賞〈银河奖〉を今年受賞した作家さんのブログで、同一人物であることと、先年受賞していたことを知りました。

https://www.ueda222.com/plus/archives/668

よかったです。というか、今年受賞した作家さんの受賞作が近くの図書館にないのが不思議。火星のダーク・バラードはそういえば読んでました。柏のほうに住んでるクレイアニメ造型師のひとのおすすめでした。以上