装幀・装画 野村浩 編者 杉田淳子、武藤正人(go passion)
本書収録の滝沢敬一のエッセーが、増田れい子『たんぽぽのメニュー』で触れられているので、それで借りました。河出が再版したエッセーに出て来るエッセーを、これまた河出の埋もれた作品救済アンソロジーで読む不思議。
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頁108 滝沢敬一『カッフェー・オーレー・オーリ』
On prend le café au lait au lit.
Avec des gateaux et des croissants chauds.
Ah! que c'est bon! Nom de nom!ねどこでのむ牛乳入りのコーヒー
菓子もあったかい、クロアッサンも一所だ
あゝなんてうまいんだろう、こんちくしょう
あちらのご婦人の理想はねどこであさめしだという、それ。それだけのために、コーヒーを巡るエッセーばかり集めたアンソロジーを一冊読みまんた。たぶん河出の人でなく、別プロダクションのしとが頑張ってエッセー集めてますよね。ビッグコミックオリジナル最新号のコラムに藤木TDCが、今活字読むのは50代以上なので、イキオイ書く方もそれを対象に書くようになる、と書いていて(その後50代男性の過去回想の主戦場であるビニ本談義へ続く)このアンソロジーもなんだなあ、私がこの日記始めてから読んだ作家さんがようけいてはるなあ、と。最年少が湊かなえでしょうか。コーヒーがオチの冷酷小説書いたばっかしに。
大きな弱点があって、集めた作品はすべからく、世の中にはコーヒーに煩いご仁がいますけど、わてには味なんか分からしまへんのや、というタイプばかりなんですの。コーヒーってのはなあ、繊細ないきものだからよー、愛情を以て接してやらにゃならんのよ、こうすべしなんだよ、わかる? わかんねーのかドアホ!!!!! 豆腐の角に頭ぶつけて味噌汁で顔洗っておととい出直して来いや、みたいなタイプのエッセーは皆無。
いちばん近い執筆者は、没後ワイフにボロクソ書かれ続けてン十年の井上ひさしでしょうか。放送作家時代、執筆のため喫茶店に入り浸って、喫茶店を次々潰す話。最初は仲間がいっぱい来て注文いっぱいするので、店は儲かるが、次第にそれまでの常連が離れてしまい、フリの客も井上ひさしらの差別待遇にあきれて来なくなり、気付いた店主が十三週くらいで「店変えてくれ」と出禁にしないと、二七週くらいでその店は荒廃し、三六週くらいには、店は人手に渡ってしまうんだとか。そんなこと冷静に書く東北人、こわい。で、アンテナがしっかりしてて、十三週くらいに態度変えて冷たくそっけなくなって出禁を言い渡すのは、例外なく韓国人もしくは中国人経営の店だったそうです。井上ひさしも、そういうこと書くんだから、こういうことは、タブーじゃないデスヨ。頁177。
いちおう巻末に、現代から見ると、などのことわりがきはあります。で、上記は、東日本人の東京での考察なので、西日本ではまた違う様相を見せるやもしれません。
前半は、ネルドリップだサイフォンだと、淹れ方にこだわる作品を集めています。しかし、古い時代に暗中模索で道具を揃えたりのエピソードなので、現代から見てどれだけ頷けるかは不明。物資払拭時代の、代用コーヒーねたも割と入っていて、そっちに関心がある人がどれだけいるかも謎。たんぽぽコーヒーはありません。
そこから、冒頭のカフェオレもそうですが、ウインナーコーヒー、エスプレッソ、カプチーノ、ダッチコーヒー(水出しコーヒー)レイコー、コーヒーゼリーと様々なヒーコが出ます。天下のハルキ・ムラカミがラム入りコーヒーを書いてるので、須加田さんのウイスキーを垂らした珈琲とまではいわなくても、アイリッシュコーヒーは出ないのかよ、と思いつつ読み進めると、かろうじて最終話でアイリッシュコーヒーは出ます。忘れてたんだろうか。エスプレッソが複数の作品で取り上げられていてもなんとも思わないのですが、ウインナーコーヒーとなると、なんか珍しい気がします。
佐野洋子は、友人の、働かないお父さんが淹れてくれたコーヒーなのですが、生まれてから一度も働いたことのないわりに、さして凝ったコーヒーでもなく、味も平凡という。友人のお母さんが、具がチーズのおにぎりを出してくれるのですが、これが作中の皆に不評で、私は具がチーズのおにぎりが好きなので、佐野洋子軽井沢のスポーツカーでタバコスパスパやってろよと思いました。もう亡くなってますけど。頁69。
頁96、團伊玖磨『トルコ・コーヒー』に、「これはこれはの杜鵑、まさに芳香馥郁、鳥哢聲聲管絃に入ると来たもんだ」というせりふがあり、ナニそれと思ったので検索すると、後半は岩波の唐詩選に入ってるくらいの漢詩でした。
植草甚一のは、本人には悪いですけど、中公新書の『コーヒーが回り、世界史が回る』読んだ方が、より深い。当たり前ですけど。
バリコーヒーも出ませんが、どんなコーヒーか私自身よく知りません。トアルコトラジャとはたぶん関係ないんだろう。下高井戸のインドネシア料理屋で飲みました。ベトナムコーヒーは、練乳入り。冒頭の小島政二郎『コーヒーとフィルトル』のフィルターが、ベトナムコーヒーっぽいです。袋に入れて煮出した、マズいマズいと評判のタイコーヒーは出ません。
京都のエッセーばっかり書いてる人が、京都のイノダコーヒやら何やらについて書いてますが、山口瞳のエッセーに一澤帆布が出て来る方が驚きです。その時代もう有名な店だったんだな。店主は、店番しながら平家物語読んでるんだとか。このアンソロジー、どの本から当該エッセー引っこ抜いてきたかは書いてあるんですが、初出まではとっても人月的に回らないので調べてないようで、それぞれが書かれた時期は分かりません。これも、弱点といえば弱点。
エリカの営業時間は午前七時から午後七時まで。午前六時には會澤さんは店に来て支度をはじめている。夜は店を閉めると、詩吟で一時間ほど外出する。帰ってくると、店の掃除。それを徹底的にやる。會澤さんに言わせると、喫茶店というのは掃除をして清潔にすることに尽きる。
なるほどなーと思いました。このアンソロジーは、けっこう著者名で呼び込みしてる感じが強いですが、もっと若い、生きてる人のは高いんだろうかと思いました。以上