『モンキームーンの輝く夜に』"Let's go to the MONKEY MOON" by TAKANO TERUKO 単行本&幻冬舎文庫(GENTOSHA) 読了

カバーフォト たかのてるこ(単行本、文庫本ともに同じ写真)

単行本装幀 松田美由紀幻冬舎デザイン室)文庫本装丁者―高橋雅之 文庫本カバーデザイン 松昭教 電子版は文庫版。

私の運命のオトコが、なんでサル顔なわけ!? “日本で一番面白い旅人”たかのてるこが28カ国を旅した末に、ラオスで見つけた最愛の男は、サル顔の自然児だった!? 運命? 勘違い? この恋、どうなる?? 笑いと涙のハチャメチャ恋愛亡命記!

単行本文庫本ともにブッコフで¥220で買って、単行本のみ帯がついてました。単行本は二刷。書き下ろし。四百字詰め原稿用紙379枚。「この恋、どうなる?」と言われても、『ダライ・ラマに恋して』*1を先に読んで、結末を知ってしまっているので、なんとも言えません。

「アナタは、日本人デスか?」旅先でナンパされ、出会ったその日に告白されて初エッチ(しかも童貞)。それでも本気でホレたから、”お持ち帰り”することに決めましたっ! 私とシノヤンは、もう出会ってしまったのだ。この地球上で、今までなんの接点もなかった二人が、これからの人生を一緒に歩いて行こうと思っていること自体、スゴいこと。不安材料を数え出せばキリがないけど、やれるだけのことをやってみよう。この恋が成就するかどうかは、私たちの覚悟にかかっているのだ――。

シノヤンという人は、この方面で覚悟とかしなくてもいい人で。

単行本頁249 文庫本頁251 エピローグ

 大学時代からの腐れ縁であるウシオ(女) は、私の長い話を聞き終えると、こう言い切った。

「あんたなぁ、自然のモノを持ち帰るのは良ぅないで~」

(中略)日本に持ち帰ってみぃな。毎日エサはやらなアカンわ、『あぁ、この子を飼ってるせいで、旅にも出られへん』とかグチグチ思うようになって、しまいには憎たらしくなってしまうでぇ」

タイ人の場合なら、邦人女性がお金を出して日本で居抜きのタイレストランを始めたツバメを中野で見たことありますし、バンコクでバーカウンターつきのムエタイジムあたりにたむろって、現地の兄ちゃんにちやほやしてもらう話もありますので、相手がラオス人だからといって、それとはちがうのかちがわないのか、考えても仕方ないかなと思いました。オージーなどの白人女性の場合、お相手は英語がしゃべれるフィリピン人のほうが多い気もしますが、バリダンサーの場合もあるし、いろいろなんだろうなと。

このシノヤンという人は、遠恋とか概念がないと思うので、寂しい時にそばに別の人がいればなんとかしてしまうんだろうと、読んで思いました。ベッドシーンはそれほどじゅうようとも思われないので、文庫本で削除されてても別にいいのですが、出会って数時間の夕暮れのバイク二人乗りで、いきなり後ろに手をまわして胸をもんできて、よけてもよけても揉んできて、あっけらかんと「きもちいいね~」などとのたまわれる場面は、削除してしまったことで、単行本と文庫本で、読者にとっての彼の人物像が変わったと思います。単行本でその場面を読んだ後だと、慣れてると思われないようかわいい男性のぎこちないセックスを演じたともとれてしまう。ただ、作者の人は、日本で八ヶ月付き合っている邦人男性の恋人とのカラダの相性イマイチなそれや、一般的邦人男性のAVに毒されたセックスと比較してるので、うぶな点は特に高評価だった感じです。

ロンブーの淳あたりに現地に飛んでもらってシノヤンと対談したら面白いかもしれませんが、大物すぎるので企画として成立しないだろうな。かといってそのへんのユーチューバーのMMKの人くらいでは、面白い作品が出来ても、あえて見る人は多くないかもしれません。ようするにそういう男性なんだ、と、続編で別の邦人女性とつきあって、日本在住の作者が振られる展開を読んで思いました。

「私の運命のオトコが、なんでサル顔なわけ!?」。東南アジア最後の辺境ラオスで“旅人OL”が見つけた最愛の男は、サル顔の自然児だった。旅先でナンパされ、出会ったその日に告白されて……それでも本気でホレたから、”お持ち帰り”することに決めたのです! 運命? 勘違い? 不安材料てんこ盛り。笑いと涙のハチャメチャ恋愛亡命記!

