『目でみる漢字』(『目でみることば』シリーズ)読了

 相鉄瓦版256号特集で著者が紹介されていたので、読んでみましたテン。デザイン 佐藤美幸(keekuu design labo)編集協力(有)SPOON BOOKS 編集者は苗字だけ。「はじめに」「おわりに」あり。巻末に撮影協力一覧*敬称略、主要参考文献。

目でみる漢字

目でみる漢字

 
目でみる漢字

目でみる漢字

 

 のっけから読めない漢字が出てきます。「かたどる」を「象る」と漢字で書いて、象形文字という概念を「かたち(形)をかたどって(象って)できた字」と説明してますので、ゾウの訓読みが出来ない人はここで置いてかれます。ウソ、なんとなくアウトラインをとらえることは出来るので、置いてかれません。ネイティヴの強み。

頁45に群馬県太田市のジャパンスネークセンターが紹介されていて、初めて知りましたが、熱川のワニ園は温泉地熱を利用してるわけですので、そういうのがないとハ虫類の飼育はぜぜこがかさんで大変だワン、と思い、検索しますと、はたして藪塚温泉という温泉が近くでした。

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頁52

「原」は、崖から水が出ている様を象った象形文字

 だから「原」は、「厂」から「泉」が湧き出て来る字なのか、と分かりましたが、さてその「原」が現在では「草原」「原子」「原始」の組み合わせで、オリジンというか「もと」というか「はら」の意味で活躍するようになった理由はなんでじゃろ、と思いましたが、そこまでは書いてませんでした。2014年に八王子のクリエイトで川越泰博先生の「中国に川はない~さまようパンダ・南京時代もあった北京・傾城の美女たち」というワカワカメなタイトルの講演を聞いた時、「川」という字も草原の意味で使われるのが中国で、だから東部チベットの草原地帯を擁する四川省が「川」の字を持ってるんにゃ、という話があったのを思い出しました。"river"の意味の漢字は「江」「河」にて補われているので、揚子江黄河という名前はあっても、日本の淀川信濃川のように、語尾に「川」がつく川の名前はないんだとか。逆に日本には利根河とか筑後江という地名はないですね。江戸時代の漢学者とか漢詩人とかが面白がって相模江とか言ってないかとも思いましたが、調べません。陸地の「州」は使うんですけどね。遠江(とおとうみ)を遠州(えんしゅう)と呼ぶとかそういうたぐいの遊び。

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本書は頁10、最初の漢字が「川」なのですが、三本線の真ん中が水で、両脇の線はそれぞれ岸としていて、「川」がなぜ平原の意味で使われているのかは不明です。百度では四川は、氓江,沱江,黑水,白水の四つの河川があるから四川と書いてました。

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三章構成で、第一章がそのかたちをあらわした漢字。あとがきでカメラのほうの人が、「山」に見える山をぱぱっと撮ってこいとか無茶ぶりされたとぼやいてます。虹は見つけたら撮れとか、鰈は潜ったら撮れるんじゃいかとか。第二章は、漢字ではありますけど、うるめいわしはほんとに目が潤んでるように見えるから「潤目鰯」とか、そういう章です。カタクチイワシは口が硬いのでなく極端な受け口なので片方しかないように見える「片口鰯」だとか、そういうの。目で見ることばの延長。往々にして漢字名はぎょうぎょうしくて麗々しいので、アスパラガスが竜髭菜とか、アンモナイトが菊石とか、おくらが陸蓮根とか、カメムシが椿象とか、漢詩が雅語っぽくしてしまったのがいけないのかどうか分かりませんが、実物との乖離があるか、見れば成程なのか、を探っています。全然関係ないけど楊逸が爆笑してた日本語単語「土踏まず」はシリーズ未収録だなと思いました。きれいな足の裏でないと撮れない。

撮影協力者一覧にひとりだけ個人の方がいらっしゃるのですが、これは第二章の「狆ちん」の飼い主だとか。狆は室内犬だからけものへんにナカで、「ちいさい(の)」が訛ってちんになったとかならないとか。

第三章は似ている漢字。おぎやはぎ、「荻」と「萩」の区別を私は覚えられないのですが、このネタは出ません。あずきとダイズの回で、大蒜と小蒜が出てきて、後者はギョウジャニンニクアイヌネギ)なんだとか。烏と鳥のところで、チドリを「鵆」とひともじで書く漢字を紹介してまして、千鳥足だから「行」のあいだにトリが挟まるんだとか。しかし「ちどり」で変換すると、「鴴」も出てきて、「行」はロードとかストリートなんだそうなので、往来をふらふらする千鳥足「鵆」と、往来から外れて、溝にでも足突っ込んでまう「鴴」と両方あると分かりました。「衛」と書いても「ちどり」と読むそうですが、これは慣用混同の果てではないかと。

鰈と蝶の箇所で、棘トゲ/いばらと棗ナツメがあげられていて、確かに棗にはとげがあるそうですが、薔薇や山茶花や柚子でなくナツメに「朿」ダブルを当てているのは何故か、ことばなので、たぶん~だろう、しか言えないそうです。数式や化学じゃない。囍。

蛙と桂を比べてますが、そこのコラムで出て来る畦のほうが私にはピンときます。あぜ~くら~♪ 校倉。

私はむじなを空想上のいきものだと思ってましたが、アナグマだそうで、じゃあモモンガも実在するのかと思って検索したら、実在しました。慶応大湘南キャンパスや文教大茅ヶ崎キャンパスのあたりの鬱蒼とした森林地帯(もうありません)では空想上のバケモノとして、やまいぬと同じ扱いでした。ももんが。目で見ることばシリーズでムササビとモモンガの違い扱ってそうな気もしますが、思い出せません。全項目インデックスもないですし。なつめとなつめやし(デーツ)の違いも同上。

おわりに、で、「推敲」の由来について説明しています。こうした、漢字熟語のなりたちとかをグラフィカルに説明する方向に行こうか検討もしたのでしょうが、そっちには走らなかったようで、是非は分かりません。この辺は細かくなると、まず、漢字の読み方それ自体と、その字への馴染み方加減で漢土と扶桑で違いがあるので。冒頭の「かたどる(象る)」もそうですし、例えば、門構えにイチ、市で「閙(どう)」と書く漢字は、騒がすとかの意味で、日本では漢文学のわりとぎょうぎょうしい言葉として知られているだけですが、あちらだと庶民の世界の、新婚初夜でのワルフザケでこの字が使われていて、中国語習う人や在日中国人は、"闹"の北京語読み、ナオnao4は知ってても、日本語で「どう」と読むことを知らないんじゃいかと思います。少なくとも私は知りませんでした。西遊妖猿伝で、閙天の章があるのでそれで知ったです。酒見賢一でも知れるかな。

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漢字コンプレックスもあるし、なかなかその先を見据えた「目で見る漢字」も難しいですが、この本もまた、橋頭保、マイルストーンのひとつであるということで、よいと思います。以上