文庫本カバー裏のあらすじ。私としては、なんでラオスに行ったんだろうというのが不思議で、それで読んだのですが、けっきょくよく分かりませんでした。スレてなくて、かつ治安も悪くない国でのんびりしたかったんだろう、くらいな推測ですが、あたってるのかどうか。

私がラオスに行ったときは、ビエンチャンからバンビエンまでしか外国人なので行けませんでしたが、たかのサンの時はもう、ルアンパバンはおろか、雲南省国境までふつうに行けたようで、しかし特に特筆することもないのかな? のんびり旅行以外特に印象に残らなかったです。ヤシの実ジュース飲んだり、コウモリの素揚げをバリバリ食べたと言っても、う~ん。最近はこうしたシビエ食も、マーモット食べてペストにかかっただの、コウモリがCOVID-19の変異元じゃいかとか、かまびすしいです。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

タイでタラワーダ仏教の僧侶になったプラ・アキラ・アマロー師らが書いたラオス難民は、ビエンチャンより南の、メコン沿いのサバナケットとかからタイの難民キャンプに入ってますが、たかのサンはそっちには行ってません。別に行かなくてもいいのですが、いちおうメモ。

私はラオ語タイ語と近い言葉で、東京弁と京都弁くらいの距離、と聞いていたので、日本人が「ニップン」(文庫本頁26)で驚きました。台湾語みたい。タイなら、ジープンですよね。コン・ジープン。ベトナムはニャットバーン。タイが英語のジャパンから来てて、ベトナムや台湾は漢字の「日本」からだと思うので、ラオスは日本を指す単語にだけ華人の言い回しが入ったんですかねえ。チベット語で日本人はリビンネーインで、北京語の借用なのですが、それなので、海外チベット人はジャパンネーインと呼ぶこともあると、誰かから聞きました。今後ラオス料理店で、日本って、ラオ語でなんというのか聞いてみます。

文庫本頁31に、乾杯のラオ語が「ニョ~」だとあるので、これもラオス料理店で聞いてみます。もっとも、私は、タイ語で乾杯をなんというか知りません。

シノヤンは本当はシノアンという名前なのですが、関西人として親しみやすいからという理由で、たかのサンはシノヤンと呼ぶことにして、相手に承諾させます。そんなことはたぶん彼にはどうでもよくて、「アナタの近くにいたいデス」(文庫本頁66)「ワタシは、今日、アナタを、食べマス」(文庫本頁98)などが文庫本で削られなくてよかったなと思いました。おくての人は本書のシノヤンから女性の口説き方を学ぼう。私は、読むのがおそかったです。

文庫本頁160、ラオス人は肉体労働が嫌いだから、道路工事なんかはベトナムの労働者がやってたりする、というラオス人の説明。これは、ハングリーなベトナム人が仕事をかっさらってるともとれます。これもラオス料理店で聞いてみます。文庫本頁183の、ラオスは伝統的に婿入り婚という箇所も。

食事は、前述のコウモリ(ページ忘れた)以外に、ふつうの食事として、ラープとカオプンが出ます。

ラープ (料理) - Wikipedia

ラオス観光ブログ-ラオスの麺『カオプン』♪

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私がラオス料理店で食べた鶏のラープ。

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豚のラープともちごめ。

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豚のラープ。

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ヒルのラープ。これはテイクアウト。

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魚のラープ。この日はブリ。日本で手に入るもので作るんだと思います。現地では川魚だと思う。

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カオプン。

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別の日のカオプン。日本では、カオプンはそうめんで作るので、具材やスープに活路を見出す感じ。正直、この店では、タイ風のカレー味でない、ラオス風のトマトスープのカオソーイが食べられる(現地納豆のトナオも隠し味に使われている)ので、そっちをまず人には薦めたいです。

作者がラオスに行ったのは、2003年くらいでしょうか。前年にしまんこの人がベトナム人のツバメとの恋を書いた『チャイ・コイ』*2を上梓し、前川健一さんが、立教大学に職を得て、一年の半分日本、半分タイの生活をしなくなり(?)その一方タイには色と慾に燃えた脂ギッシュな邦人が倍々ゲームのように増加上陸し、Gダイアリー*3バカ売れの頃、なのかな?作者が近藤紘一『サイゴンから来た妻と娘』の逆張りを狙おうとして失敗したとしても、何も言えないのですが、腹話術師の吉本芸人である作者の母(マネジャーが父親)のせりふはいちいち重かったです。作者はぜんぶ即否定しているのですが、考えてみれば、肯定した邦人女性が、彼を略奪した勝者となったわけで(泣きそうになったらごめんなさい)

文庫本頁263 エピローグ

「でも、そんなにラオスが気に入ったんやったら、あんたがラオスに住めばええやんか。呼ぼうと思ったら、お金がかかって大変やろ? あんたがラオスに行くのが一番手っ取り早い話やがな」

 この親は、私を日本から追い出す気ぃか?

ラオス行っても仕事なんかないし、私は今の仕事辞める気も全然ないんよ! まぁ、お父さんがシノヤンの家の畑を見たら、めっちゃ広いし、羨ましがると思うけどな」

 父は退職してからというもの、近所にある小さな家庭菜園を借り、有機野菜作りに精を出しているのだ。

「そのシノヤンと一緒に、ラオスで農業やったらええやんか。それともなにか? そんなに物価が安くて、畑も広いところが借りれるんやったら、家族みんなでラオスに移住するのもエエかもなぁ」

リスクは、社会主義国ってことくらいでしょうか。華人はともかく、外国人の法的地位あやふやなところもあるかも。でも下記の小説ほどの、おかしなことは今はないかもしれません。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

文庫本頁221で、落雷による親族の突然死という描写があり、けっこう突然死って、あるものかなと、改めて思いました。

よし、これで感想も書き終えたので、この本はラオス料理店にあげます。子どもの笑顔の写真とかばっかで、肖像権がイチダンとシビアになった現代*4からすると、やや古びたセンスになってしまっていますが、それ抜きにしても、市場やバスターミナル、なんとかの滝、歌手や有名人のポスターなどの写真のほうが、在日ラオス人のウケがよいように勝手に思ってしまい、しかし、さて、見せてどう反応してもらえるか、楽しみです。息子さんは日本語読めると思うんだけど、もう本書読んでるかもしれない。読んでるとしたら、こうやって振られた女性って、すっごい泣くよね、で、振った男を恨まないように、ちゃんと男性がアレンジやフォローしてる感じがあって、こういう男性って、恨まれるのいやだからそうでないようにするのもじょうずだよね、などの恋バナが出来たら、いいのかなあ。しない気がします。以上

以上

【後報】

ラオス料理のお店に行って、幼少時に来日の難民一世のオバチャンに見せたところ、かな文字は分かるので、「モン」に反応し、モン族のことかと誤解され、ラオスにもモン人はいるという話になりましたが、そうではなく、サルの意味のモンキーで、恋は盲目なのでモンキームーンみたいなタイトルになったと言いましたが、たぶん伝わってません。第一章の章題が「モンキー・“ラオス”・マジック」で、ぜんぶカタカナなので読めるのですが、「なぜラオス人がサルなのか」と、章題ページのブチぬき写真、農道一本道の子どもたちを指さしながら首をかしげるという、まったくもって国際誤解エービーシーの初歩の初歩から会話がスタートでした。

で、日本人女性とラオス人男性の恋の話ですと説明すると、ここの十八番である、ラオス人女性と日本人男性の国際結婚についての話が滔々と始まり、先日も横浜の初老男性が現地に飛んでアラサー女性と会い、とりあえず今は彼女の来日書類申請が始まる予定だとかなんとか、そういう話を聞きました。そういう話はタイ料理店でもフィリピン料理店でもビルマ料理店でもあるんでしょうが、私にそういった話をしてくるのはここ、ラオスのお店だけです。私としてはもうそういう国際結婚の話は、前世紀に放り投げてしまいたいです。ベトナムインドネシアの実習生たちが、かつての中国人留学生たちのように、仲間同士でくっついて、傷ついたり幸せになったりしてるのを、横から眺めてるのが年相応というものです。ラオスは印象に乏しい国なので、まだそういうテも考えるに越したことはないのでしょうか。西炯子『たーたん』で、ラオス女性に狂う邦人男性のエピソードが出るのは、やっぱり正しいのか。

b.hatena.ne.jp

このお店の人はルアンパバンのほうの出身とのことでしたので、クアンシーの滝も出ると話しましたが、そういう写真は載ってないので、そこまででした。モン人の話に戻すと、タイダオ人の写真は載ってますので、そのページを見せました。タイダオのことは知ってるようで、同じタイ系統と言い、その次に文字がちがうと言い、その次に文字のない民族と言い、日本語での意思疎通はそこまででした。帰って検索すればいいやと思いましたが、カタカナで「タイダオ族 ラオス」で検索してもめぼしい結果はありませんでした。

日本がニップン、乾杯がニョ、ニョ、ニョ、ビアラオの話などは本書その通りで、その他、この本にはラープとカオプンと、あとコウモリの素揚げが出ると言うと、コウモリという日本語をちゃんをご存じで、夕方六時くらいになると、コウモリが出る、特にココナッツの花が咲く時期になると、ココナッツの木にコウモリが鈴なりにとまる、お父さんが夜網をかけて、朝のぞくと五匹も六匹も入っている(ここは私が書いてるので、コウモリの量詞は五羽六羽が正しいとか突っ込みたい人は私につっこんでけさい)コウモリは小さくて肉が少ないので、叩いてなめろう状態にして、いろいろと混ぜて蒸したりする。大きいものはそのまま焼いたりする。と、外国人による日本語弁論大会にエントリーしてしゃべった時代がかつてこのオカーサンにもあったのだろうなあ、的思い出話をしてくれました。お父さんとこの人のファミリーヒストリーを聞いたことはまだありません。いつか外野の、顔見知りの客でしかない私も知る日が来るのか、さて。

(2022/10/3)